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夢の続きをくれたのは、あなただったよ

 少し前を歩く学ランを着た学生が先輩だとすぐに気がついた。

 少しくせのある歩き方、いつも同じリュックサック、学ランから覗く彼お気に入りのパーカー。どれもこれもいつも見ていた先輩の姿だった。いつもなら何の迷いもなく、見かけたらすぐに走り寄って声をかけていたが、すんなりと出来ないほどには気まずさと乙女心が悲鳴を上げている。それでも少し迷って、でもやっぱり声をかける勇気が湧いてこなかったので、後ろ姿だけでも、とじっくり観察していると先輩が急に振り返った。


「あれ。ミャー」


 相変わらず優しく響く声音が心地良い。それに似合う爽やかな笑顔もたまらない。たまらなくて、痛い。反射的に泣き出してしまいそうになる自分が嫌いだ。


「おはようございます、先輩」


 それでもなんとか声を震わすことなく対応できた。


「おはよう。早いね」

「今日は日直なんで早めの登校です」


 三年生である先輩は現在自由登校のはずだ。

 もう会うことができないだろう、と腹を括ったのに、こんなに早く会ってしまうなんて。あの時の気合いをどうしたらいいのか。

 もちろん嬉しさが素直にこみ上げてもくる。それとは別の何かも込みあがってきてしまうのもまた事実だ。

 そんな感情に気付かないフリをして極力明るい声で「先輩はどうしたんですか?」と尋ねた。


「俺は報告しに。…昨日合格発表だったんだ」


 そんなこと知っている。

 どうして登校するかなんて知っていて聞いているのに。

 何が日直、だ。当番でもなければ、日直だからといって早く登校する生徒が今時いるはずもないのに。

 そんなことお互いがわかりきっているのに。


「どうだったんですか?」

「おかげさまで」

「おめでとうございます」


 心のそこから祝いの言葉が出てきたのか甚だ疑問だが考えるよりも先に口からこぼれ出た。


「…ミャーはもう進路決まってるの?」


 本当は先輩の後追って同じ大学に通いたいと思っていた。

 先輩と肩を並べて歩くことが夢だった。

 先輩との未来を描いていた。


「私は、県外になるかもしれません」


 それは本当だった。担任から今の学力と今後の伸びしろを考慮して少し上の大学を目指してみないか、と先日の面談で言われたばかりだった。それでも、そのときは先輩との未来を、夢を、叶えたいがために跳ね除けたはずだった。それなのに可愛くない本来の私が負けず嫌いに拍車をかけたように口をついて出てきた殊勝なセリフに、ホントはそんなことない!と叫び出したい。そんなことできもしないくせに。


「そうかぁ。近いうち、ミャーともお別れになるのか」


 引き止めて欲しかったと思っていたのかもしれない。チクリと痛い胸から逃れるように「そうですね」と相槌を打った。

 あまりにもあっけない。

 最終登校日に先輩に泣いてすがったのは何処の誰だ。

 泣く私を目の前に先輩はただみつめていただけだった。

 当たり前だ。

 可愛い彼女がいると知っていながら、無理に己の気持ちをぶちまけたんだ。迷惑の何者でもない。

 先輩は望んでなどいなかったのに。可愛がってもらっていたのに。


「さびしくなるな」


 それでも。

 それでも、そんな罪な一言を何食わぬ顔で言い放つ先輩に心が救われるんだからもうどうしようもない。


「…そうですね」


 先輩の彼女として隣を歩きたいと毎日願っていた。

 可愛い彼女のことを思っている先輩に私を見てと駄々をこねたかった。

 それでも、そんな夢が叶うことはなかったけれど、先輩はとても優しくて罪深い人だった。


「ミャーのこと、忘れないから」


 最後の最後まで先輩にとって可愛い後輩止まりであることは百も承知だった。

 この恋が報われないのはわかりきっていたのに、それでもいつも欲しい言葉で優しい声に乗せて言ってくれるのはこの人だったんだ。

 そんな優しいこの人以外を好きになることなんて不可能だった。

 だからいつも願ってしまった。

 先輩の隣に立っていること。

 そんなこと、叶うはずないのに。

 それでも先輩は先輩なりの優しさで隣を歩くことをこうも容易く許してくれた。


「先輩」


 そんな先輩の優しさを踏みにじるのはいつだって狡猾で意地汚い私だ。


「夢に見ていました。先輩の隣で肩を並べて歩くことができたら、と」

「ミャー、どうしたの。今歩いてるだろ?」


 それは先輩の優しさだ。

 わかっている。こんなこと間違ってる。

 それでも言わずには居られない。


「でもだめなんです」

「ミャー…」


 先輩は先輩なりに考えて私の夢の続きを紡いでくれたというのに。


「先輩がどうしようもないくら好きでした」


 後輩として、隣を歩くことを許してくれたのは紛れもなく先輩でした。


「ミャー、ありがとう」


 前回の告白では、先輩の答えがわかりきっていることを良いことに、ただただ泣くことしかできなかった。受け入れたくないという甘えだったのかもしれない。


 甘い夢も苦く苦しい夢も見させてくれたのは先輩でした。

 本来、このお話は学生編と社会人編二つで一つのお話として執筆していたのですが、如何せん、長くなりすぎる!短くしていくとなんかわけわかんない感じになっちゃうしなぁ、と書いたり消したりしてたらもう『学生編だけでよくね?』という結論に至ったので、少し物足りない、不完全さプリプリの短編となってしまいました。お粗末様です。社会人編はどこかでまたアップしたいと思います。次のお題は『愛せなくてごめんね』です。もうテンションあがります。うふ。

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