Festival 6
活気に盛り上がる中央のステージのある広場から少し北。市の北の広場には舞台がついた市議会の施設があった。木製のこれは祭りのあいだ劇団が貸し切りで使用することができた。二人の素人役者はここで指導を受けることになった。
一希は舞台を見渡した。広い部屋の手前にステージがあり、彼は体育館のステージを思い出した。自分たちはいま舞台の下にいる。
「とりあえず、うちのミュージカルがどんな感じでやるか見てください。」
ペッタがそういうと、手で舞台へ合図を送り、一希とシンはステージに目を向けた。
合図を受た舞台の上市長の挨拶の終わりを飾る最敬礼を皮切りに、音楽が流れだし、舞台袖から派手な衣装を身にまとった人々が躍り出る。音楽に合わせて役者たちは歌うように台詞を吐く。映画やドラマの撮影を生でみているような感覚に一希はなっていた。話はあの台本の話のようだ。自分たちがやる役には代打が入っている。
「すごいな...」
彼は思わず感嘆の息を漏らした。となりで鑑賞していたシンも首を縦に振り同意を示した。
「ええ...とても素晴らしいですね」
シンは一希を見て笑いかけた。しかし眉を顰めていた。そして彼らの邪魔をしないように小声で続けた。
「となると、問題はあと一つだよね。」
「ああ」
今度は一希が同意を示す番だった。しかし、先ほどこちらへ来たリアクションほど自分は大きくアクションしなかった。同意は相方にしか伝わらないように気を付けた。彼はもう一度ステージで演じられている劇へ目を移す。これをやらなきゃいけないということだ。一人の女優と目が会うと彼女はこちらへウィンクしてみせた。彼女はどうらやここではかなり有名な女優らしい。プロと混ざることに彼らはすでに尻込みしていた。音楽が大きく鳴り響き、話がさらに盛り上がりを見せたことを示した。二人の主人公たちが旅に出たのだ。
街中をマーは観光して回っていた。荷物は宿に預けているので、少しでも油断すると肘が他人にあたりそうな人ごみでも身軽に移動することができた。もし大きなリヤカーを引いてこんな雑踏をあるいたら今頃誰かと揉め事になっているはずである。
観光とは銘打ったが、彼女はこれからの商売の計画を歩きながら練っていた。同じ祭に浮かれる市でも場所によって売れる品が異なる。住宅街の近くは食べ物を買って帰る人が見えるし、広場の近くでは祭に関する「限定品」が飛ぶように売れていた。彼女は預けた荷物を思いうかべる。生ものはここで仕入れられない限り販売不可能。旅路に役立つものならあるので、市のはずれでこれから帰路につく人々相手の商売がよいだろうか。
思考を巡らせ、足に群衆を上手に避けさせながら、彼女は土産物の店に立ち寄った。思考は一度商売を中止し、頑張っている二人の友人に何か買ってやるべきだというものに落ち着いた。店の外で祭に関する商品が販売されているため、店の中はそこまで観光客がいなかった。彼女はのんびり商品を見ている。
菓子、お守り、文具...。無難なもので溢れかえる店内で彼女は役者への道を探索する二人への土産物を探した。せっかくなので、二人お揃いのペア商品でもしようか。足がお守りのコーナーへ向かう。ペア商品はどれも恋人向けだった。足は止まることなく、菓子のコーナーへ旋回し、彼女はチョコレート味とイチゴ味のマシュマロを買い物用の木のカゴに放り込んだ。シンが甘いのが苦手でなければ良いが。少し止まって考えた後に不慮の事態を恐れた彼女は、しょうゆ味の煎餅の購入も決めた。
近くには乾物コーナーもある。どどれも長持ちしそうな見た目だ。値札の隣の下の商品説明にはそれを証明する言葉がいくつか書かれている。
長持ちするなら、遠くの大切な人への土産にもなる。彼女は脳内で思いうかべた。弟のダイ。元気にしているといいが。故郷の両親、こちらは今でも私よりずっと元気だ。それに友人のサラ。勇者が転生前は戦線を共にしていた。自分が精神的に疲れているときも、どんなときも支えてくれていた。目を閉じると姿が浮かぶ。
サラは、燃えるような赤いハーフアップのヘアスタイルに青いバンダナが映える赤目の女性で、お気に入りの薄橙のエプロンは彼女の整った顔立ちを目立たせる名脇役に見えた。自分よりも少しだけ背の高い中肉中背の体形。武器は杖で、魔法を使うこともできたが、それで殴っていた。
ぼけっとそんなことを考えていると、彼女は何かとぶつかった。
「ごめんなさい!」
反射的に謝る彼女の脳内で友人の姿が消える。思わず閉じた目を開くとそこには同じ姿があった。
「サラ!」
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。




