もうこの唇に触れるものはない
「いや、そう言うけどさ。本当に好きだったんだよ? 世界の中心でだって叫びだせるほどの愛を持っていたのに叫ぶ勇気がなかっただけだよ」
失恋パーティーなんて酷い名目ってだけで気分が滅入るのに、そんなふざけた宴の主役が自分だなんて、やってられない。それに、お酒が入った今の状況も気に食わない。
苛立ちのまま言い放てば、待ってましたと言わんばかりに輝かしい瞳で友人達が反撃してきた。
「いやいやいやいや。あんたの態度からして、言われてもおかしくない台詞だからね」
酒のつまみに人の失恋話とはいいご身分で、と厭味を言ってやるとけらけら笑いながら「だから、あんたが悪いんだって」とのたまう有様。
「なんでよ」
いつもなら八方美人で誰にでもいい顔をする私でも、彼女達ハイエナの前で不機嫌さを隠すような、そんな愚かで無駄なことはしない。
本能のままに吐き捨て、勢いよく発泡酒を胃の中へと流し込んだ。
「好きかどうかなんてあんたの態度じゃわかんないって」
呆れながらもどこか楽しそうな友人の声音が余計に腹が立つ。
「だからって別れの台詞に『本当に俺のこと好きなわけ? 何考えてるわかんねぇんだけど』って言っても言いわけ? おまけに二股も許されちゃうわけ?」
――納得がいかない。
どんなに正当化しようとも浮気は“悪”だ。
それが世の中の常識じゃなかったの?
いつのまにか、それさえおとがめなしの世の中になっていたの?
――だったらくそくらえ、だな。
「二股はよくないけど、そうさせたのはあんただって話だよ。相手だって人間だよ? 高校生みたいなガキじゃあるまいし、好きって気持ちだけで一途に付き合いなんてしてくれないって。ギブアンドテイクだよ。すきって曖昧な感情にはそれなりの態度と言葉をあげないと向こうも不安だって」
お酒の席の説教じみた恋愛話ほど胸糞悪いものはない。
それに、いくら言われようと浮気をしても許される理由にはならない。
「だからって、」
「浮気を許せなんて言ってないよ」
先回りして続く言葉を奪われてしまい、仕方なく口を閉じた。閉じざる終えないほどの迫力が――悔しいが――彼女達にはあったからだ。
「言ってないけど、」
言葉を濁した彼女達にいまさら遠慮か、はたまた忘れ去られていた良心がめきめき頭角を現してきたのか、と己の荒んだ心とその狭さを反省しようかと思ったと同時に彼女達は大きな笑い声を響かせた。
「どう頑張ったって、不幸な女に変わりないわな!」
唾やらなにやらを豪快に口から飛ばしながら彼女達は心の底からの感情を吐露した。
己の荒んだ心?
その狭さ?
彼女達の良心?
「ふざけんな!」
何が不幸な女だ!
「恋愛してる女が幸せとは限らないんだよ! 馬鹿め!」
「出た! もう、恋なんて、しないなんて、槙原発言! 馬鹿だ!」
「そこ、感情込めて歌わんでいい!」
「可愛そうだな。浮気された上に恋愛トラウマまでつけられて」
「いや、恋愛トラウマになってるとしたら、あんたらのこの宴のせいだよ」
「まー、まー。ミサキちゃん失恋おめでとう会改め、ミサキちゃんの唯一のチャームポイントのぷるぷる唇にちゅーできない世の中の男に同情する飲み会にしよ」
天使のような微笑みを浮かべた。
「それにしても。お一人様宣言を声高にしたミサキちゃんって、本当に今後男の人と付き合わずに一生終わりそうだよね」
天使のような彼女達は今日も他人の不幸を肴にきらきらと輝く。
はい、お読みになってわかっていただけたかと思いますが。
タイトルの無理矢理感、目をつぶってください!(いまさらですが…)
ごめんなさい、本当に。