Nigth 2
場は戻り、一希とルートは焚き火を前に雑談に花を咲かせていた。
「あんま知らないから深い話ができないけど...できる限り答えるよ。」
ルートは謙遜して、と一希を持ち上げた。少しノリに乗った彼は医療ジャンル以外にも、というつもりで言ったのだが、失敗していた。
「じゃあ、内臓とか見えないところは、さっきの遠隔手術以外はどんな治療をされてるのですか?」
無知なところ突かれた一希は言葉に躓いた。同時も彼には引っ掛かることがあった。何故彼は内臓のついて聞いたのだろう。もしかして彼はそこが悪いのか。そうだすれば...彼は口下手ながらルートからさりげなく聞き出そうと試みた。
「胃カメラっていう撮影機を体内に入れてそこから胃を見るシステムがあるぜ。そして腫瘍を発見して治療する。どっか気になるところでもあるのか?」
結果として知識がないのを誤魔化すことになった上に全くさりげなく無い。一希は久しぶりに自分の口下手さを呪った。ルートは彼の様子に気づかず、体育座りのまま胸に手を当てた。
「最近、ここが変なんです」
一希は驚いた。手の位置は心臓部で、彼がとっさに思い付く心臓の病気は大半が重病だったからだ。
「えっ、大丈夫なのか?戦いの時とかそんな素振りなかったのに...」
「ええ、不幸中の幸いで戦闘や仕事は大丈夫なんです。でも別のときは、ここがドキドキするのです。」
「大丈夫かよそれ...」
一希は脳内辞書から適合する病名を探しながら返した。まだ出会って間もないとはいえ、友に窮地を切り抜けた仲間だ。とても心配だった。
「なるほど、どんな時になるんだ?」
「...移動中に多いんです。そう、今回も、魔物の洞穴に行く前の街道でお話ししたときとか」
街道で、と思い返すと女二人組が恋話に花を咲かせていた頃だろうか。そんな時から、と一希は考えていた。たしかルートはチュリアの話を聞いて顔を赤くしていた。ふと、一希の頭に別視点の答えが過る。もしこれが当たっていれば茶番劇だが、心臓病よりよい結果だ。彼はルートに問診した。
「なぁ、もしかしてそれって大体チュリアと一緒に居るときじゃないか?」
一希の答えは図星だったようで、彼は食いついてきた。一希は安堵と呆れが同時に来た。騎士道一筋はいかんせん弊害があるようだ。
「そうなんです‼もしかして彼女が行動をするたびにドキドキするものですから、もしかして香水の成分に原因があるのかと調べたのですが...仕事以外の時なんて向かい合うだけで、もう!!」
ルートが天然なのを一希は断定し、診断を下してやることにした。
「いや、お前それは恋だろ」
病人は診断を受け真っ赤に発熱した。重症だ。彼は丸まったまま膝に顔を埋めて蒸気機関の音が聞こえんばかりに呻く。
「ああ、俺はなんて恥ずかしいことを言ってしまったんだ」
「まー、病気じゃなくてよかったんじゃね?香水のアレルギー検査は一応したほうがいいかもだけど。」
一希は心底呆れていた。だが、不思議な安心感もあった。まるでこのゲームのような世界で、ゲームのキャラのように役割以外の彼らは存在しないのではないか。また、あったとしてもこちらとは大きく異なる感性持つのでないか、と。
しかし、問診を通しこの世界の人々もこちらと同様に勘違いをし、不安を抱え、やっと打ち明けて思いもよらない答えをもらう人であることを知った。
彼らも弱い人間なのだ。ある意味、当たり前だが、不安に思っていたことが解消されて、一希は安心した。今の彼にとって唯一の心配事はの病人の呻き声が魔物を呼ばないかくらいだった。
ピュイ。
場面は翻り、決戦の舞台であった洞窟の前。苛立ちを隠さぬ騎士の呼び声に、何か小さな生き物の声が、ピエロの返事に先立って聞こえた。
「はぁーい、今、今。これこれ、襟をかじらないでくださいまし。」
後半はどう考えても騎士に向かって発せられたものでないことは彼も理解した。やがて両手と頭に合計三匹の手のひらほどの小さなトカゲをのせたピエロが姿を表した。
「お待たせしましたァ。この子達を向かえに来たんです」
怪訝そうな表情を浮かべる騎士の手をピエロは無理矢理広げると子トカゲを一匹のせた。不安げに輝く子の光に貫かれ騎士は反対の人差し指の腹で優しく彼を撫でた。トカゲは嬉しそうに目を閉じた。ピエロは騎士を煽るような声を出した。
「勇者が来て、この子たちのお母様をブッ殺しちゃったんですよ。可哀想にねェ。」
「そんなことは知っている。だから我々もより急いでやつを狙っているのだ。」
騎士は相変わらず苛立ちを隠さない。ピエロも口調を変えない。
「ねェ、少しはモチベーションあがったでしょう。」
「趣味の悪い奴だ。で、こいつらを私に魔王様のところまで送れという寸法だな」
「ご理解いただけて嬉しい限り。用事がありましてネ」
ピエロはそう言った瞬間消えた。騎士はもう一度舌打ちすると、闇夜が近づく地平線へ歩いて消えた。
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