表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
Exploratory Various Humans
179/179

Little Night 2

 ロボットたちの住む海底の国にきた一希。そこから帰るために必要なパーツを持っていってしまった魔物と戦った一同。暴走する巨大化したイーの残酷な攻撃をみた彼は、トラウマを刺激され倒れてしまう。

 目を覚ました一希に仲間たちは状況説明をし、翌日には出港できることを伝えられる。ボーイとともにおしゃべりに花を咲かせ、消灯しようと少年は立ち上がる。


「ねぇ、一希さんははやく地上に帰りたい?」

「...ああ、仲間たちが、待ってるから」

「そっか...」

 消灯後、ボーイは扉の前で行ったり来たりしながら、一希に質問する。

「敵が居ないわけじゃないけど、ここなら、イーたちが守ってくれるよ、」

 一希は少年の言いたいことを、なんとなく読み取った。自分の深読みでなければ、彼は自分を引き留めたいのかもしれない。

「ここにも、人間は僕しかいないけど...みんな素敵だよ。」

「ボーイ...」

「僕ね、初めて人間に会ったんだ。」

 丸椅子に座り、窓のほうをみてボーイはぽつりぽつりと話しはじめる。

「母さんは海難事故で海に落ちて、ロボットたちに保護された。その時母さんはもうほぼ瀕死で、お腹の僕もダメだと思われてたみたい。」

「でも、彼らの技術は僕だけをこの世に繋ぎ止めた。腕や足はダメになったけど、機械の仲間が分けてくれた。」

 少年は腕まくりをして、肩から伸びる義手を見つめる。人工的な月が彼の銀の腕を照らした。

「母さんは僕を託して死んだ。僕はロボットたちの顔しか知らない。それでもずっとずっと、僕は仲間に囲まれて幸せだった。」

 少年は首を振り、俯いた。

「こんなに優しくて、あったかい仲間がいるのに、僕は、一希さん、あなたと会って、人間に対する気持ちが、噴き出してしまったんだ。」

 ボーイは声を震わせている。

「明日になったら、一希さんと離れてしまう。あなたが二度とここに来ることはない。僕はまた、ただひとりの人間となる。そんなの嫌だ」

 一希が少年のほうを見ると、彼の目から涙が溢れ出していた。

「僕は...最低だ、ずっと...守ってくれる、仲間がいるのに、勝手にひとりぼっちだと思うなんて」

 一希は考えていた。どうすれば彼の心を支えられるだろうか。自分がここに残るわけにはいかない。だが、この泣いている子供を置いていくなど...一希の脳裏に一つの答えがよぎった。

 実際にできるかはともかく、提案してみる価値はあるだろう。

「ねぇ、」

 一希が口を開いたその瞬間だった。

 

『緊急事態発生 魔物の襲撃が発生 各自、対応を要請する』

 部屋に、施設中にサイレンと冷静な機械の声が響き渡る。

「...!いかなきゃ!」

 ボーイは涙を拭いて立ち上がる。一希も続く。

『魔物の群れは現在A棟西を移動中』

「A棟、ここです」

 ボーイは並走する一希に声をかける。彼は頷き、警戒を強めながら進んだ。角を曲がろうとした瞬間、その先から何かの影が見え、二人は足を止める。影はこちらへ向かってきた。


 空気を切ってを泳ぐ、人魚だ。上半身は人間で、下半身は魚。おとぎ話で見た姿そのままの美しき女性の人魚。サンゴの海を切り取ったような、カラフルで彩度の高い色をした長い髪を靡かている。真珠のような、きらきら輝く瞳を丸くして、こちらを見ている。

 そして、人魚は人間の存在に驚いているようであった。一希も人魚の存在に驚いている。勇者が口を開こうとした瞬間、ボーイが叫んだ。それと同時に人魚が腕を振るう。

「下がって!」

 一希が声を聴き、咄嗟に一歩下がる。彼の今までいた場所に、三又の槍が刺さった。


 人魚は舌打ちをし、彼女の手の中に槍が戻っていく。

「おまえだな、勇者は。」

 彼女は空中でぐるりと一回転し、再び槍を投げる。二人は飛び退き避けた。

「我々に仇をなすものは決して許さない」

 一希は剣を抜く。ボーイが義手を取りかえると、彼の手もまた、剣のような形となった。お互いに臨戦態勢をとる。人魚はすぅ、と大きく息を吸った。

「きいちゃだめ!」

 ボーイが再び叫ぶ。人魚は激しい音波を放った。一希はなんとか耳を塞いだが、一瞬だけその音を聞いた。この世のすべてを呪うような、恐ろしい音。足元が勝手にすくんでしまうような、声。足がビリビリする。麻痺しているようだ。彼が顔を歪めて耐えてるのを、人魚は見逃さなかった。

 彼女は槍を振るえば、生じた風の刃が一希を襲う。間一髪で避けるが、彼のズボンの裾が破けた。

「チッ」

 何度も舌打ちをし、瞳を細めた人魚。彼女の背後からボーイが切り付ける。人魚は振り向きもせず、後ろに槍を回し、剣を受け止めた。

「お前はなんだ?邪魔だ。」

 そのまま人魚は少年を振り払う。風を起こし、少年を壁にたたきつける。

「邪魔をするなら先に殺してやろうか。それが嫌なら、消え失せろ」

「いやだ!」

 ボーイは膝をつき、立ち上がる。動けない一希を捨て置いて、人魚は少年に矛先を向けた。

「人間にも機械にもなれない、なりそこない」

「なりそこないなんかじゃない!ぼくは、」

 ボーイは声を震わせている。剣と化した銀の腕を支えにして立ち上がる。それを空中から見下ろし、人魚は吐き捨てた。

「人間は銀の手を持たない。機械は柔らかい肉をもたない。お前はなりそこない以外、なんなんだ?」

「ぼくは」

 少年は、人魚を、一希を、そしてその奥を見据えた。

ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

次回投稿は10/1の昼12時予定です。

どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ