Meeting
その言葉を聞いた町長は満足げに、マーは不安とチャレンジ精神の入り混じった瞳で頷いた。
「おお、これで民は皆助かるじゃろうて...流石勇者様じゃ」
勇者、という言葉が重く一希にのし掛かった。
町長は座ったまま頭を下げると、近くにいる使用人を呼んで、なにやら耳打ちをした。使用人は礼をして部屋を出る。
「町長さん、いったい何を言ったのかしら?」
マーも一希に耳打ちをする。
「わからないが、あんまり良い予感はしないなァ」
二人は不安げに町長を見つめた。何か隠しているのではないかと。二人からの視線に気づいたのか、町長は額の汗を拭うと咳払いしていいだした。
「もしかして、さっきのヒソヒソ話が心配かね?あれは、のぉ」
その時にノックの音が響いた。町長が声をかけると扉が開き、二人の若い騎士が部屋に入って。彼らは普段着であったが、腰に剣を持っているの騎士だとわかった。
片方の男騎士は薄紫の長い髪を後ろで一つの三編みにしている。体格は自分と同じほどで、相手の方が僅かに高い。切れ長だが優しく澄んだ黒い目が町長の方をしっかりと見つめていた。
「おはようございます。町長」
「おはようございます。町長」
間髪置かず、もう片方の女騎士も挨拶した。目や髪の色は男騎士と同じものだった。違いは髪型が所謂ツインテールで有ること、体格が一希より若干小さいことぐらいだった。
町長は二人の騎士と軽く挨拶を交わすと二人を一希とマーに紹介した。
「紹介するよ。彼らが魔物退治に同行するうちの町の騎士だ。こちらはルート。さっきのはこの二人を呼んでもらってたんじゃ」
男騎士が優雅に最も深い敬礼をした。座ったままではあるが、こちらもつられて礼をする。
「そしてこちらがチュリアだ。」
女騎士も同じ礼をした。同様につられる。町長は二人に席を勧め、彼らは軽く礼をして座った。町長は地図を開いて説明を始めた。
「じゃあ、作戦について説明しようかね。早速になってしまって申し訳ないのじゃが、出発は明日の昼にしてもらいたい。その時間は魔物の動きが一番少ないからな、安全にいける。到着は恐らく夕刻になるじゃろう」
町長は地図の上で指を滑らせる。一希とマーは日程の早さに驚いたが、少し話を聞くことにした。
「魔物は深夜に目覚めて動き出す。夕刻では深い眠りについているはずだからそこを狙う。すぐに戦いが終わるはずじゃ。というより、長期戦ともなれば恐らく我々のほうが不利になる。」
今度は魔物についての文献を地図の上に置いた。恐ろしいトカゲのような魔物の絵と文章が書かれている。これが巷で噂になっているヤツなんだろう。一希は思わず息を飲んだ。
「それから終わったらすぐに戻ったほうが良いだろう。大きな魔物を倒すと周辺の魔物はすこし身を隠す傾向にあるという。まぁ、そんなところじゃ」
町長は地図や文献全員が見やすいように並び替えて聞いた。「何か質問は?」
「...日程が随分強行に感じるわね。チームワークが大切にだと思うし、練習はいいの?それに、魔物狩りの職業の人は割りと任意のタイミングで行くと聞いたけど...この日じゃならない理由ってあるの?」
マーははっきりと聞いた。大胆不敵な行動は嫌いじゃないが、理由は知っておきたいし、何より戦い慣れの無い一希が心配だった。
「もうすぐ魔物は繁殖期を迎えるので日に日に凶暴になっているんじゃ。一日放っておくだけでな。」
文献の該当箇所を指で指し示す。確かにそう書かれていた。
「それになァ、民衆どもが出発のパレードやるといって聞かないのじゃ。まったく」
町長はからりと笑って見せたが、二人の内心はそれどころではなかった。
二人きりになった後、一希は思わずため息をついた。マーも申し訳なさげな表情をしている。
「ほんとごめんね。一希くん。まさかこんなに早いと思っていなくって...その上出撃のイベントまで行われるなんて考えもしなかったわ」
「気にしないでくれ...どうせ避けられないとは思っていたよ...俺も正直舐めて引き受けちゃったような気がするし、観念する」
外から民衆どもの歓声が聞こえる。使用人にいれてもらった紅茶はすっかり冷えていた。
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