この恋を捨てさせないで
上京していった彼氏をあっさり手放したくせに、未だにうじうじと縋りついている目の前の女には、甘ったるい慰めの言葉も、喝を入れる少し残酷な言葉も、すべてが響かない言葉の羅列にすぎない。
「いい加減鬱陶しいなー」
うじうじうじうじ。
悩んでいるのか知らないが、何年経ったと思っているんだ。
「わかってる」
まったくわかっていない。
「私が今どうしようと、手放したのはこの私なんだから」
まるで呪いの呪文だな。
「お前ってホント厭味な女だよな」
それだけ全身でそいつのことが好きだって言っておきながら。
そいつのことしかみてないくせに。
俺の言葉なんて響きもしないくせに。
「私からしたらあんたのほうがよっぽど厭味な奴だって」
そうやって無邪気に笑うんだ。
「…どこがだよ」
俺のどこが。
「だって、こないだまで告白してきた女の子と次から次へと付き合ってたくせに今は全部断ってるんでしょ?」
考えられない、と彼女は頭を左右に振った。俺からしてみれば、お前のほうがよっぽど考えらんねぇよ。
「お前が首を縦に振らねぇからだろうが」
もう、何年俺が告白してると思ってんだよ。
この俺が。
「はいはい、ソウデシタネ」
わかってるくせに。
俺の告白が本気だって。
「なんだよ、その片言」
それでも俺たちは笑いあった。
俺の告白が本気だって知っているくせに、
彼女が前の恋を忘れたくないと知っているくせに、
――俺は何度だって告白する。
少し揺れたその瞳がもっと揺れればいいんだ。
困り果てて、もうどうしたらいいのかわからないくらい俺でいっぱいになればいいんだ。
本気に応えて断る勇気もないのはお前だ。
「ばーか」
お前の気持ちなんて知ったことねぇよ。
まさかの、タイトルである『この恋を捨てさせないで』が相手の彼女の気持ちであって、主人公の女の敵である男のことじゃないといううっとうしい作品でした。ドロドロで女の子が堕ちていくお話を期待してくださっていたら(そんな方がいらっしゃるか謎ではありますが…)ごめんなさい。
次のお題は『いい友達ずっと友達、残酷すぎて笑える』です。