Fight
魔物の強襲に見舞われ後ろへ退避するルート。その影からチュリアが飛び出し落ちる前のボール型の魔物を真っ二つにした。二つになったボールは暫く苦しげに跳ね回っていたが、そのうち動かなくなった。動かなくなったあとにはみるみる縮んでいき、やがて小石のようなサイズになった。ああなると、倒したと言える状態になるのだろうか。一希はそう考えながら動けないでいた。
マーもどうやらすぐに戦闘体勢を取っていたらしい。巨大な木槌が荷車に戻っていくのが見える。チュリアが剣を鞘に納めると、眉をひそめて頭をまだ抱えているルートにやりと笑って言った。
「私が気が早いのでなく、お前がのんびり屋なんじゃないか?昔からこの町で一番だったからな」
「そうかもな。助かったぜ。どうも、ありがとうございます。」
悔しそうに答えるルート。一希は自分が戦いに参加できるか心配になってきた。彼は今、戦いを目で追うので精一杯だった。まわりは危機を感じながらもこなれた様子だった。彼は独り置いていかれているような気分だった。
その後も一行は何度か交戦を繰り返しながら進んでいく。高くなってきた日は再び降り始め、彼らが洞穴の入り口についた頃はオレンジ色の光が彼らを射していた。
「ここ、だな」
先頭にいたルートが振り返り言う。
「この先にやつがいるから気を付けようぜ。」
その時、オレンジ色の日射しと彼らの間に大きな影が割って入った。一希が上を見ると、大きなトカゲのような魔物がいた。彼は日射しも吸い込む黒いからだをし、その体長は普通のトカゲの10倍以上はゆうにこし、「ヤツ」であるのは一目でわかった。彼からは寝起きという雰囲気は無く、むしろ待ち構えいたようであった。
「おい、待ってくれ、予定と違うじゃないか」一希は呟く。
もちろんこのトカゲの魔物は待つはずはなく、紫の大きな舌で乾いた唇を舐めるとこちらの方へ突進してきた。チュリアは驚き、しかし嬉しそうな声を荒らげた。
「出たわね!大トカゲの化け物!」
一希を除いた三人はトカゲの突進を華麗に交わすと、それぞれ武器を構えた。一希は腹部に衝撃をうけ、軽く吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。無意識の受け身のおかげで、すぐに立ち上がる事が出来たが、下腹部に重い痛みを感じた。
「一希くん、大丈夫?」
マーがこちらに駆け寄ってくる。大トカゲは二人の騎士と交戦している。
「ごめん。大丈夫。」
一希は剣を杖代わりについて立ち上がった。マーは頷くと再び魔物へ向き直った。勇敢に、魔法で彼女の武器である木槌を振りながら。しかし遠距離攻撃を得意とする彼女は決して近づきすぎないないようにしていた。そのため、トカゲに向かわれると距離を取り、また攻撃というのを繰り返していた。
彼は三人が戦っているところを観察した。自分がこの中に入れるとは思えない。
襲われたとき、最低限の対応できる。だが自分から敵に向かう時、自分の毛ほどもない実力が試されるのだ。
一希は戦いを眺めた。
不幸中の幸いか、あの大トカゲは三人の勇猛果敢な戦士達に夢中で、一希のことは眼中にない。飛ばされたおかげで距離もある。彼は落ち着いてを考えることができた。
遠距離攻撃中心のマーと異なり、騎士二人は近距離戦であった。トカゲの魔物の体に生える鱗と剣がぶつかり合うたびに激しい音がする。三人の戦士たちの攻撃はトカゲの分厚く硬い鱗で防がれてしまっている。このままではこちらが不利な消耗戦だ。よくみると下腹部には鱗が無く、柔らかな肌を晒していた。
しかしそこは如何にも狙ってくださいと言わんばかりの弱点なので、トカゲもそこに戦士を近付けないように戦っている。きっと彼ら三人とも狙いを定めきれないのだろう。ともすれば誰があの弱点をつけるだろうか。
「畜生!」
一希は頬を叩いて気合いをいれると剣先を正面に構え、トカゲの下腹部に向けて走り出した。ここでやらねばなんのための転生だ。
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