だめだあ、恥ずかしくて..
⑥ウィルはやはり動画のままだった。声もそのままだったしキャラもやはりあのままだった。リスニングが始まりみんな彼を見ずに歌詞カードに目を通す。なぜ?なぜみんな彼を見ないの?疑問に思って晴美だけは彼を眺めた。あんなに興味深い人をみんななぜ見ないのかが彼女にとっては気がかりだった。ちらっとは見えるのだが晴美の座る位置から彼はちょうど見えない。前に座っている男性がちょうどウィルにかぶってしまっていた。でもまあいいやと思っていたらウィルもそれに気が付いたのか晴美が見える位置に座りなおしてくれていた。はるみはつい顔が緩んでしまい彼を見て微笑んでいた。すると彼が目を細めて彼女に吸い付くように2mくらい先から眺めた。晴美は落ち着かなくなり下を向く。ウィルは新しい曲が始まる耽美にホワイトボードにトラック作成者と題名を書きにゆきまた前のソファーに座るのを繰り返す。ウィルは晴美をはっきり見ようとしたのか晴美の真ん前に座りだした。彼の視線を感じすぎて照れてしまいついに晴美はずっと下の歌詞カードに視線を落としてしまう。やがて新しいPVがながれ彼は右手でマイクを握る。晴美も無意識に右手をあごの前にもっていき右手を握っていた。ふと彼女は関係者からの視線を感じて自分の右手がおかしいことに気づき手をひっこめる。するとウィルも偶然左手にマイクを持ち変える。しかしまた右手に持ち変える。やはり右手がしっくりくるのだろう。晴美は特にその時何も感じていなかった。次は質問コーナー。❝何か質問ありますか?❞ウィルはだれも手を挙げない静かなままのこの場に❝まあそりゃそうですよねー。❞静かに笑う女の子たち。すると彼とまた目が合った。が晴美は手を挙げない。数人が質問をした後質問コーナーも終わり彼は最後の曲を生で歌ってくれた。ウィルは歌っている間晴美の見えない位置に座っていた。前に座っている女の子が笑っている。すごく幸せそうな顔をしていた。新しいアルバムを予約すると彼が私物にサインしてくれるというので私は携帯にお願いした。興味ないと思っていながらもちゃっかりアルバム代はまたでまかせな嘘で親から供給していたため買う気満々だった。自分の番になり晴美は下を向きながら❝じゃあ携帯にお願いします。❞ずっと下を向いていたらまったくしゃべらない彼が気になって顔を挙げたら彼は自分に優しい笑顔で笑いかけていた。2.3秒微笑みを見せてくれたあと❝んーどこにしようかな。ここはあれだし。じゃあこことかにしましょうか❞にっこり笑いながら彼は晴美の目をしっかり見ながら言う。晴美はどもってしまい❝どっどこでもいいから書いてっ!❞けんかごしになってしまった気がする。もっとかわいく言いたかったのにどうしてあんな言い方になってしまったのか。❝はい。わかりました❞彼はにっこり笑いながら携帯に視線を落とす。晴美は彼が直筆している間も彼を見ずに左に視線をずらしていた。結構長い時間が過ぎたような感覚だった。彼を見たとき彼は何か悩みながらそのサインに何か付け足したそうだった。ちょうど紙を挟めるようになっているところが扇状になっていたので彼はその線の上に目をつけ足した。うふふと笑いが吹きこぼれてしまった晴美は笑みをこぼしながらぼそっと❝ありがとうございました。❞最後もやはり彼の目を見ることができずに晴美はその場から走り去った。結局東京では何もなかったしガッカリした晴美。❝やっぱり私は痛い女。錯覚だったんだわ。でも別にいい。彼がこんなイベントを開くこと自体が奇跡だったんだし。でも彼の子供がほしい神様!彼の精子を私に下さい。❞心からの願いを呟く晴美。今までこんなことを呟いたことは一度もなかったのに。