いい友達ずっと友達、残酷すぎて笑える
中学を卒業するときに誓った。
もうあいつと『マブダチ☆』なんて居心地の良い残酷な場所に落ち着いたりしない、と。
それなのに、あいつときたら悪意のない純朴な笑顔で私の懐に難なく入り込み、きらきらと輝く笑顔で私の名を呼んだりするからどうしようもない。
行き場をなくした感情を自分の何処に仕舞えばいいのかわからない。
雑にしまいこんだ気になんかなるからふとした瞬間にこの厄介な想いが顔を出したりするんだ。
やってられない、と強気にはき捨てた所で口元はニヤニヤと緩みきっている。
「葉月、口。にやついてるよ」
友人の呆れた声音が耳に届きやっと口元を引き締めた。
「葉月は結局、荻野とずるずるつるんでるから、そんなことになるんだよ」
友人の正論に胸が痛み、思わず顔を俯ける。
逃げ場はなくともできるだけ逃げたいと思うのは仕方ないことだと思う。
「ほら、またすぐそうやって逃げる。葉月が逃げたらもう終わりだからね」
ほっといてほしい、と言い放ってしまいたい。
それでも彼女はきっと許してくれない。
「…荻野が悪い」
「ばっか! お前が悪いんだよ! 荻野は誰にでも優しいみんなのアイドルだろ!」
悔しいかな、その通りだ。
◆ ◆ ◆
荻野とは、中学から現在――高校二年まで同じ学校で、今はクラスまで同じだ。そんな荻野がクラスの癒しとして中心に存在するのは自然な流れだった。その自然な流れさえも胃の奥のほうに違和感を感じるくらいには私もそれなりに荻野のことをどうにかしたいと思っていた。それもあとからついてきた言い訳に過ぎないけど。
「葉月」
荻野の聞きなれた声が聞こえた。私だけを下の名前で呼ぶことも優越感のひとつだということを荻野は気づいているのだろうか。
いや、気づいていない。鈍感で腹の立つ男が荻野だ。そして、下の名前で呼ぶことにこいつは特別な意味を込めていない。間抜けだ。私がひどく滑稽に思えてならない。
「なに、荻野」
「こないだ言ってた漫画、どうなった?」
「それなら持って来たよ。お兄ちゃんはもう読み終わったらしいから返すのはいつでもいいって」
「まじで?! 持つべきものはやっぱ友達だな! マジで最高!」
その輝いた笑顔がたまらなく好き。
そして同じだけ残酷で憎たらしい。
「葉月、まじでサンキューな」
ずっと友達で居たいと望む貴方を時々どうしようもなく憎くて、たまらない。
友達以上を決して望んでくれない貴方のぶれない純粋さに私はあらゆる感情を押し殺して押し殺して、それが一体何なのかも自分でさえわかっていないのに、体内の奥底で飼い馴らす。
「どういたしまして」
私の笑顔は荒んでいますか?
――笑っちゃう。