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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
14/179

Sortie

 いくつかの会議が終わると、一希とマーは翌日の出発に備えて今日はのんびりしてほしい、と町長に言われた。二人は覚悟を決めろと言われているのおおよそ同じだとと考え、他人にばれないようにため息をついた。夜、彼らは宿の一室、勝手に用意された一等室で話していた。

「やっぱりやるしかないみたいだなァ」

「そうねぇ、この際もうってかんじ...」

 マーは一希の言葉に同意で返した。不安の混じる現実と魔物との戦いに備え、今日はもう休まねばならない。マーは挨拶をして一希の部屋を去った。一希は一人ベットに転がって考えた。町長も含め町人らの調子の良さよりも彼らがいかに魔物に脅威を感じているかを、実感したのだ。彼らは本当に安堵した表情をしていた。だからこそ二人にとっては引けない戦いだった。もちろんあの二人の騎士にとっても、だろう。


 翌日になって本当にパレードが開かれたらしく、二人の騎士と商人、そして勇者の一行は町民のとめどないエールとともに町を出た。もう後には戻れない。


 町を出て街道沿いに歩く一行。ルートが地図を眺めながら三人に尋ねた。

「ヤツの根城の洞穴に行くには2つの道がある。多少の交戦を前提に草原を突っ切るか、安全重視で途中まで街道に沿っていくか。どうする?」

 街道を通れば魔物との交戦を少しは避けられるらしい。そういう魔法でもかかっているのだろうか。原理はともかくファンタジー世界らしいことだ。わからないことだらけの一希は苦笑いして答えた。

「俺は安全第一に行きたいですね。」

「私も同じです。」

 マーも答えた。チュリアは弄んでいた剣を鞘に戻しながら答えた。

「私もそれで大丈夫。ヤツの所までで消耗したくないわ。」


 魔物が出ないため、一行の旅は実に穏やかに進んだ。先頭を歩くルートに一希が続き、マー、チュリアと続いた。女子二人が恋の話に花を咲かせているのが聞こえる。魔物退治に行くのにこんな話をしててよいのかと一希は考えつつ、思わず聞き耳が立ちそうになった。しかし、一希は一人首を横に振った。彼女らは旅慣れしているのだ。自分とは違う。実際、マーはこの話を緊張をほぐすのに役立てていた。ふと前をみるとルートも同じことを気にしていたらしく首を振っていた。

「やっぱりこういう話って気になりますよね」

 気を紛れさせるためルートの横に並んで話しかける。後の組の話は好きな人のタイプんなっているらしい。

「あっ、ええ、そうです、ね」

 ルートは驚いて答えた。どうやら話を真剣に聞こうとしていたらしい。ほのかに頬が赤らんでいる。一希は彼の心を察し、話を変えた。このままでは直ぐに戦えず、危険だ。

「ルートさんも剣を使うのですね。同じ剣使いとして、足を引っ張らないように頑張ります。」

「大丈夫、ですよ。いくら転生したとはいえ、勇者サマ、なのでしょう?」

 頬の赤さが抜けない。彼は初なのだ。自分にもこんな頃があったのかと考える。好きな人に思いを伝えられない時が。

 彼の初さは微笑ましいが信頼のされっぷりは微笑ましいものではない。一希はやんわり否定したが、頬の赤いルートは謙遜だと言った。一希は青くなりかけていた。


 そんな調子で進んでいくとルートがぴたりと足を止めた。地図を確認している。

「うん、こっからだ。」

 ルートがここから洞穴までは街道が無いことを説明した。どうして人を食い殺す魔物の住処まで街道が引かれていようか。贅沢は言えない。

 チュリアは再び剣を鞘から抜いて弄んでいる。少し気が早いのでは、と一希は考えたが自分が戦えないので積極的な人が居るのはありがたいことだ。

「チュリア、相変わらずだな。お前の気の早さは昔からこの町で一番だったもんな」

 ルートは苦笑いを浮かべながら軽く悪態をつき、街道から足をはずした。その時だった。


 何かが彼の頭に直撃した。ルートの体制が崩れ、彼は痛そうに頭を抑えつつ身を引いた。よく見るとそれは緑のラグビーボールのような生き物であり、自らの意志か力かで草むらから跳ねあがり彼を襲ったようであった。魔物の襲撃だった。

お読みいただきありがとうございました。

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