Festival 4
「えっと、その...」
断わればいい、勇気を出すんだ自分!一希は自分に言い聞かせ口を開こうとした。
「どうか頼まれてくれ!」
レオ市長が再び両手を合わせて頭を下げた。一希はどうもこういうのに弱く、少々卑怯な手を打ってしまった。
「...俺は構いませんけど、ツレがね...行商人なんで、いつまでもじっとしているワケには...」
そして一希はマーを頼み込むような眼で見た。どうか俺の気持ちを汲んでくれと。彼女は小首を傾げ、それから思慮深げな笑顔を見せた。そして口を開いた。それもかなり興奮した口調で。
「私は全く構わないわ!!めっちゃ商売になるし!!」
一希はかつて卑怯なことをすると自分に帰ってくると教わったのを思い出した。むしろ逃げ場がすっかりなくなってしまった。彼女は「これでおっけーでしょう?」と言わんばかりの笑顔をこちらに向けてくる。そういってほしかったんじゃない。彼は声を上げようとした。だがそれは震える声に遮られた。
「ありがとうございます!」
レオ市長より早く、こちらの答えも聞かないままペッタが礼を言った。
「本当に...ありがとうございます...この台本は、魔物との戦争で亡くした父の...遺作だったのものですから...父がこの記念すべき時のためにしたためていたものだったんです...」
彼女の目から涙が伝った。一希ともう一人の男がこの後どうなったかはもはや言うまでもない。
市長は今日の夕食で改めて詳しい説明をすると言い、二人にディナーショーへの招待券を渡した。そこには、この市一番のレストランのもので、夜8時からのが記されていた。市長がマーの分の予約をしようと席を立った時、彼女はそれを断った。
「あ、私は大丈夫です」
彼女の目が青く輝いた。奥に積まれていた彼女の荷物の山から算盤が飛び出し、彼女のもとへ飛んでくる。彼女は喜びと欲望に満ちた目で算盤を弾きはじめた。
「いまのうちに一希くんのグッズでも作っちゃおうかしら?もちろんそちらの方も。ねね、どう?」
「いえ、私は結構です。」
「俺も」
筋肉質の男は苦笑いして断った。一希も同意するように頷く。
「二人とも謙虚ねぇ...私だったら絶対喜ぶのに!と、いうかもしかして貴方に直接自己紹介してなかったわよね。私は行商人のマー。よろしくお願いいたします。」
彼女は手を叩き、椅子から立ち上がり頭を下げた。一希も続き、男も笑顔を見せて返した。
「私はシンです。よろしくお願いいたします。」
レオ市長とペッタも立ち上がって再びあの大げさな最敬礼をし、市長は二人の手をとって言った。
「本当にありがとうございます。こちらの我が儘につき合わせてしまい誠に申し訳ありませんが、これからの期間、よろしくお願いいたします。」
「なぜだっ。」
ところかわって熱狂的な騒ぎに包まれる市のはずれ。市へと繋がる道を歩く人々は、大荷物を抱えて陽気に歌っていた。日が傾き始めたにもかかわらず、人々は舞い上がっていった。一方で道端の切り株に座る騎士の男は手紙を封筒ごと握りつぶして一人悪態づいた。封筒に入っていた小さな匂い袋が下に落ちる。
「子守りの次は雑用係か!」
騎士の男は首を垂れた。つばが広く白いアサガオの飾りがついた帽子を被った旅行客の女性が匂い袋を拾って男に声をかける。男は水のように透き通った青髪をかきあげて顔を上げた。整った顔立ちで愛想いい笑顔を浮かべ礼を言う。女性は男の肩に手を当てて囁いた。
「あなたのでよかったわ。でも気を付けて、祭りの最終日は満月のようですから。」
「そちらもお気をつけて、新月になると良いですね。」
彼女は立ち上がり去っていく。彼女が匂い袋を持ったまま流れゆく人の群れに消えていくのを見送ると男は切り株から立ち上がった。市の中へ流れ込んでいく人々とは逆行して、群衆たちから離れてゆく。男の耳にはすれ違う旅行客たちの声がよく聞こえた。
「ねぇ、あの人、超イケメンじゃない?」
「ほんとだ、コンテストでるのかなぁ...」
勝手に他人のことを話すな、と心の中で再び悪態づきながら男はぐんぐん歩いてゆく。市から遠ざかるにつれて人を減っていき、やがて彼を見る人はいなくなった。彼は道を外れ、一言つぶやいて森の中へ消えていった。
「祭りはこれからだ。」
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