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ローザニアの聖王子  作者: 小夜
第五章
43/78

王都炎上 …14

 アルメタリア将軍の予測の正しさは、それほど時間を置くこともなく証明された。


 この日、ローレリアン王子の要請にしたがって東岸の火災消火活動支援のためにレヴァ川を渡った市民の数は、明け方までに五千人を超えた。


 これだけの労働力をいっぺんに東岸へ渡河させることに成功したのは、軍隊の手柄でも、消防隊の手柄でもなかった。ましてや、ローレリアン王子の手柄ですらない。


 王子は対策本部の議場となった天幕の中で、論議の行方をうまく誘導しただけだった。大火への対策に有効だと思える提案があるものは誰でも会議に加わわってよいとし、最終責任は自分が取ってやるから忌憚(きたん)のない意見を述べてみよと宣言して、誰でも物が言える雰囲気をつくったのだ。そのうえで、よしとした意見に支持を表明し、提案者を励まし、計画実行を妨げる問題を解決する支援を与えたり、必要な労働力の割り振りを指示したり、関連部署との調整役をはたしたり……。


 その結果、なんと市民たちは、たがいに協力しあってレヴァ川の水面(みなも)に貨物輸送用の平底船をならべ、船同士を渡し板でつないで、大河に浮橋をかけたのである。


 その偉業を成し遂げたことで、市民たちは誇りと自信を持った。


 自分たちの街は自分たちで守らねばという意識を持った市民は、全力をつくして東岸の街の火を消そうと努力したのだ。


 まさに、活動の主役は市民であった。


 しかし、市民たちの活動に対して指導的な役割を果たした街の役人や世話役などは、彼らの行動を支えたローレリアン王子にそなわっている、ものごとの本質を見極める力や集団をまとめる力、そして、深慮に裏打ちされた確かな決断力に驚かされていた。王都大火対策本部の長として、どっしりと構えた青年は、ここぞというところでだけ、彼にしかできない決断を打ち出してきたのだ。


 レヴァ川に浮橋をかけて東岸へ大量の作業員と資材の投入ができるようにしようと言い出した水運協会の幹部達に、浮橋によって一時的にレヴァ川の上流と下流を行き来する交通を()き止めてしまう許可を与えたのは王子である。


 また、燃え広がる大火を食い止める防火帯を東岸の街のどこへ築くかという問題に、最終決定を下したのも王子だ。一通り会議の参加者から意見を聞いたあと、王子はここだと、地図の上に指で線を描いて見せた。


 その選択には、誰も文句を言わなかった。自信に満ちた口調でローレリアン王子が「ここしかあるまい」と言ったのだから、防火帯はそこに築くべきなのだ。人と物を運ぶ作業は順調に進行中。あと必要なのは、計画を実行に移す強力な命令だけだった。


 夜を徹しての作業は市民の熱意に支えられて、着々と進行した。明け方には、まだ火がまわっていない東岸の街の3分の1ほどが、燃えている街から防火帯で完全に分離された。建物を壊して築いた防火帯の幅は、広い場所で30モーブ、狭いところで8モーブほど。夜明けの光を得て、市民はさらに疲れた身体に活を入れ、少しでも防火帯を広げようと努力した。飛んでくる火の粉によってさらに延焼が広がらないよう、守りたい街並みには苦労して運びこんだ最新型の消防ポンプで放水がくりかえされる。


 働く人々は思っていた。かつて、王都プレブナンの住民が、身分の差も貧富の差も乗り越えて、これほど一つにまとまったことがあっただろうかと。


 そして、この夢のような団結を生み出して支えているのは、彼らの国の民が『ローザニアの聖王子』とあだ名し、期待をよせている若き王子なのだった。

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