オープニング
王国プレニルニオ。
この王国において、黒は闇の象徴であり、畏怖の対象となる。
それ故に、この国において黒い髪と黒い瞳は珍しいものなのである。
そんな王国プレニルニオのギルドには、異端の男がいた。
異端の男は、闇をそのまま切り取ったかの様な男なのだ。
首元で纏められた長く艶やかな黒髪に暗黒色の瞳。
切れ長のそれは時に鋭く、時に甘い。
長身で引き締まった細身の身体はよく鍛えられており、それは服の上からでも見て取れる。
黒の長衣を纒う異端の男…ベッセル=ジュードロウは、なかなかの色男であった。
その上、ずば抜けた戦闘能力と魔力を以て依頼を完璧に遂行する、S+ランクの暗殺者である。
双剣を閃かせ駆ける姿は剣舞のように見る者を惹き付け、操る魔術はあらゆるものを圧倒した。
そう、彼は暗殺者でありながら高位魔術も扱うという、天に二物も三物も与えられた男なのだ。
これが、彼が異端たる所以である。
しかしその男。
残念な事に、事ある毎に厄介事が飛び込んでくるというとんでもない巻き込まれ体質なのであった。
喧嘩の仲裁に入った回数は数知れず、幾度となく修羅場に巻き込まれ、ならず者を叩きのめし、引き受けてもいない依頼を解決するハメになってしまうのだ。
勿論、全てタダ働きである。
なんの利益にもならない事に、これでもかというくらいに巻き込まれるのだ。
どうしてこうなった…
これが、彼の口癖である。
しかし、それがあるからこそ暗殺者であるはずの彼は、城下町に住む人々から迫害も差別も受けず、生活をする事ができているのだった。
『敵に回さなければただの良い人。』
これがベッセルに対する大方の評価である。
その事実も、彼が異端たる理由であろう。
そんな異端な彼の居所は、深い森の中にあった。
何でも、彼の父親の代でその森に棲む王と契約を交わし、その地に居を構えることとなったとか。
不便ではないかと聞かれれば、決してそんなことはない、と答えるだろう。
なぜならベッセルは、ドアを使って空間を繋げる事が出来るから。
まさに、どこでも…何とやら、である。
ドアがなくても出来るらしいが、過去に失敗した経験があるとかないとか。
今は彼の活動拠点であるギルドと、街のどこかに繋げられているようだ。
ちなみに、ベッセルの許可がなければ通行出来ないため、襲撃の問題はない。
ベッセルの方から出る分には特になにも要らないが、ギルド側から入るには、『ギルド紹介状』が必要らしいと専らの噂である。
そして、その『ギルド紹介状』によってある日舞い込む依頼が、彼の人生を大きく狂わせてしまうということを、彼はまだ知らない…
ひたすら最強な主人公が書きたかったのです…