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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
Exploratory Various Humans
175/180

Animation History 5

 海の底のロボットの国に落ちた一希。彼は機械の仲間と、歴史を体験するフルダイブ型の映画を観ていた。

 映画は、歴史は人類と魔物が袂を分かち、お互いがお互いを狩るようになる物語を語った。やがて人間は発展し、魔物もまた勢力を伸ばした。やがて勇者という人間の代表は、魔王という魔物の代表と相まみえるようになる。

 魔王と対峙した勇者は奮い立つ仲間たちを制し、和解を申し出る。突然の言葉を受けた魔王は驚きつつも、「だれも傷つけたくない放つ勇者の力を「心の強さ」と評した。


 虎の獣人のような姿をした魔王。鮮血のように赤いマントに、その額には漆黒の宝石が輝いている。勇者たちよりずっと大きな体。魔王は勇者の頭を子供にしてやるようにぽんぽん軽く叩き、それから距離をとった。

「勇者、お前を失うのは本当に勿体ない。」

 ふぅ、とため息をつく魔王。彼の手には大きな爪と、炎が宿っていた。仲間たちは勇者を守るように前に出て、魔王との間に入る。魔術師のような格好をした一人が杖を振う。

「勇者様には指一本、触れさせません!」

 振るわれた杖から、電気の波動が生じる。魔王はそれを何事もなかったように避ける。

「仲間たちは血の気盛んなようだな。いい仲間じゃあないか」

 魔王が炎を宿した手を掲げる。炎は大蛇の形をとり、勇者との間に入った仲間たちに襲い掛かる。

「勇者よ、お前の心の強さ、しかと見届けた。だが、その和平は受け入れられない。」

 仲間たちは間一髪で炎を避ける。壁に衝突した炎の大蛇は、進行方向を変え、再び彼らに牙をむく。

「聞け、勇者よ。我々は長い間、戦い続けた。もう長すぎたのだ」

 仲間にむかう牙を勇者は剣で切る。炎の大蛇は力を失い、地面に落ちて消える。

「吾輩とお前の間だけで手をつないでも、周りはそれを許さないのだよ。」

「そんなことは...!」

 次々と襲い掛かる炎の大蛇を切り捨てながら真っ直ぐな視線を魔王に向け続ける勇者。魔王自身も勇者の仲間たちからの攻撃を踊るように避け続けながら、言葉を続ける。

「吾輩は魔王。魔物たちを統べ、長くその生活を見守ってきた。彼らの原動力には人間たちへの怒りもある。それをいきなり、はい、和解。これからはおててつないで生きていきましょう。受け入れると思うか?」

 勇者は言葉に詰まった。正論は、時に剣よりも鋭い。たしかにそうだ。自分の仲間たちですら、和解にはいい顔をしなかったのだから。

「わかった」

 勇者は汚れた剣を構え、潤んだ目で相手を見据える。

「やるしか、ないんだな」

「そうだ、来い。勇者よ」

 仲間たちのほうを見て勇者は頷く。仲間たちも強く頷いて返す。

 魔王の猛攻は止まらない。放たれ続ける炎の攻撃を避けながら、勇者は高くジャンプし、魔王の頭上で剣を振りかぶった。

「魔王、すまな...」

 そう勇者が呟いた瞬間、魔王は正面を向いたまま片手を挙げ剣を受け止める。刃を素手で受け止めているにもかかわらず、その手から血は流れなかった。それどころか、傷一つついていない。

 勇者はそれに驚いたが、素早く身を翻し魔王から距離を取る。魔王は勇者のほうを見た。

「遠慮はいらない、本気で来い。」

 不敵な笑みを浮かべる魔王。勇者は肩で息をしているが、彼もまた小さく笑みを浮かべていた。



 映像は静かに消えていく。

 画面には文字が浮き上がる。

「★続編 混沌の勇者編 鋭意制作中★」

 立ち上がってボーイが抗議の声を上げる。

「えっ、おわり!?最高にわくわくしてきたのに!」

 椅子の上に転がっていたイーがあくびをして起き上がり、ボーイをなだめる。

「楽しみはあとにとっておくものだぜ。それに中途半端なクオリティで出されてもヤだろ?」

「うん...でもさぁ、」

 ボーイは不満そうだ。一希はその様子を見ていた。それはそうだ。こんな熱い戦いの中でも止められたら、誰だって不満だろう。

 一方で、一希には気になることがあった。勇者は魔王と和解しようとしていた。結果として和解はできずじまいであったが...

 一希自身もまた、魔物との和解の道を探っている今、歴史からもどうしようもないと突きつけられているような、無力感すら感じられた。

「それに、サ。」

 イーは時計を指さす。

「そろそろ、行かないとヤバくね?」

 時計は王様から指定された時間まで余裕がないことを示していた。一希たちは急いで部屋を飛び出す。


  2体のロボットと、2人の人間はバタバタと廊下を走りバス停に向かう。もしその姿をみた者がいたら、ずいぶんよ滑稽な様子だろうと思うだろう。

 なんとかバス停につくと、バスが待ってましたとばかりにどこからともなく現れ、彼らを乗せた。


「危なかった...」

 ボーイが呟き、一希は頷く。

「そういえば、リローゴも来ちゃって大丈夫なの?」

「ああ、気になるからね!」

 にこり!さわやかな笑顔を浮かべるロボットに、一希は一抹の不安を覚えながらバスに揺られていく。


揺られていくなかで、一希は考えた。先ほどまで見ていた映像、ポスターには人間と魔物、それにロボットが描かれ「3種族」に関するものだとされていた。しかし結局出てきたのは魔物と人間だけだった。

魔法や魔物が跋扈する世界で、どのようにしてロボットが生まれ、この海底王国で独自の文明を築き上げているのか...


答えが無いまま、バスは目的地到着を伝える。

ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

次回投稿は5/1の12時となります。

申し訳ございませんが、どうぞよろしくお願い致します。

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