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百年の恋をもさめさしてほしい



 自力でこの気持ちから解放されることは、もう一生あり得ないと思った。

 それほどまでに情熱的な恋なのかと聞かれれば、純粋そうで聞こえはいいかもしれないが、ここまできてしまうとこれは一種の呪いに近いものがあるのかもしれない。


 ◇


 図書室で静かに眠っている。腕を枕に、顔を伏しているも、艶のある黒髪から覗く横顔だけでも美しさが伺える。相変わらず綺麗な顔をした人だ。ガラ空きになった背中に抱きついてしまいたい衝動にかられるが、ぐっと堪えて寝顔だけを覗き見た。美しすぎる。このどうしようもない感情のやり場を失うと体が麻痺したように熱いものがこみ上げてくる。それは目頭に伝わるようにできているのか、悲しいわけでもないのに、涙がこぼれてしまいそうだ。


「そんなに見ないで」


 寝ているとばかり思っていた目の前の美しい人からくぐもった声が漏れ聞こえ、驚いた。その反動で熱くなった目頭から熱が冷めた。慌ててその場を離れると突っ伏していた綺麗な顔をゆっくりとあげ、こちらをみつめた。


「もう帰れる?」


 なんでもなかったかのように、自然と言い放たれたその言葉に嬉しさと苦さが込みあがってくる。

 きっと、だれもわかってくれないこの感情に、言い表す言葉などあるだろうか。常々、そう自問自答するが私の頭では言い表すことは出来ない。きっと、言い表す言葉が存在してしまったらこの想いをこぼしてしまうからちょうどいいのかもしれない。そう、無理矢理結論付けていた。


「お、兄ちゃん、起きてたの?」


 震える声音が動揺をあからさまに伝えてしまったが、それさえも今更だ。この美しく儚い男に私の気持ちなど手に取るようにわかっているのだから。


「寝てたよ? 物音が聞こえたから今起きたんだけど」


 にっこりと微笑んだ悪意のない表情が怖いほど美しい。そして、それと同時に憎くてしかたない。


「図書、終わった?」


 優しい声音が心地良いなんて、もうとっくに知ってる。そこから抜け出したいと心が叫ぶが、その想いが口を割って押し出てくることはもう何十年と無い。それが辛くもあるけれど、どうすることができないんだからしかたがない。


「一応」

「じゃ、帰ろう」


 何の躊躇いもなく差し出された手に縋りつくようにして手を伸ばした。

 頭では理解している。この手に縋ってはいけない、と。それでも。


「ん」


 この憎たらしくも美しく優しい手を振り払うことなんてできるだろうか。

 この感情が神への冒瀆だというのなら、その驕り高ぶった神とやらが咎めてくれたらいいのに。

 この感情持て余してるのは何も世間や神だけじゃない。

 この私ですら乞い願う。



 ――いっそ、辟易するほど憎たらしいこの恋を冷めさて、と。


 そんな願い、本当は請い願ってもいないのだろう?

 どこかでそんな声が聞こえた気がした。

 本当は――



 兄は嘲笑うようにして私の手を強く握り返した。

 残酷なほど、甘美なその誘惑に抗えない。

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