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別室では練習後が続いているのだろうか。こちらに来る人はあまりいなかった。彼も休憩のためにここを見つけていたから、人が少ないのは有難い話だった。新たな友人と静かな空間を共有するのは決して彼の得意なことではなかったが、シンには共感できることが今のところ多く、ただ共に居ることが心地悪くなかった。ただ、少し相手のことを知りたい、という気持ちが彼にはあった。
「なぁ、シンってさ...劇やったことある?」
「いいえ...」
彼は汗を拭ったハンカチを折り畳んだ。
「正確には、Noではないですね...私、ずっと裏方やってたんですよ。我が家は代々大道具の製作をやってましてね。身内はどういうことなのか、みんな表舞台に出ても上手いタイプだったのですが、私は上がり症でしてね。ずっと舞台裏で道具を作ってました。」
そこまで言って彼は苦笑いした。舞台に立つことが苦手な一希も同意を示した。
「俺も」
「同意見の人に会えてうれしいです。それに、私の魔法が、自分で言うのもなんですが...かなり裏方に向いてるんです。だから、今まで表舞台にチャレンジすることなんて考えてませんでした。」
そういうとシンは指を鳴らすような仕草をした。音の代わりに親指と人指し指の間に白い玉が現れる。彼はそれを手の中で捏ねるように弄び、一希は静かにその光景を眺めていた。大きな手の中で玉が粘土のように自由自在に形を変える。玉から円盤へ、長方形のブロックへ。
「これ、実は磁石や接着剤のかわりになるんですよ。魔力を調整すると粘着力も変えられます。」
一希は魔力の固まりブロックを受けとると、同じように手で転がして見た。徐々にブロックの形は崩れていく。おにぎり作るように握ると三角形になった。
「これも魔法かぁ...」
感心して魔法おにぎりを眺めている一希。その横で静かにシンの目が光った。
「すごいな、ありがとう。」
一希がシンに魔法の塊を返そうとする。が、手から離れてくれない。
「あ、あれ?」
シンはにやっと笑った。悪戦苦闘しつつそんな彼を見た一希は実情を理解した。
「なんだ、お前のいたずらかよ~」
「ごめんなさい!」
彼の手から魔法の塊が離れて持ち主の元へ戻る。一希はシンを肘でつついて笑って見せた。彼らは顔を見合わせて笑った。その時、時計の針が午後4時を示して、なんとも心地よい音を流す。練習再開の合図だった。
「そろそろ再開する時間ですかね。」
「そうだな」
二人は立ち上がって顔を見合わせ、一希は肩をすくめた後に笑顔で言った。
「ここまで来たら仕方ない。頑張ろうぜ。俺たち、今二人組の主演なんだしサ。」
一希についてホールを出て丁寧に扉を閉めた後、笑って答えた。二人は並んで歩きだす。
「ええ。」
「練習終わったら祭、見に行かないか?」
「もちろん!」
会計を済ませ、サラから店長の紹介を受けたマーは早速挨拶を済ませた。優し気な顔つきの中年の女性だった。店舗には客がいないものの、この店の本領発揮するのは祭りの夜に出す出店らしい。そここの店はかなりの人気を誇り、人手が足りることが無いほどであった。そのため、彼女がサラの友人だと聞いて、すぐに面接になった。その後ほとんど流れるように採用され、店長は手際よく彼女らに説明した。
「じゃあ、祭の間よろしくお願いします。今夜のイベントが始まるときにちょうどお店を始められるように荷造りをお願い。持っていく商品は、そこのランキングのポスターの商品だけで正直十分だと思うわ。どちらかというと時間重視でよろしく。私も裏でこまごました準備しているから、何かあったら気軽に声をかけて頂戴。」
壁に貼られたポスターを店長は指さす。ポスターには、この店の売上ランキングベスト10が掲載されている。雑貨小物と食料品がなかなかバランス良く売れているのがわかった。二人は早速準備に取り掛かる。
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