確かに恋だった
未熟すぎた俺の気持ちを振り返って考えてみたが、やっぱりあれは恋だったと思う。いや、君がなんと言おうと、俺は胸を張って答える。
恋だった、と。
桜が舞い散る四月に君は佇んで居た。それは儚げでとても幻想的だった。俺はすぐに恋に落ちた。春風がいたずらに君の髪を靡かせたその瞬間、恋に落ちたんだ。君は笑って「うそだぁー」と指をさすだろうけど、恥ずかしながら本気だ。こんなことを言うと君はニヤニヤいやらしく笑いながら「若いねぇ、青いねぇ、春だねぇ、青春だねぇ」と言うだろう。――実際言ったのだから君はシラを切らないで欲しい。そして続けて「若さっていいな」と言ったんだ。俺の気持ちも知らないで。いや、今思えば俺の気持ちなんて手に取るようにわかっていたんだ。それでいてあんな残酷なことを言ってのけたんだ。なんてひどい人なんだ。残酷で優しい人。貴女は、年上のくせに少女のように輝く瞳で「少年、君にはまだ早い」と残酷なことを言ってしまう。それでも俺は懲りずに愛の告白をしてしまうんだが。そんなことをしたから若いなんて理由でふられてしまっていたのか。理由の一つにさえなっていないのに。そんなことを言ったところで貴女は笑みをガードに、言葉を武器にして俺を撃退してくるんだ。
◇ ◇ ◇
「好き、なんだ」
震えてしまった声に気づかないで。
いつものように戯れてついでのように言えない自分の幼さに泣けてくる。
「なぁ、頼むよ」
誰に縋ればいいのかわからない。
神に誓えばいいのか。
何だってする、と言いかけてそれこそガキ臭い台詞だと言うことに寸でのところで気がついて無理やり飲み込んだ。代わりに情けなく震える吐息が漏れ出てしまったが仕方ない。
「頼まれてもなぁー」
それなのに、残酷な人だ。
ひらり交わされてしまった。
「少年の気持ちはまだまだ未熟だよ。恋じゃない」
すべてを否定されたと思った。同時になんてやな女だ、とも思った。残酷な言葉をわざわざ選んでるとしか思えない。俯けばぽたりと涙が落ちてしまいそうなので、無理やり眉に力を込めて睨みつけた。
「それでも、好きだ」
後悔すればいい、と思った
ふったことを後悔して縋りついてこればいいと。
「ふふ、ありがとう」
ありがとうなんて卑怯だ。
貴女は否定したけど、本当に恋だったんだ。
小学生だって、立派に恋に落ちる。
貴女は笑って「確かに、情熱的な告白だったわね」と言ってくれた。
確かに恋だった。それも本気の。今でも振り返ると胸が痛む。特にこんな日はなおさら。
◇ ◇ ◇
「輝くん、来てくれてありがとう」
輝きを放つ貴女の隣で優しそうな男が気を遣って少し離れた。
その隙に奪ってしまいたいと思うくらい好きだ。
――それでも。
「…おめでとう、亜美さん」
祝いの言葉を送れるくらいには大人になったつもりだ。
ただひたすら想いを告げなくなってしまうくらいには臆病さを知ったつもりだ。
告げるだけが愛ではないと無理やり自分に言い聞かせることができるようになったつもりだ。
純白のドレスはやっぱり似合うな。
そんな風に強がりができるくらいには、年をとった。
「輝くん! 訂正する! 確かに君のは恋だったよ!」
ほらな。
だから言ったんだ。
――確かに恋だった、と。