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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
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Love

 二人は荷物を準備していた。店長の指示は的確なものだったので、順調そのものであった。

「よし、あとはこの商品をまとめちゃえば大丈夫ね。」

 サラは土産物の菓子を箱に詰め込む傍ら、マーは箱を閉じるための紐の束を探していた。二人には一緒に仕事をする感覚が懐かしく感じられた。

「ねぇ、こうやって一緒に作業するのも久しぶりよね。みんな元気でやってる?」

 サラは紐を受け取ると、待ってましたと、身を荷物から乗り出するように答えた。

「ええとっても!聞いてよ。ダン、最近結婚したのよ!ほんとに最近で、ウチも手紙で聞いただけなのよ!すぐにでも伝えたかったわ!」

 マーは一瞬彼女の元気の良さに驚かされたが、驚きの内容はその朗報に変わった。ダンは彼女らの共通の友人であり、幼い頃は三人で野山を駆けまわっていた。気さくな性格で力持ちだが、恋愛にはサッパリであり、恋心などというのは自分のも相手のもなかなか気がつかないタイプだった。そんな彼が結婚するなんて!彼女は喜びに満ちた驚きを隠さなかった。

「え!それはうれしいサプライズね!お相手はもちろんロコーナさんなのでしょう?」

「当ったり前じゃない!何年一緒にいたと思うのあの二人!!」

「ほんとねぇ、あの人たち、恋にはすこぶる弱かったから。」

 ロコーナは彼女たち、そしてダンよりも少し年上の面倒見の良い女性であった。二人は昔から傍から見ると明らかに「両想い」であったのだが、なんと彼女のほうも自分の恋愛に大変疎く、二人が恋心を認識してから告白するまでに年単位でひどく時間をかけたのである。そして結婚までにも年単位で時間をかけていたようだった。マーは大変感慨深く感じた。

 二人はかつての思い出に浸りながら作業していた。サラは紐の束をマーに渡し、彼女は受け取った紐で自分の箱を縛りはじめた。温まった空気が一度落ち着きを見せる。サラは紐がほどけて中の商品が飛び出さないように最終確認をしながら、再び彼女に話しかけた。

「そっちはどう?弟さん、お元気?」

 マーは一瞬手を止め、蝶結びをたった今終えた荷物の箱と仕事を終えた指先をじっと見つめた。少し緩く結んでしまっている。しかし、紐の先は経年によるものなのか、ボロボロになっているためきつく縛ると耐久に不安が出る。紐を彼女は新しいものに取り換えた。脆くなり、崩れてゆく不安はないほうがずっと良い。そして顔を上げて答えた。

「ええ、もちろん、とってもいいわ。みんな元気にしているわ。」

 店長が顔を出して、先に祭の中心となる広場に設営してある出店に向かって店の準備をしておいてほしいと二人に頼んだ。二人は頷いて外出の支度をする。マーは荷造りを終えた大量の箱を魔法で積み上げ、外にある店の大きいリヤカーに乗せようと扉を開いた。冷たい風が吹き込んでくる。




 夜、星々はまばゆく輝く。市の中心となる広場は昼間以上の盛り上がりを見せた。祭のこの時期、市に点在する広場に灯る明かりは地上の星だと書かれたガイドブックを閉じて一希はステージを見上げた。シンはステージの上に堂々と飾られた派手な看板に書かれた文字を読んだ。

「『この大陸、いやこの世界で一番の美人は誰だ!コンテスト前半戦~女子の部~』なるほど。」

 一希は再びガイドブックを眺める。今晩はどうやらこの世界各国から自分の美しさに自信を持つ女性が集まってくるらしい。二人はステージへ視線を移した。ステージの上にはさまざまな衣装を着た女性が立っていた。彼女たちはそれぞれ自分を一番美しく見せる服を着ており、その衣装の種類の多さだけでも十分人目を惹くものであった。しかも、ステージに立つのは衣装を負かしてしまうほどの美女たちだった。彼女たちは天賦の才を十二分に発揮し、努力を決して欠かしていない。一希は練習でクタクタの自分と、努力の人である彼女らを比較してため息をついた。傍から見ると美しさにため息をついているように見えた。もちろんその要素もあった。

「すごいな...俺には縁がないような人々ばかりだ。」

 彼はふと生前を思い出した。女子との恋愛というものに全くといっていいほど縁がなかった彼にとっては、このステージで人々からの羨望を、愛を、ほしいまましている彼女たちとはきっと現在でも縁がないだろう、と考えながら。しかし、彼はふと、ステージに意外で知った顔があることに気が付いた。

「チコ!」

「お知り合いですか?」

 こくり、と頷きステージにいる自分の知り合いをシンに教えた。彼も視線を上げて彼女を見た。彼女は今ちょうど自分の美しい歌声を民衆に披露していたところであった。シンは初めて彼女を見た。その瞬間、彼は「落ちた」。優しげな声、整った顔だち、すらりとした手、優雅な立ち振る舞い...どこをとっても彼女は彼の中で忘れることのできない存在になったのだ。

ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

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