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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
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Festival 7

「うそ!なんでサラがいるわけ?」

 マーは旧友の手を取った。この暖かさは間違いなくサラだ。

「ほんとよ!こんなにいい機会逃すなんてもったいないじゃない。マーも、同じでしょ!」

 サラは右目を閉じてウィンクして見せた。左目も半分くらい閉じてしまう、その不器用さが彼女の魅力の一つでもあった。彼女らは固く握手してから手を解くと並んで店内を歩き始めた。

「ねぇ、サラ?貴方は今回のお祭り、どんな風に商売しようとしてるの?うちは今、計画中。」

 サラはある天日干しされた魚が数匹入った袋を持ち上げ、ずれた値札の位置を見やすく修正すると袋を売り場に戻し、少し恥ずかし気に苦笑いした。

「チャンスを逃すわけにいかない、とは言ったのはウチなんだけどさ。実は仕入れのタイミング逃しちゃってね。ちょっとゴタゴタがあって...とりあえずここ時給高かったからバイトしてるの。」

「あら、サラにしては珍しいわね...そういう場合ならバイトも選択肢の一つよね...リスクも少ないし...ゴタゴタって聞いても大丈夫なの?」

「ええ、大した問題じゃなかったのよ。ここへ来る道中の魔物との戦いがちょぴり長引いて、仕入れの時間に遅れちゃっただけなの。すごい活気があったものだから、ウチが来た頃にはめぼしいものがなくなってて。で、どうしようかって考えていたら、販売員募集の張り紙が目に入ったわけ。」

「なるほどね。確かに今回はかなり活気があるものね。」

 マーはサラに会計をしてもらう。彼女たちの目に、レジの後ろの壁に貼られた求人要綱の紙が目に入った。サラは袋に菓子と乾物の袋から代金を受け取った証拠の印をつけながら顎でポスターを示した。

「これを見たの。」

マーはその紙を、主に数字の部分に注目して眺める。なかなか良い条件である。

「なるほど。こりゃいいわ。」

 マーは少しの間顎に手を当てて考えた。彼女はやはり上手い。ミスを素早くリカバリーする技術がある...自分もこのような技術を身に着けるために努力しなければならない。リカバリーしなければいけないミスが自分には沢山あった。

「そうだ!」

 マーが思考に浸っていると、突然サラが声を上げた。マーが目を丸くして彼女を見る。

「店長さんがね。夕方はめっちゃ忙しくなるから、もう一人欲しいって言ってたのよ!もし良かったらバイト一緒にやんない?」

 久しぶりに再会した友人からの提案を断る理由など彼女にはなかった。



 一方、一希とシンは市議会の舞台のあるホールで練習の休息をとっていた。普段は講演会などに使われているらしい広いホールだった。慣れないことをするのは大変疲れるもので、一希はすでに疲労たっぷりの顔で、椅子にもたれかかっていた。椅子にはつまらない講演会の際に快適な眠りを提供するクッションと肘掛けがあった。

 山なりになった背もたれの上部のへりに首を乗せ、上を向く。天井にはこの国における神らしき者が描かれており、油断していた一希は神の取り巻きである一人の天使と目が合ってしまい、彼は開いた台本を顔の上に乗せた。ここまでのことを思い出す。最初に舞台上がった時、緊張からまったく動けなかった。それなのに(初日だからだろうか)役者先輩たちは優しく指導してくれた。練習の厳しさよりもむしろ、期待に答えなければ、うまくやらねばならないというプレッシャーのほうが彼にとって大きな負担になり始めていた。

 首が痛くなってきたので、台本をとって姿勢を整える。何気なく台本を眺めていると、自分と台本の間に突如コップが現れた。

「一希さん、少し休憩されたらどうですか?私もしますし。」

 コップを支えていた腕はかなり筋肉質で、声は繊細さを感じさせられる。このアンバランスさから直接顔を見なくても一希には声の主がシンであることがわかった。彼は礼を言ってコップを受け取る。

「お隣いいですか?」

「もちろん。いや、ほんと疲れたね。」

 彼の隣にシンが座り、言葉に同意を示すように頷く。良く鍛えられた体は席を狭く見せた。一希は改めて彼を良く見た。落ち着いて彼と座ったのは初めてかもしれない。そのくらいここまでのことが彼には目まぐるしく感じた。

 シンは、見間違えるほどに黒に近い茶髪で、肩につかないようすっきりと整えられていた。最初に出会った日は、屋根で作業をしていたからだろうか、短い髪の毛を無理やり後ろでまとめていたが、今日はオールバックだった。周りがシンプルにまとまっている故に伏目がちな目の奥にある黄緑色の瞳が大変目立って見えた。体は一希よりも一回り近く大きいため、堂々と振る舞えば勇敢な者の役が良く似合っただろう。しかし、彼の仕草、声、あらゆる面は勇敢とは逆を突っ切り、その大きな体は、他の椅子と見比べたとき、彼の椅子を小さく見せる仕事しかしていなかった。台本のページをめくる手つきは心なしか慣れたものにみえた。市長の話では名家の長男らしいが、おくびにも感じさせなかった。

ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

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