Animation History 4
一希は魔物との戦いを経て、海の底に落ちた。彼を助けたボーイという少年とともにロボットたちの国を巡っている。
今、彼らは魔物と人間の歴史を見ていた。天啓を得た人間と魔物はお互いを狩るようになる。人間は魔法に気づき、魔物からの戦利品で豊かな生活を得るようになったが、同時に魔物からの更なる侵攻と戦うことになった。そして、格差もまた、生まれる。
一希は息を飲んで目の前で繰り広げられる映像を見つめる。裏路地で、二足歩行の豚の魔物と少女の間に降り立つ、一人の若者。暗い路地にも関わらず輝く剣、勇敢でまっすぐな瞳。ナレーションは静かに、しかし力強く言った。
ーそんな中、世界に一人の若者が降り立ちました。彼こそ、後に人々に「勇者」と呼ばれる存在です。
一希は若者の出で立ちが少しだけ自分に似ていると思った。あのような勇敢な表情はできないが、髪の色や、大体の顔つきは自分に良く似ていた。
若者の視線に射抜かれた魔物は逃げていく。若者は魔物を追わず、姉妹の少女に声をかけた。
「大丈夫かい?」
「うん...お兄ちゃん、ありがとう...」
「ならよかった。」
「ねぇ、おにいちゃん...」
姉のほうが若者をゆっくりと見上げる。恐る恐る、といった表情だ。妹は姉の手を強く握ったまま下を俯いている。
「どうしたんだい?」
「あたしたち、どこに行けばいいのかわかんないの...」
若者はしばらく悩んだ後、腰を落とし姉妹と目線を合わせた。
「この先の教会は身寄りの無い子を守ってくれる...よし、案内しよう。僕がいれば魔物たちも来ないはずだ」
少女たちは涙を拭いて頷く。
ー勇者は弱き者に手の差し伸べ、その力を正しく使いました。そして勇者は、魔物の王と相見えたのです。
少女たちと若者は路地裏を歩いていた映像が切り替わり、若者は城内を歩いている。他にも武装した仲間が数人居た。服装からして、一人は魔術を使うものだろう。彼らは所々に傷を負っており、何らかの戦いに参加していたのだということがわかる。
城といっても人間たちの城ではない。明かりは蝋燭だけの暗い通路を抜け、若者は大きくの豪華な飾りついた扉を押し開ける。重い、重い音がして扉はゆっくりと彼らを迎えた。
「魔王!」
玉座には虎の魔物が腰掛けている。獣人に近い姿をした彼は、アームレストに毛むくじゃらな肘をつき、不遜な表情で彼らを歓迎した。額には蝋燭の光を受けて、真っ黒な宝石が輝いている。
若者は一歩前に出て、まっすぐな視線で玉座を見つめる。少女の姉妹を救ったときと何も変わらない、光の宿った瞳で相手を射抜いた。
「良く来たな。勇者。歓迎する。」
魔王と呼ばれた彼は玉座から立ち、真っ赤なマントを翻す。仲間たちはいつ相手が攻撃してきてもいいように、武器を構えた。そんなことは気にしないかのように、魔王はずんずんと勇者へと近づく。
臨戦体制に入る仲間を勇者は手で制し、臆することなく自らよりもずっと大きい魔王を見据えた。
「良く来た。守衛は強かったか。」
「ええ、とても、最後まで貴方のことを気にかけていました。守れなくて、悔しいと」
「そうか、吾輩も良い部下を持った...」
目を閉じ、腕を組む魔王。彼の様子を見た勇者は意を決したように口を開いた。
「...魔王、話があります。」
「話?」
「お互いに、矛を収めませんか」
人間の仲間たちが驚いたように勇者を見る。
「ちょっと、なに言ってるの?」
「そうだ、魔物が何人を傷つけたと思ってるんだ!」
勇者は明るい瞳を仲間たちにも向けた。
「たしかに、魔物は僕たちを傷つけてきました。でも同時に僕らも魔物を狩り続けました。」
ゆっくりと穏やかな語り口だ。魔王も一瞬驚いていたようだ。しかし、ほぅ、と小さく呟いて勇者の言葉を聞き続けた。
「魔物は僕らがいる限り、僕らは魔物がいるかぎり、お互いを狩り続けるなんて、不毛すぎませんか!」
彼は身振りを加え、仲間と魔王に伝え続ける。その必死な表情は、勇者が嘘をついていないことを伝えていた。その場の誰もが、もちろん聴衆も彼の言葉に偽りの無いことを確信した。
「僕は思うんです。お互いの代表者がいる今なら、戦いに終止符を打てるんじゃないかって...」
勇者は下を向いた。剣をもった手を力なく下ろし、呟く。
「僕、もう嫌です...誰かを傷つけるの...」
その剣は血に塗れ、昔の輝きを失っていた。魔王は勇者の頭に、がっちりとした手をぽんと置く。虎の獣人の彼の腕は鋭い爪を持っていたが、その爪は仕舞われ、相手を傷つけないようになっていた。
仲間たちは魔王が勇者に触れた瞬間、いよいよ攻撃体制に入ったが、勇者は再び仲間を制した。
「お前は優しいのだな。人間どもがお前を勇者に祭り上げた気持ちが分からなくもない。お前には、力がある。ただの力じゃない。」
魔王は勇者の頭から手を離し、彼らから距離をとりながら話続ける。
「勇敢で優しく、意志が固い。そう、心の強さという力だ。」
勇者は視線を上げた。目は潤み、それでも尚まっすぐに前を見ていた。
一希と仲間のロボットたちは、目の前で繰り広げられる光景を息を飲んでみている。一希は思案した。ここで魔王と勇者が和解していれば、今、人間たちと魔物たちとが争う必要は無いはずだ...
でも争っている。史実の映画を見るような緊張感ややるせなさが一希を襲った。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。
筆者多忙のため、来月は投稿をお休みし、次回投稿は4/1 12時となります。
申し訳ございませんが、どうぞよろしくお願い致します。