なんて不毛な、それでも恋
友人の刺さるような視線から逃げるように顔を背けると、大げさなため息を吐かれてしまった。そんなに邪険にしなくても、と弱った精神ではついつい甘えたくなってしまう。この友人が甘やかしてくれるわけ、ないというのに。
「お前何なの。一体何がしたいわけ」
いつも通り私の相談というなのぼやきを律儀に聞いてくれる友人が、苛立った感情そのままに吐き捨てた。
いつものことながらなかなか手厳しい。項垂れた頭を今更あげることもできず、無言で耐えていると頭上から「おい、聞いてんのか」とまるで輩のような台詞を吐かれてしまい、渋々頭をあげた。
「…ごめん」
「そんなこといいから、お前はどうなんだって話だよ。その男に何してほしいわけ?」
何がして欲しいかなんて残酷なことを聞く。
「何って…」
「…お前は彼女なんだから、何をして欲しいかを言えば良いだけだろ。そうやって関係を築いていくんだよ、バカ」
そんなこと言ったって、彼は私の要求なんてきっと聞いてくれない。そもそも、そんな良好な関係を築けていないことくらい知ってるくせに。なんて酷い友人なんだろう。
「…だから言ったろ。泣かされるだけだって」
それでも、私の涙を苦しそうに拭ってくれる優しさと温かさの伝わる声音で労わってくれる。
――いや、本当に酷いのはこの私だ。彼の優しさにつけ込んでこんな残酷な言葉を吐かせて。それだけに飽き足らず、こうやって慰めてもらう始末だ。
最低な女だ。
「ありがとう、三神くん」
涙を流して、ぼろぼろになりながらも笑っていられるのは、紛れもなく貴方のお陰であることをいつも本当に感謝している。この言葉にうそ偽りはない。
それだけに残酷だな、と自分でも思う。
◆ ◆ ◆
結城は涙を流しながら器用に微笑んでみせた。それは痛々しく、見ているこちらの心臓を抉るような表情だった。思わず、手を伸ばしてしまいたくなる。いや、実際思わず伸ばしてしまった。後頭部に腕を回し、そのまま引き寄せてしまいたい衝動に駆られたが、ギリギリのところで理性が働き、頬に伝う涙を拭うに止まった。
――いつもそうだ。
結城は不毛な相手に挑み、実り、悶々とする恋愛ばかりだ。そして、その度に駆り出されるのは“友人”であるこの俺だった。結城は無邪気に「友達だよね」と残酷な言葉で俺に境界線を張る。時としてそれは俺の心を透かして、忘れてないよね、と確認する暗黙の呪文でもあった。なんて酷い女だ。
「ありがとう、三神くん」
泣き顔がいちいち可愛くて。
いっそ殺してしまいたい。
いや、むしろ殺してくれ。
こんな不毛な、苦しいだけの恋があってたまるか。
「…バカ。そんなことよりお前は、」
そんな男やめればいいだけのことだろ。
そんな言葉を言えないでいるのはどこの馬鹿だよ。
泣きたいのはこっちだ。
死ぬほど苦しい想いをしてるのだって絶対俺だ。
手の届く距離にわざと入ってくる酷い女に惚れてんのはこの俺だよ。
いつだって苦しんで、苦しんで、苦しんだ俺を、泣き腫らした瞳でじっとみつめて満足するようなそんな酷い女。
「そいつに会いたいって言えば済む話だろ」
――それでも。
お前の幸せを願ってしまうんだ。
俺じゃないやつに全力で恋愛をしてボロボロになるお前の歪んだ幸せを願ってしまうんだ。
そんなお前をみて唇を噛み締めて、それでもどうすることもできない俺を見てほくそ笑むお前を。
そんなお前に恋してんだ。
不毛もいいとこだろ。
「ふふ、馬鹿な人」
「お前がな」
なんて不毛なんだ。
クソ。