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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
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Festival 5

月が夜を照らす頃、一希とシンはディナーショーの会場にいた。高級レストランに不慣れな男子二人に次から次へと小洒落て食べにくく、おまけに小さい食事の乗った皿が襲い掛った。同じテーブルでレオ市長は手慣れた様子で食事を進めていた。正面の舞台では、オーケストラの生演奏が行われていたが、一希とシンの耳にはあまり入ってこなかったようだ。彼らが高級品達から勝利と栄養をもぎ取った頃には、すでに最終楽章が始まっていた。食事を終え、無事ショーも終了した。拍手が鳴りやみ、落ち着くと一希は市長に尋ねた。

「俺たちは一体なにをすればよいのですか?」

 口を拭ってにっこりと市長は答えた。

「主役ですよ。」

「そうなんだけど...具体的に。」

「失礼しました。先ほど見ていただきました台本がありますよね。あれをお渡ししますので基本はそれに沿う形です。ほとんどは音楽に合わせて喋っていただき、最後に戦闘演技がある程度です。戦闘は慣れていらっしゃるでしょうから、いつも通りで大丈夫ですよ。我が劇員もなかなかの腕前の方々ですから、演劇用の偽の剣を使用しますし。」

 なるほど、彼は頷くと「帰還する伝説(仮)」と書かれた本をパラパラと捲り、話の概要を確認した。二人の男の主人公が力を合わせて悪い巨竜と戦う話であった。一人は「センネ」。魔物からの襲撃で記憶を失いながらも戦い続ける人物であるようだ。もう一人は「スー」。知識が豊富だが、非常に憶病な主人公の幼馴染であった。巨竜は山に住み、記憶を失ってもなお勇敢に戦い続ける一人の主人公に胸を打たれ、もう一人の主人公も勇気を出す。勇敢になった相棒の姿から主人公は記憶を取り戻す。記憶と勇気を得た二人の合わせ技で巨竜を倒し、村に帰還するという典型的な友情ものであった。

 彼は、分かりやすいストーリーではあるものの、これを演技するとなると非常に難しいだろう、と考えて首を軽く捻った。

「...なるほどなぁ。タイトルは(仮)なんですね。」

「ええ、実は脚本家さんが生前にいくつか草案を残されてまして...せっかくなので投票で決定しようかな、と。明日明後日で二度投票の機会がありますから、その時に頼んでみようかなと思いました。」

 やはり大がかりなミュージカルになるようだ。彼は重圧に押し潰れるようなうめき後を小さく上げた。それでも時間は過ぎていき、翌朝から練習が始まる。彼は決意を新たにしなければなくなったようだ。




 再び月に主役の座を譲っていた太陽はふたたびその場に躍り出ていた。市の中の人々もこの祭りの騒ぎに半分踊っているような人々がほとんどだった。マーは昨晩からずっと各国から訪れた行商人たちや祭りに浮かれる人々相手に商売をしており、演技指導に足取り重い一希に対し、汗水垂らして働くこと(利益を稼ぐこと)に足取りを軽くしていた。

「朝から元気だなァ、おい」

 彼女は帳簿から顔を上げた。

「ええ!そっちは今日から練習?私すっごい本番楽しみなのよ!」

「...絶対辛いからなぁ...」

 ため息をつく彼に彼女に笑いかけた。

「私はできるって信じてるわよ...それに貴方の演技を見てみたいのよ。」

 意外な反応に一希は不意を突かれてキョトンとした。時計が鳴り練習時間が近づいているのを知らせた。


 早朝から様々なパフォーマーが登場し盛り上がりを見せる市中央の広場では、チコが地図を見ながらあたりを見回していた。彼女は自らを助けた勇者を探してこの市へ来た。

「勇者...どこにいるのかしら」

 周りには何やら所謂「美女」が多かった。高級品で身を固めた者、花飾りのついた白くつばの広い帽子をかぶった者、化粧の濃い者、典型的な魔法使いの衣装を纏った者、露出の高い服を着た者...上げればきりがないほどであった。ふと上を近くの張り紙をみると「美女コンテスト」と書かれていた。彼女ずいぶん安直な名前だと思った時遠くから声が聞こえた。

「参加者の皆様はこちらへいらしてくださーい!!」

 声に呼応するように周りの女性が一斉に広場中央の舞台へと駆け抜け、彼女も足を向けた。逆らうのも大変だし、人が多いなら勇者がいる確率もきっと上がるだろう。彼女は勇者を追いかけていた。人ごみに流されながら歩くと、急に人の群れが止まった。彼女も合わせる。再び群衆を動かした声が響いた。

「では、ここで締め切らせていただきます!」

 彼女の隣に立っていた花柄のワンピースの女性が彼女を肘でつついて言った。

「あなたもなかなか素敵ね!でも負けないから!」

 チコは驚いて近くの係員の持っている旗を見た。「参加者最後尾」と書かれた旗を持っている。彼女は溜息をついた。祭りの流れを甘く見ていた。しかし、舞台に上がれば人探しは容易になるだろう。彼女は盛り上がる人間たちを半ば軽蔑しつつ利用してやろうと考えた。

ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

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