Intermezzo
男は体が浮く感覚で目を覚ました。
フリーフォールの落下前のような不安定な感覚。周囲は完璧な白で埋まっている。一滴の汚れもない。
あたり一面、白
男は頬をつねった。
痛みがある。
よくある現実を示す痛み。
非現実的な、白
男は自問自答した。
俺、死んだはず、だった。
どうして痛い?
つねった頬はきっと赤いがまわりは、白
ふと男が顔を上げると、白い世界の隙間からさらに眩い白い光が見える。一度それをみると、周りが若干暗い白に見えるほどの眩さだった。
男は思わず目を細めた。
今までみてたのは本当に、白?
遠くから声が聞こえる。
「突然こんなことをしてすまない。でもキミは死ぬ運命だったんだよ。家族のことは心配しないで...」
男は声の発信源を探した。どこにも何もない。男は仕方なく再び眩い光を省みた。結局のところ発信源をつかむ前に声は途絶えたのだ。今はあの光以上にヒントとなろうものがあるのか!
少し光に向かって歩き(男は通常の重力下と同様に歩けることのひどく狼狽したが)光を見ると、さっきよりもずっと大きくなっていることに気付いた。果たしてこれは自分が猛スピードで動いているのか。光からこちらに来ているのか。それとも、光が強くなっているのか。
一つの仮説を検証するため男は立ち止まった。光は大きくなり続ける。ともすればが光がなんらかのアクションを起こしていることが確定する。男は茫然と光を眺めていた。光はみるみるうちに大きくなり、やがて男を包んで消えた。
男は光に包まれた瞬間、思わず眩さに目を閉じていた。しばらくして目を開くと、先程とは違う場所にいるのだろうと確信した。そこは太陽光が降り注ぐ草原だったからだ。しかし、目の前にはまあるい光が行列をなして動いていた。まるで牧場で羊が犬に追いたてられるように全員が一方へ動いていた。丁度この男と太陽光以外のあらゆるまあるい光が羊であった。あまりにも奇妙な光景だった。列が長すぎて、犬に値するもの存在の確認はできなかった。男は違和感を感じながら、光の行列を最後尾に向かって歩きはじめた。光たちは男に話しかけることもなく動いている。
男は行列の一つの光を見ると、顔のようなものがあることに気がついた。最初は思わずのけぞったが、失礼に当たらないよう列を遡りながら顔たちを観察することにした。
しばらくすると、男は自分が死んだことを再確認した。顔のなかに最近去報を聞いたものがあったからだ。もう少し列の手前から顔を見始めれば自分を愛してくれたお祖母ちゃんと再会できたかもしれない。男はそんな後悔に苦笑いしながら列を遡り続けた。
意識すると、彼らの服も若干見ることができた。鎧を着た豪傑そうな男の戦士も、高貴な賢者のようなローブを纏った女も居た。これは男によるこの世界の時代考証に敵対的だった。
ふと、列と反対側を見ると遥か遠くに縁のない鏡があった。鏡のなかでこの列を遡る男にそっくりな男が手を振ってこちらを呼んでいる。鏡の中の自分が話しかけるなんて、なんて定番なんだろうと考えながら、手を振られた男は鏡に近づいた。鏡の中の男は外の男に親しげに話しかけた。
「やぁ、カズ。突然ごめんな。君しか頼りになる人がいなかったんだ。君なら大丈夫。少し記憶が飛ぶかもしれないけど、きっと君なら大丈夫。」
「大丈夫、と言ってもらえて嬉しいが、どういうことだい?」
鏡の中の男の親しさとは反対に鏡の外の男は少しきつく尋ねた。中の男は柔らかな口調で答えた。
「君はこの先の世界を救う勇者になるんだ。」
外の男は突然のことに言葉を失った。男が言葉を再び見つける前に、突然鏡の中から腕が伸び、外の男は鏡のなかに引き込まれて、代わりに鏡の中の男は外に出た。
「ごめんな...」
そう呟くと鏡から抜け出た男は光の行列へ向かう。自由意思を失ったかのようにまっすぐに。一方で鏡に押し込められた男は鏡を叩くが、手を痛めるだけだった。茫然自失としている男を草原へ来る時の白い光のように闇がくるんだ。
ご読了ありがとうございました。
現在一話は1500〜2000文字程度の長さ予定しています。
拙作ですが、何卒よろしくお願いします。