Prologue
龍の咆哮、吐き出される青い炎。
崖の近くで勇者らと青い龍が戦っていた。崖には平たい大岩がバランス良く立っているのみで、龍と勇者らを遮るものはほとんどなかった。
戦局は一方的で友人らが次々に炎に焼かれ倒れるばかり。勇者も既に満身創痍であった。唯一残る戦友は崖っぷちに立たされている。しかし、龍は容赦なく炎を吐き続ける。後がないことを知った勇者は賢者の女の前に立ち、彼女を龍の炎から守ろうとした。
しかし、それより早く賢者の女は駆けてきた彼を突き飛ばした。そして衝撃緩和の呪文をかける。彼の落下先に固い岩肌を見せるさらにその下には森がある。崖から落ちれば死は免れないが、龍にその身を焼き尽くされるよりはずっとましだと考えたのだ。そして、彼女は全ての魔力を使い、龍を巨大な岩に封じ込めようとした。封印の魔法が直撃した龍は悲鳴をあげて最後の抵抗を試みる。先程の何倍もの炎が龍の口から産み出された。勇者は茫然と落下しながらその様を見ていた。
「お願い、勇者さん。希望を繋いで」
炎の中、女は呟く。みるみるうちに炎に焼かれてゆく崖。人の立てる隙間すらなくなる。そんな中、最後に勇者が見たのは魔方陣に包まれる龍と炎に包まれる彼が愛した女だった。
龍は封じ込められ、彼女は心身ともに燃え尽きた。勇者を求めるものはもういない。崖の上には青い炎が残るばかりであった。
青く光るネオンライト。
それはここが龍と勇者が力を交えるファンタジーの世界でないことを示す灯りであった。
夜の都会の喧騒。
それは環境音と声から構成されるある男のBGM。男はヘッドフォンをつけ、プレイヤーの音を大きくし、BGMをお気に入りの曲に替える。
お気に入りの曲はファンタジー世界を舞台にしたRPGのBGM。場面は主人公の故郷の町。その曲が配信される瞬間を心待ちにしていた男は初めてこれを聴く今日もまた同様に待ち遠しいものであった。
鞄の外側のポケットにプレイヤーを滑り込ませれば、鞄の書類の重さはたちまちなくなる。
男は部屋の電気を消し、戸締まりをして会社を出た。男は就職して2年目。ばか正直で要領が悪いが、とにかく真面目にがむしゃらにやっていた。だが成果はなにもでない。情けないサラリーマンだった。
そんな毎日に嫌気が差していた男だが、今日から、この時間だけは旅立つ勇者になれる。
「おれも旅に出たいなぁ」
男は夜の道を軽快に歩く。高速道路が近くにあり車の量が多い。男がヘッドフォンの音量を上げようとプレイヤーに手を伸ばそうとしたとき、だった。
青信号の横断歩道に猛スピードで走る車が突っ込んでくる。目の前にいる女は怯えて動けないようだった。とっさに身体が動いた。
重い音に女の悲鳴が続く。やっとがそれが収まることには音の元に赤い湖が広がっていた。男は永い旅に出たのだ。
拙作をお手にとってくださりありがとうございます。
この物語は不定期更新で、長めの物語を予定しています。一話一話は読みやすい長さで更新していきたいと考えてますので、何卒よろしくお願いいたします。