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ローザニアの聖王子  作者: 小夜
第八章
71/78

森の朝 … 1

 レオニシュ・ポール・ペルデュヴァトール・グラピール・ラドモラス博士は、このところこまることが多くて、ため息ばかりついて暮らしている。


 彼がこまる原因は、さまざまにある。


 もっとも単純な悩みは、今現在の彼は王家の客として遇されている身なので、あてがわれた客室から出るときには必ず窮屈なネクタイをしめなければならないということ。気楽な田舎医者の暮らしになじんだ今では、ネクタイを締める必要に迫られる生活が拷問のように思える彼なのだ。


 もう少し悩みらしい悩みといえば、この国の王子の命を救ったせいで彼は国王から大げさな勲章を賜ってしまい、そのあと、まるで連鎖反応でも起こったかのように除名処分を受けていた学士院からは陳謝と学位の返還があり、名誉の回復がなされたということ。


 正直なところ、レオニシュにとっては、勲章も名誉も、どうでもよかった。


 10年前、とある事件がきっかけで、若手学者の研究のあら捜しを生きがいにしている大先生方との縁が切れた時には、「ああ、せいせいした!」と思った彼なのである。あるのは過去の業績だけで新しい研究成果など何もあげていない年寄り連中ばかりが金や権力を背景に幅を利かせている学士院は、学問の発展を妨害する存在ではないかとさえ、レオニシュは思っている。


 学士院から追い出されたあと手にした自由な気風のなかで好きな研究に没頭できる地方にある学問都市での生活は、じつにすがすがしく、充実したものだった。学士院での地位や名誉に固執しない研究者たちが、晩年を国境の学問都市ですごしたがる理由を、身をもって知ったレオニシュである。


 それに、大勢の弟子にかこまれて「先生、先生」ともちあげられる生活よりも、実際に苦しんでいる患者のそばにいて「ありがとう」と言われる生活のほうが、貧乏だろうが、不便だろうが、心の健康のためには何倍もよい。


 つまり、博士の称号にも、何の未練もなかったのだ。


 その思いをこめて、レオニシュは目の前の人に訴えた。


「だからさあ、俺は切実に、ローザニアの東の果ての街、アミテージに帰りてえのよ。クレオに任せてきた診療所も心配だし。それになにより、草原の乾いた風が懐かしい」


 レオニシュの話を聞いていた若い男は、口元に共感の微笑を浮かべて、おだやかにうなずいた。


「草原の風ですか。あの風を懐かしむ先生のお気持ちは、よくわかります。わたしも、あの風と共に育った人間ですからね」


 興奮気味に、レオニシュは身を乗りだす。


「だろ? だろ? 今日でめでたく、おまえさんの傷の包帯も取れたことだし! もうここへ、診察をしに来る必要もないしさ!

 だから、頼むよ、王子殿下! 俺を帰らせてちょうだい!」


 レオニシュがぐるりと見まわす部屋は、無駄な装飾をおさえた格調高い家具と落ち着いた色味の調度品で整えられた書斎風の部屋である。明るい窓際に配された机の上には書類がうずたかく積まれており、いかにも忙しい役職についている高貴なお方の執務室といった雰囲気の部屋だ。


 いま、その部屋のドアは開かれており、ついさっきまでレオニシュの手伝いをしていた宮廷医の助手が診療道具を載せたワゴンを押して出ていくところだった。


 俺も一緒に出ていきたいよ、とレオニシュは思ったが、彼はあくまでも一介の医者であり、お許しもないのに高貴なお方の御前から下がれる身分ではない。


 恨めしそうな目で見ているあいだに、ドアは閉まってしまう。


 レオニシュは本日何度目かの、深いため息をついた。


 診察を受けていた椅子から立ちあがり、小姓の少年に上着を着せかけてもらいながら、王子と呼ばれた青年は口元の笑みを深めた。その微笑は鮮烈な印象で、誰もが目を離せなくなってしまうたぐいのものである。


 周囲の者たちの手厚い看護のおかげで、ローレリアン王子はすっかり元の冴え冴えとした容貌を取りもどしていた。以前と変わったことといえば、銃で撃たれた傷をかなり悪化させてしまったために、左の腕が肩より上には上げられなくなってしまったことくらいである。


 しかし、王子が命とひきかえに失ったものがその程度であったことを、周囲の者たちは喜んでいる。王子を失ったらローザニア王国はどうなるのかなど、もう二度と考えたくないと、彼らは思っているのだ。


「先生」


 ローレリアン王子は、自分の師であり、もう一人の父親のように思って慕っているレオニシュの眼を、のぞきこむようにして言った。


「わたしは、先生には王都へお留まりいただきたいと、切に願っております。先生の助手のクレオが優秀な人だということは、わたしだって知っておりますしね。アミテージの診療所は、彼に任せていただくわけにはまいりませんか」


「いや、だから、それは……」


 レオニシュは口ごもった。


 こいつはもとから綺麗な顔をしたやつだったが、3年ほど会わなかったあいだに、ますます印象的な雰囲気を持つようになったなと思う。こんなに近くから眼をのぞきこまれたりしたら、こちらの全身が硬直してしまうからこまるのである。


 そう。レオニシュが目下一番こまっているのは、この秀麗な容姿の王子殿下に、とっつかまってしまっている感じから逃れられないことである。王子の元へ訪れるたびに感じる、この居心地の悪さは、どうにもしがたい。


 おたおたしているあいだに、レオニシュの手は王子に握られてしまう。もう逃げられない態勢である。


 手を握りあった大人二人のそばで、王子の小姓のラッティ少年は、こっそり笑っていた。彼はローレリアン王子の人となりを知り尽くしているので、これから王子がどう出るか、簡単に予測できるのである。


 その彼の予測とは、「ああ、先生ってば、お気の毒に。リアンさまに捕まっちゃったら、どうあがいても、もう逃げられないよ」である。すでにローレリアン王子の人材蒐集癖は、仕事というよりは、趣味の域に達している。社会のために役立ちそうな人材を登用する、こんな良い機会を、王子が逃すはずはないのだ。


 ラッティの予測は外れることなく、レオニシュは追い込まれていく。


 自分の命を救ってくれたことに対する感謝からはじまった王子の言葉の勢いは、いつのまにか攻めに転じていた。


「もう学士院の老害ともいうべき大家の先生方とかかわるのは、まっぴらごめんだと、レオニシュ先生はおっしゃいますが。


 よく考えてみてください、先生。

 先生のあとにつづく若手の学者たちも、同じように感じて、苦しんでいるのですよ?

 先生は、彼らを、お見捨てになるのですか?

 本物の学問とはいかなるものであるかを、悩み苦しんでいる若手の学者たちに、教えてやるおつもりにはなりませんか?


 どんなに一生懸命研究に励んでも、金や権力の後ろ盾を持っていないと、その研究成果を世間に発表することすらできない。そんな、いまの学問の世界の在り方は、おかしいでしょう?

 これからの時代、科学をおろそかにする国に未来はないと、わたしに教えてくださったのは先生でしたよね?


 国王陛下がレオニシュ先生に、学問の世界の最功労者に与えられる『誠敬勲章』を贈られたのは、単なる感謝からではありません。御苦労を重ねても、研究者としての初心を忘れず、御自分の学問を追及してこられた先生にこそ、あらゆる人から誠の尊敬を受ける資格があると信じればこそです。


 先生、わたしも及ばずながら、できることは何でも協力いたしますから。

 学問の世界を、作り変えていきましょう!

 『誠敬勲章』を賜ったレオニシュ先生には、国家の後ろ盾がついたのです。

 その先生が後進へ誠の道をお示しになれば、旧態依然とした学問の世界の気風も、変わっていきますよ!」


「いや、だから、俺は勲章などいらんと……」


「すみません。先生のお気持ちはよくわかりますが、先生に『誠敬勲章』を贈る決定がなされたのは、わたしがいまだ療養中の身だった時のことです。わたしが知らなかったこととはいえ、先生に多大な責務を背負わせてしまったことに関しては、心からおわびいたします」


「うーん」


 うなるレオニシュの額には汗が浮かんでいる。


 本当に、お気の毒にと、レオニシュの顔を見てラッティ少年は思った。


 王子が重体で寝込んでいるとき、いつもお側に控えていた彼は知っている。ローレリアン王子はベッドの上で自由にならない身体にいら立ちながらも、時機を逸してはならないことに関する命令は、せっせと発していたのだ。口述筆記された手紙をもって、ラッティは王宮のあちこちへお使いに行かされた。レオニシュへ勲章を授与する決定に王子がかかわっていないというのは、嘘に決まっている。


「先生」


 王子は真摯な光をたたえた瞳で、再度、恩師を見る。


「わたしは、先生ならば、我が国の学士院の無能ぶりを正してくださると信じております。

 学問の世界の風通しを良くしたいという願いは、学問や芸術を愛する、わたしの父の願いでもあるのですよ。

 その父の願いを、どうか聞き届けてやってはくれませんか。

 わたしは、幼少時代、先生に可愛がっていただけて幸せでした。

 両親の存在を知らされずに育ったわたしにとって、先生はまさに、父親のような存在でしたよ。

 わたしの実の父である国王陛下の願いを、育ての親である先生がかなえてくださるとは、いったいどういう巡りあわせなのでしょうか?

 わたしは、ここに神々のお導きを感じずにはいられません」


 レオニシュの表情が、切なげにゆがんだ。


 理詰めで攻めたあとは、情に訴える。王子の弁舌は、いつも巧みに変化していくのだ。


 そのうえ、飴と鞭は、交互に少しずつ、相手に示される。


「じつは、先生。これはまだ、内々の話ですが。

 この度の大火で燃えてしまった東岸の街の中心地には、新たに国の施設をいくつも置く計画が構想されているのです。

 焼け出された人々には当面の仕事が必要ですし、そのためには公共事業を起こすのが、もっとも手っ取り早いですからね。

 計画している施設には、国立の学問所や病院も含まれています。

 ここには我が国が大国の威信をかけて、毎年巨額の予算を投じる予定です。

 その国の施設のどれかの指導をお引き受けいただければ、これから先生が研究資金に不自由されることはなくなるでしょうね」


「うっ……!」


 巨大な研究資金。その魅力あふれる餌を目の前にぶら下げられて、誘惑に打ち勝てる学者が、どれほどいるだろうか。レオニッシュも絶句したあと、さらに汗をかいている。


 さあ、あとひと押しだ。


 そう思って心の中でほくそ笑んでいる様子など、王子は欠片も表には見せない。


 あくまでも誠実に、説得の言葉はくりだされる。


「そういえば、先生。

 先生は、物理学者のパシフィエ博士をご存知ですか。光の性質の研究の、第一人者ですが」


「ああ、知っているが」


「先日、有名なガラスレンズ工房の親方とパシフィエ博士の間を取り持つ機会がありましてね。海の男であるラカン公爵とわたしはかなり親しいので、性能のいい望遠鏡の開発の話から、そのような流れになったのですが。

 もし、先生がお望みでしたら、その二人ともお引合せいたしますよ?

 望遠鏡開発の理論は当然のことながら、拡大鏡の性能向上にも使えますよね?

 パシフィエ博士は、拡大鏡も理論上なら倍率600倍くらいまでの性能設計が可能だとおっしゃっていました。

 先生、600倍ですよ、600倍!

 先生が追い求めておいでになる、病原性微生物の存在を明らかにする研究も、この拡大鏡があれば、さぞかしはかどることでしょうね」


「600……、だと?」


「はい、600です。

 もっともこのお話は、先生が王都へ残ってくださることが大前提のお話です。

 物理学の権威であるパシフィエ博士との共同研究となれば、それなりの研究費も必要になりますから」


 王子は満面に笑みを浮かべた。


「夢が膨らみますねえ、レオニシュ先生。

 学者同士の連携で学問は飛躍的に進み、我が国にしかつくれない『物』は、産業を発展させ、経済を潤します。

 知識もまた、国家の財産ですよ。

 学問は手厚く国に保護されるべきだと、わたしは思っているのです」






     **     **






 王子殿下との対談を終えて黒の宮の廊下へ出てきたレオニシュは、複雑極まりない心中を、そのまま表す顔をしていた。すなわち、眉間には深いしわが刻まれ、口元は険しく引き結ばれているのである。


 彼の頭の中は、沸騰状態だった。


 倍率600倍の拡大鏡は欲しい。潤沢な研究資金も欲しい。王子を通じて生物学以外の学問の第一人者と懇意になれれば、さまざまな共同研究も立ち上げられるだろう。


 しかし、そのために自分が背負わなければならない義務を考えると、気が遠くなる。


 うんうんうなりながら歩いていたら、忙しそうに人が行きかう明るい回廊で、レオニシュはアレンと出会った。


 深緑の軍服を一分のすきもなく着こんだアレン・デュカレット卿は、背筋をまっすぐにのばし、いかにも軍人らしいきびきびとした動作で立ちどまる。


「こんにちは、ラドモラス博士」


 そう呼ばれたくなくて悩んでいるレオニシュは、たちまち顔を赤くして声を荒げた。


「うるさいわっ! この、ぼんくら士官め!」


 周囲にいた者たちが足を止め、驚いて身を引く。


 黒の宮にあって『王子殿下の影』と呼ばれるローレリアン王子腹心の近衛士官、アレン・デュカレット卿の存在を知らない者はいない。とくに今回の騒動では、王子に万が一のことあらば、みずから殉死する覚悟で挑んだアレンの行動が、騎士たる者の誠の忠誠の手本であるとされ、華々しく世間をにぎわせているのだ。


 その有名人物を『ぼんくら』呼ばわりしたのだから、注目を浴びないわけがない。これはまずいと思ったアレンは、何でもないんだよと周囲に目くばせし、歩きながら話しましょうと、しぐさでレオニシュへうながした。


「先生、声が大きいですよ。ご機嫌が悪いようですね」


 先日19歳になったという近衛士官の落ち着きぶりが、なおレオニシュをいら立たせる。いまのレオニシュはいわば、急に大人になってしまった息子たちから、軽くあしらわれた気分なのだ。


 愚痴っぽい口調で、レオニシュは言った。


「なあ、アレンよ」


「はい」


「ローレリアンはいつのまに、あんなふうになっちまったんだ?」


「あんなふうとは、何をさして?」


「なんというか、あいつ、怪物じみてきたぞ。

 綺麗な顔をしているくせに、腹で何を考えているのかは、さっぱりわからん。

 言葉巧みに、自分が思っている方向へ、こっちの答えを誘導するし。

 俺はやつと話していると、怖くなってかなわんのだ」


「そうですねえ」と、アレンは遠くを見る。


「リアンのやることが、なんでも常人離れしているのは、昔からじゃないですか?

 あいつは先生の所にいたころから、普通じゃありませんでしたよ。

 たとえば、この本は社会学の先生のところから一晩だけの約束で借りてきたから、いますぐ読まなければならないんだとかいって、分厚い専門書を、ぺっ、ぺっとめくりながら、一時間ほどで読んでしまったりしてましたよね。

 あんまり早いものだから、ちゃんと内容が頭に入ってるのかなと思って、本を借りていくつか試験めいた質問をしてみたら、リアンがすらすら答えるもんで、俺は愕然としたことがあります。やつときたら、細かい数字までちゃんと記憶していましたからね」


「そういえば、そんなこともあったなあ」


「ただ、先生の所にいたころは、その能力を自分の身のまわりでしか使っていなかったでしょう。

 宝の持ち腐れ状態だったのが、王子の地位を得たせいで、本領発揮へ至ったんですよ。

 つまり、常人離れした能力の持ち主が国政にかかわるとこうなるという見本が、いまのリアンなんじゃないでしょうか」


「なるほど。うまいことを言う」


「頭が良すぎるのも、なにかと大変そうですよ。人の何倍もの速さでものごとを考えるから、余計なことにまで悩むみたいですし」


「いまじゃ、そもそも悩みのレベルからして、凡人とはちがうしな」


 機嫌を直したレオニシュは、愉快そうに笑った。


 アレンは、ため息だ。


「悩みの量もですよ。なにしろ、あいつの最大の心配事は、国家の行く末ですからね。おかげでリアンは、自分自身のことは、いつもあとまわしだ」


「侍従にかしずかれて暮らしているから、身の回りのことについては、何も考える必要がないしなあ。どうしても気持ちは外へ向くだろう」


「そうなんですよ。へたしたら仕事のことしか考えないで何日もすごすから、そのへんは側近の俺たちが気を配ってやりませんと」


「ふむ」


「というわけで、レオニシュ先生。リアンの怪我の具合はいかがでしょう? 今日あたり天気が良いので、遠乗りにでも連れ出そうかと思うのですが」


「おお、そいつぁいい。つれてけ、つれてけ。

 傷そのものは、もう問題ないんだ。あとは、うまい物をいっぱい食べさせて、いい空気でも吸わせておけば、元通りの元気な身体にもどるさ。若いんだからな」


「来週に入ると、国王陛下の御生誕50年記念式典関連の行事がはじまりますから、また忙しくなるんです」


「国王陛下御生誕50年記念式典か。いつのまにやら、季節が秋になってしまったなあ……」


 レオニシュとアレンが歩いている黒の宮の中心部にある回廊へ降り注いでいる光は、おだやかな秋の日差しである。風もさわやかで、今日の午後の天気は、いかにも外出にふさわしく思えた。


 胸いっぱいに空気を吸うと、すがすがしい気分になる。


「俺も、でかけるかな」


 よく晴れた空を見上げて、そう呟いたレオニシュに、アレンはたずねた。


「先生も、遠乗りにご一緒しますか?」


 レオニシュは笑って答えた。


「いや、俺は街へ行く。サヴァント街あたりに、手ごろな部屋を探そうかと思ってな。リアンの体調も、ほぼ復調したし。王宮の客でいるのは、窮屈でかなわんのだ」


「王都へ腰を落ち着けるんですか。とうとうリアンに説得されましたね?」


 したり顔のアレンにむかって、レオニシュは鼻息を吹く。


「ふんっ! 不肖の弟子の、言いなりになったわけじゃない! ただ俺は、600という数字を無視できんだけだ!」


 数字の意味が理解できなかったらしく、アレンは首をかしげた。そのしぐさを見て、レオニシュは嬉しくなった。まだまだ若いものには、負けないぞというわけだ。


 最後は年長者らしく、説教で閉めておく。


「とにかく、リアンは働きすぎだ。

 今回の負傷があそこまで悪化した原因には、蓄積した疲労とか、精神的な負担とかいったものも、大きくかかわっているんだぞ」


「はい、おっしゃる通りだと思います」


「しっかり、遊びにも連れ出してやれ」


「そうします」


 うなずいたアレンは前方を見て、にやりと笑った。でかけた先で、何か楽しいことでもする計画が、きっとあるのだろう。


 その笑顔には昔のやんちゃな少年剣士の面影が残っており、レオニシュは、ますます嬉しくなってしまった。困難に立ちむかって打ち勝ち、また新たな未来へむかっていこうとする青年たちの鮮やかな生きさまを見て、嬉しくならない年長者はいないのである。

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