商人の息子
こうして、赤ちゃんとの生活一日目は無事にーーではないが、終了した。
一日赤ちゃんと過ごして、私は重大なことに気が付いた。
前世の紙おむつはおそらく、神の代物であったのだと。
フェレ助に教わりながら、布おむつを定期的に変えてやろうとしたけれども、かえの布おむつなど待ち合わせが無い。
というか、布おむつを置いているお店すら知らない。
(えっ、今世で赤ちゃんが居るご家庭は皆どうしてるの!?)
そんな疑問は横に置いといて、ラファエルの布おむつと似た手触りの布が、この邸宅にないかを探ってみたところ、私の肌着がおむつのそれに近いと感じたので、試しに一枚切り裂いて、当てがってみた。
「う、うー?」
ラファエルは肌触りの違いに敏感なのか、やや疑問を抱いた表情だったが、泣くことはなかったのでひとまず肌着を何枚か切り裂いたものをおむつのストックにしたものの…
今度は私の肌着自体、そもそも少ないという壁にぶち当たった。
(これは…、早急に何とかしないと…リサにそれとなく、他のご家庭のオムツ事情を聞けば良いのかしら?今日の食材担当がリサでありますように…)
「おむつを川で洗って二階に干して来たフェレー♪こっちは乾いたおむつフェレ!」
るんるんと乾いたおむつを持って登場したフェレ助に、慣れない頭を働かせていた私は、一気に癒される。
そう、何を隠そうこのフェレ助、戦わないだけで、ちゃんと前世のノケモンのキャラ設定通り、水と氷の技が巧みに使えるーーつまり、水仕事は大の得意なのである。
「フェ…フェレ助!!」
「だー♪」
感動してむぎゅむぎゅとフェレ助を抱きしめる為に腕を広げたところ、ついでにラファエルも割り込んできて二人…いや、二匹?を同時に抱きしめることで、この一日の苦労が報われた気がした。
そんな時ーー外で馬車の音が近寄ってきて、エミリアの邸宅付近に止まると、人の声がチラホラ聞こえてきた。
「何の音フェレ?」
「あー、いつもの商人の人達ね。
此処の近くに屋敷の貯蔵庫があるの。今日は侯爵令嬢がくるから、その宴会で使う食材やらを置きにきーー」
(そうだ!!
商人なら、おむつの売り場どころか他にも色々必需品を揃えてもらえるのでは?)
♢♢♢
(話しかけやすそうな人が良いわよね…)
ラファエルをフェレ助に預けて、商人達の積み下ろし作業を物陰に隠れながら眺めていた。
すると、何やら会話したかと思えば、一人の少年を除いて、他の商人数名は本邸の方に歩いて行った。
残された青年は、腰に手を当て、頭をポリポリと書いて一息つくと、荷下ろしを再開するべく屈む。
「はー、かったりぃな」
「あのー」
突然声をかけられたからなのか、少年はびくりと肩を揺らして直立する。
「は、…え、と。貴女は?」
私が誰なのか、もっともな疑問だ。上から下まで私を観察して推測を立てているようだったが、ピンときていない。
「私は、この辺りの離れに住んでいる者でして…」
「離れに…すると、えーと、見たところ、上級執事のお子様ですか?」
(身なりと手の使用具合的に、小伯爵様の言ってた令嬢とは、別か?)
レオンが考えている一方で、エミリアもこんなことを考えていた。
(執事ーーなるほど)
この中途半端に高価な素材の服なのに、買い替えていない薄汚れ感が、そう思わせてしまったのかも知れないとエミリアはすぐに察した。
現実はもっと厳しい立場であるが、上級執事の威を借りたら無碍には出来ないだろう。そう思い至り、否定はしないことにした。
「まぁ、その様なものです!」
「そうですか。
それで、何のご用ですか?見ての通り、一人で荷下ろしをしなければならないので率直に教えて頂けるとありがたいです」
「ご、ごめんなさい。では、私も一緒に荷下ろしをしながら話しましょう」
「いや、お客様の…」
「私はここの屋敷の子ではありませんから、気兼ねはいりません」
「……わかりました。
では、お願いします」
こうして、荷下ろしをしながら、話すことにした。
(それにしても、この商人の青年…小説の豪商、レオンに容姿の特徴が似てるわね。整った顔立ちに日焼けした褐色の肌、翡翠の瞳。
そして黒髪ーー珍しいものでも無いのかしらね)
全く関係のないことが頭によぎりながらも、エミリアは荷物を抱えて歩きながら、本題を話した。
「皇族の赤ちゃんがしている素材のおむつが欲しい?」
聞き間違いか?と言わんばかりの表情をしている少年に、エミリアはこくりと頷く。
「そう。あと、これは普通ので良いのだけど赤ちゃんの服も欲しくて。し、親戚に。お祝いのプレゼントで一式揃えてあげれば喜ぶかと思ってね!」
苦しい言い訳であるが、エミリアが思いつく限りの理由を添えた。
「ぁあ、祝い事か。
良い素材のものが良いとは依頼されるけど、皇帝まで持ち出す人は初めてだったから驚いたぜ」
互いに使われている者同士で年も近いからなのか、話すうちに自然と砕けて話すようになっていた。
この話を切り出すまでに、彼が商人の息子で、今日は手伝いに来ていることまで聞き出せてしまった。
(下手に大人の商人に話しかけなくて良かったかも)
「手持ちの予算を見せてくれよ。その中で見繕って明日にでも持ってきてやるよ」
「え!?いいの?」
「こう見えてもうちの商会は、仕事が早くて正確を売りにしてるんだぜ?赤ちゃん用品くらいなら直ぐに手配は出来るさ」
(こ、この人ーーめっちゃやる気無さそうだったのに、まさかの仕事出来る商人だった!)




