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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
26/179

Festival 2

 独りの観客が舞台を指さし、群衆に静まるように叫んだ。一瞬にして場は静まり返り、一希も群衆も反射的に舞台に目を向けた。やがて静寂を破るように一人の声が広場を駆け抜けた。

「ハロー、レディース&ジェントルマン!!」

 半円のステージの中央に、声の主は堂々と立っていた。背が高く、中性的な美しさを持っていた。ウェーブのかかった腰まであるような緑の長髪を風に靡かせ、長い睫毛に隠されることなく輝きを放つ金の瞳、この声の主のどこをとってもミュージカルの登場人物が劇から抜け出して喋っているようだった。一希は、自分はミュージカルをしたこともないし、舞台に立つなんて勘弁というガラなので、よくこんな声が出るな、と感心して彼の声を聞いた。

「本日はわが市の祭に参加していただきありがとうございます。前夜祭も、この祭の準備もすべてが無事に終わったのはひとえに皆様のお力のおかげでございます。あとは皆様、思い切り祭を楽しむのみ、それではまずこの祭のプログラムについてお話させていただきたく存じます。」

 踊るようなテンポで一気に挨拶を済ませると、彼は長い体を折って最敬礼した。礼に合わせるように歓声があがる。ミュージカルからの脱走者は講演会を続けた。

「まず、本日はゲストを決める日。二日目は美女コンテスト、翌日は美男コンテスト。四日目は感謝の日、即ち最終日への休息日で、最終日はミュージカルの披露会です。」

 美女コンテスト、という言葉に合わせて男らの歓声が、美男子コンテストという言葉がくれば女らの歓声が上がった。そして最後まで言うと男女ともに再び惜しみ無い歓声が上がった。

「ありがとうございます。ご挨拶は市長のレオがさせていただきました。」

 彼は再び深い礼をし、にこりと笑い、続けざまに上がる歓声に手を振って応えながら、舞台袖に向けてアイコンタクトを送った。


 舞台袖からこれまたミュージカルから抜け出したような麗人がブーケを持って現れた。深紅のバラの花のブーケを抱えたこの人物は、一希からしてみると、市長と同じく中性的な美しさを持っていたが、金色の髪はショートカットで、聊かボーイッシュな印象を受けた。彼は市長の隣に立つと、やはり演劇じみた大げさな挙動で最敬礼をして声を上げた。一希はそういったことを考えながら話半分に聞いていたので、その張った声にビクリとした。

「それではゲスト決定を行います!」

 麗人がブーケを投げる。ブーケトス、どこまで芝居かかれば気が済むんだと、呆れた一希も、息をのむ群衆とともに、そのいく先を眺めていた。悪戯好きの風はこれを弄び、すこし遠くまで運んだ。ふわり、と高くにそれを浮かべてくるくると回す。群衆のうちの何人かもくるくる目を回した。風はこれに飽きると、広場の外周の一つ家の屋根の上に、いや、屋根を塗り替えていた人の頭の上に落ちた。皆の注目がいっぺんにその人へ移った。

 注目の的になったの筋肉質な男だった。ブーケは頭の上をバウンドし、足元に落ちた。彼は人々の視線にはすぐに気づかず、それを拾って不思議そうに眺めた。花束を包む白い紙についたペンキが彼の指につく。ペンキはすぐに固まった。群衆も一希もその様子を眺めていた。

 少ししてから男は視線に気がつくと、慌てて恥ずかしげに顔を隠そうとした。その拍子に男はペンキの入ったをバケツに足を突っ込むと、そのまま屋根から滑り落ちた。

「わっ、助けてくれ!!」

 男が叫ぶと、一希は反射的に人の群れから飛び出た。落下地点へ走っていく。男が地面にぶつかるまえに一希は手を差し出した。

 間に合ったか、恐る恐る一希が目を開く前に歓声が沸き上がった。勇猛果敢にも自分よりも大男をお姫様抱っこしようとし、見事に成功させたのだ。一同からの歓声はやがて喝采となる。一希は笑顔を浮かべたが、内心腕が限界だった。

「ありがとうございます。助かりました。」

 男の声を聞いて一希は素早く彼をおろした。ほとんど落としかけたようなものだが、この男も含め皆一希がヒロイックに人助けを完遂したと思っていた。男が顔を隠そうとしたときに落としたブーケが一希の頭のうえで優しくバウンドして地面に落ちた。


「素晴らしい!!」

 レオ市長と麗人は拍手をしながらこちらへ向かってくる。二人とも舞台から降りていた。どうやらこの筋肉質の男が滑らせたとき彼らもとっさに動いたらしい。市長は嬉しそうに声を張り上げている。

「なんて素晴らしいのでしょう!!」

 市長はブーケを拾い、麗人に手渡すとなるほど少しわざとらしく、まるで歌劇かというほど、大げさに言った。一希の背骨には、反射的に悪寒が走った。

「これはもう、」

 市長は一希と大男の二人の手を取り、高く掲げ良く通る声をあげた。

「今年のゲストはこの二人の他、無いとは思いませんか!?」

ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

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