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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
Exploratory Various Humans
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Fishing Fighting 2

 海上での激しい戦いの末、海底にあるロボットの王国に流されてきた一希。気の良いロボたちやこの国に住む人間の「ボーイ」と過ごしながら、ついに地上に帰るためのパーツを持つ魔物と対峙した。

 ヒトの足が生えたマグロような魔物、だった。かの生き物は大きな白い翼を生やし、猛スピードで一希たちに突っ込んでくる。

 気がつけばコンテナの前に追い詰められていた一希とロボットのイー。遠くから「やっちゃえ!」と叫ぶ声に、イーはため息混じりに答えて手首のパーツに触れる。



「何をするんだ?」

 一希の疑問に答えるように、隣にいたイーの手首のパーツが光を放つ。白い激しい光だ。思わず近くにいた彼は目への光を遮るように腕を顔の前に出し、一歩離れる。

 光の奥から、がごんがごんと激しく機械が動く音が聞こえる。影の動きから、何かが組み変わっていくのがわかる。砂埃が舞い、やがて光は弱くなり、一希は正面にいるイーを見た。

 いや、見上げた。

 一希をに大きな濃い影が包む。イーは巨大化していたのだ。彼はいわば巨大ロボというやつか、と思いながら首を思い切り伸ばした。

 青天井の、しかし確かにあるであろうドームの天井にあと少しで届いてしまいそうな、巨大な体躯。ぐるりと動く単眼の瞳だけでボーイの頭よりずっと大きいだろう。指一本は一希と同じくらいありそうだ。胴体など、下手をすれば大きな鉄塊にしか見えないほどだ。

「でたー!」

「すっげ...」

 嬉しそうに飛び跳ねるボーイを遠くに、一希は感嘆の息を漏らす。あまりの大きさに魔物も狼狽えているようだった。だがすぐに、巨大化したロボットへ突っこもうと姿勢を整える。

 丈夫なコンテナにもダメージを与える勢いと魔物の身体だ。いくら巨大化したとはいえ、同じ素材ならダメージは入るだろう。一希は反射的に叫ぶ。

「イー!」

 返事は無い。その代わりに巨大な腕がゆっくりと動き出す。マグロのような魔物が動き出す前に、つるりとした冷たく硬い手が魔物の翼を掴む。

 魔物はジタバタ足を振って藻掻くが、巨大な機械の手を前には何もできない。

 一希の目の前に、翼から散った羽が何枚も、何枚も、落ちてくる。ドーム内を巡る風に乗って、ふわりと。

 魔物から悲鳴のようば、鳴き声のような不気味な声が聞こえてくる。緩慢な動きでもう片方の鉄の手が、魔物の体を包む。一希は背筋に悪寒が走るのを感じた。

「おい!」

 もう一度、一希の喉から反射的に声が出る。先程は危機を伝える声だったが、今の声は少し震え、それでも何かを止めようとした声だった。

 やはり、返事は無い。


 巨大な鉄の手がなおも緩慢に、握られる。リローゴも察したのか、ボーイの耳と目を覆った。

「どーした、の....」

 ボーイの言葉が終わる前に、魔物の耳を劈く金切り声が上がりすぐに途切れる。固く握られた指の間から、真っ赤な鮮血が滴り落ちてくる。一希はその場から動けなくなった。釘で足を打たれたように、一切動かない。じくじくと痛みすら感じるようだ。

 彼の目の前に積もった羽が少しずつ赤く染まってくる...なにやらばらばらになった肉塊がぼとりと羽の中に沈んでいく。ふわふわと赤い羽根が舞った。

 またしても気の許せる仲間が変貌した。あまりに冷血な一撃は、一希の精神に強い衝撃を与えるには十分すぎるものだった。


 視界が赤く染まる。脳裏に浮かぶのは、大きな影。あのロボット?それとも、海上で自分たちを裏切ったチコだろうか。それとも...

 海底王国での平和な時間が癒しかけていた一希の心の傷は再びその傷口を開かされた。

 一希は目の前が真っ赤に染まっていくのを最後に意識を手放した。




「...さん!」

 声が一希を呼び起こした。

「一希さん!」

 彼が目を開けると、ボーイが自分をのぞき込んでいることがわかった。ボーイだけではないリローゴも、そしてイーもだ。イーは元の大きさに戻っており、申し訳なさそうに顔を掻いていた。

「よかった!急に倒れちゃったから、心配したんですよ」

 ゆっくりと体を起こす。問題なく体は動いた。部屋を見渡せば、保健室のような白い部屋に人数分の椅子が並んでいる。

「...ごめんよ」

「いや、謝るのはこっちだよ。驚かせちゃったみたいで」

 イーはそういって頭を下げる。

「そうだ、彼にも説明をしてやってくれ。あんな機能、聞いたことないぞ?」

「大きくなって強くなるってきいただけだったよ!」

 ボーイとリローゴの抗議を受け、イーは椅子に座り口を開く。

「...説明といっても不思議なことじゃないぜ」

 彼は肩を竦めた。

「おばあの奴、修理ついでに勝手にアプデしやがった」


 一希はベットのまま、ボーイとリローゴもそれぞれ椅子について話を聞く。

「前に一回魔物にぶっ壊されて、おばあに修理してもらったの、覚えてるだろ?」

 思い出しながら一希は頷く。ほとんどバラバラになってしまった彼とそれを抱えたボーイの表情は痛ましいものだった。

「で、修理してもらったときに勝手に戦闘用の新機能を付けたらしい」

「その新機能については知ってるよ、デカくなって攻守ともに戦闘用になるってやつだろ?」

 リローゴは足を組んだまま言う。

「そう、そう聞かされた。相手をぶっ潰すまで自動で動く、なんて説明はなかったぜ」

「ぼくびっくりしちゃったよ!」

「悪かったって...俺も知らなかったんだ。」

 二人から引き続き抗議の声を受けたイーはバツが悪そうに一希のほうを見て続けた。

「そう一希、俺があの魔物を潰しちまったあと、すぐに勝手に元に戻ったんだ。他に誰も傷つけてはいないから、安心してくれ」

 一希は頷いたが、脳内には魔物の断末魔と、目の前に落ちた真っ赤な肉塊がこびりついた。

ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

多忙のため来月の投稿はお休みさせていただき、次回投稿は8/1の12時となります。

申し訳ございませんが、どうぞよろしくお願い致します。

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