Little Night
ロボットたちの住む海底の国にきた一希。そこから帰るために必要なパーツを持っていってしまった魔物を捕まえるための準備をしていた。
ついに姿を現した魔物はこちらに襲いかかり、戦闘が始まる。仲間のロボット、イーが巨大化し敵を迎え撃つ!一瞬少年のような興奮をした一希だったが、制御の効かないロボットは魔物をそのまま握り潰してしまった。
仲間が起こした惨劇を目にした一希は過去をフラッシュバックするとともに気を失い、部屋に運び込まれ目を覚ました。
イーはもとの明るい人格を取り戻し、一希に事情を説明するも、彼の脳裏には魔物の最後の叫びが焼き付いていた。
「あの魔物以外...だれも傷ついていないんだな」
白いベットの上、一希は呟くように言う。
「ああ、マジですまねぇ。」
イーは相変わらずバツの悪そうに単眼を顰ませ言う。
「謝るのは君じゃない、おばあだって、君のためを思ってその機能をつけたわけだし...だれも悪くない」
一希は呟きつづける。それは仲間たちに言うというよりも、自分に言い聞かせているようだった。
まだ心臓の動きが早いのがわかる。ドクドクと音がする。自分はあの海上の戦いで、思っていたより深く傷ついたようだ。
ボーイが心配そうにこちらを眺めていることに気づき、一希は笑顔を作った。
「大丈夫大丈夫」
「...大丈夫じゃないです!」
「そうだね、今はゆっくり休むべきだ」
少年の言葉にリローゴが続ける。
「とりあえず、こちらで魔物の遺品と装置の回収はすませた。修理と舟の作成には1日もあれば、ということを王様から伺った」
「そうか、ありがとう」
舟、そうだ。自分は地上に帰るために奮戦してきた。この海底王国は個性的だがみんなとても優しい、とはいえずっとここにいるわけにはいかない。帰り、やることがある。
「王様は明日また連絡してくださると言うことだ。今日はゆっくり体を休めてくれと。」
リローゴの言葉にゆっくりと大きく頷いた一希。ロボットたちは身支度を始めた。
「そんなわけでオレたちは一旦戻るよ。特に、オレはおばあに『アプデ』の修正してもらわなきゃいけないしな」
ボーイは一希とロボットたちを交互に見てから、仲間たちに声を掛ける。
「ぼく、一希さんの近くにいていいですか?」
「オレたちは構わないけど...」
イーはちらりと一希のほうを見る。彼の単眼から心配が覗いている。それでも一希は頷いた。人に限らずとも、誰かが居てほしかった。
一人で居たら、あのフラッシュバックがまた襲ってくるような気がしたからだ。
「いいよ、誰かがいたほうが落ち着くかも。」
「よかった!じゃあ、毛布をとってきますね!」
ぱたぱたと小走りに少年は部屋を出る。続いてイーとリローゴで手を振って部屋から出ていった。誰も居なくなるとしばらく静寂の時間が一希を包んだが、やがてそれはボーイの元気な声で打ち破られた。
「おふとん、持ってきました〜」
声がして部屋の出入り口に目を向ければ、まるで畳まれた布団が動いているように見える。すぐにぴょこり、少年の顔が見えた。色白い頬がほんのり上気し、走ってきたのが分かるだろう。
「えへへ」
ボーイはベットのとなりに布団を敷く。布団は薄くつぶれ、長年使い込まれているのが分かる。保健室のようなこの部屋は床がしっかりしておりそのまま寝るのにはいささか硬そうな気がした。
一希は少年にベットを譲ろうと降りようとする。それを目敏く見つけた少年が一希に掛け布団を掛けた。
「あ!一希さんは休んでて!それにこのお布団はぼくのですからね!ベットできちんと静養してください!」
「でも...布団があるとはいえ、悪いよ」
「気持ちはうれしいですが、大丈夫です!」
少年は床に布団を敷き終えると、その上にぽんと飛び込む。布団はまるで、新品のようなふかふかさで彼を迎えいれた。
「このお布団、王様がくれた不思議なお布団なんです!ここ王国の技術の詰まった、ふかふかの1枚!」
少年は飛び込んだ姿勢のまま、にこりと一希に笑いかけた。自然と、一希の頬も緩んだ。
しばらく、2人は他愛のない雑談に花を咲かせた。
「ふふ、だいぶおしゃべりしちゃいましたね。」
ボーイが寝返りをうって言う。
「そうだね」
「そろそろ消灯しましょうか。明日は大事な大事な出港日ですし」
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。
次回投稿は9/1の昼12時予定です。
どうぞよろしくお願い致します。