表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/16

フェレ助誕生

「四日後の夕方頃、アリッサ様がいらっしゃるので、くれぐれもお目に触れて不愉快にせぬ様、よろしくお願い申し上げます」


 こちらは〝今それどころでは無い〟と叫んだのに、扉をどんどんどんどんとしつこく叩くので、何かと思えば本当にどうでも良い内容だったので、あからさまにげんなりした表情をしてしまった。


 これにより、侍女マーサは「大事なことですよ?お立場をご理解されているのですか!?アリッサ様はカイン様の次期婚約者であり、貴女様とは違い由緒正しき侯爵家の〜」と、もはや聞き飽きたいつも通りの台詞を吐いて、話が長くなりそうになった時ーー


 マーサの頭上に、ポトリ、と何やら落ちた。


「?」


 マーサと私が目線を上げると、そこには鳥の大群が空を横断しているところで、何故かマーサを重点として白いフンが降り注ぎはじめた。


 「イ、イヤーーーーー!!!!」




 耳をつんざくような大絶叫を上げながらマーサは走ってゆく。


 しかし、鳥達の大群はマーサを追いかけるように同じ方向に飛んでゆき、白い雨はマーサに降り注ぎ続けていた。



「…なんだったんだろう。まぁ、用が終わったなら何でもいっか」


 エミリアはそんな後ろ姿を見送ったあと、くるりと背を向けて、邸宅の中へと入るために踵をかえした。



ーーカチャッ



「まったく。

こっちは早くミルクをあげないといけないってのに」



 実はやぎのミルクを入手してから邸宅に戻った途端、我慢の限界だったのか赤ちゃんはギャン泣きしながら室内に嵐を巻き起こした。


 その時、私のスケッチブックが舞い散り、偶然赤ちゃんの目に入った動物の絵が気を逸らしてくれたので、絵に夢中な今は落ち着いている。


 いつまた赤ちゃんが自身のお腹が空いてることに気が付くかわからない。


 急いで哺乳瓶にミルクを入れようとしたがーー


 前世で、仮にも日本人として十四年生きてきた私は、瓶を手にしながら、ふと、嫌な予感が過ぎる。


(絞り出したばかりのやぎのミルク…このまま赤ちゃんにあげて大丈夫?獣人だし、仔犬になれるし、人間とは違うから良いのかな?いやでも…)

 

 前世の記憶を巡らせてみるが、育児の記憶がない。

 だけど、食器を熱したお湯に浸たすことで殺菌されるからと、定期的にお湯を沸かした鍋に食器を漬け込んでいるお婆ちゃんの姿を思いだした。


「…とりあえず。こう言うのは温めておけば、何とかなる気がする」



 そう考えて魔石コンロに鍋を置いて、ミルクを入れて煮ていたところに、マーサがやってきたのだ。



(やれやれ、マーサは毎度も同じこと言ってきて飽きないのかしら)



ーーパタン



「だ!」



 扉を閉めると、足元に私の描いた絵をかかげている赤ちゃんがいた。


「ラファエル!どうやってこんなところまで…」


「こぇ!だ!」


「え?これは…私が前世見てたノケモンてアニメの、フェレットをモチーフとしたキャラよ」


「あうあう!!(なまえ!)」



(えーと、このキャラの名前は確か…)



 差し出された画用紙を手に取り、記憶を辿る。

 


 前世で好きだったキャラクターなのに、かれこれ十四年こちらで過ごしたせいか直ぐに出てこない。


 水と氷の攻撃を使えるモンスターで、白をベースにした毛並み、尻尾の先や足、口元が桃色をしている。まん丸なブラウンの瞳。


 首元には大きなリボンがあしらわれており、前世の十四歳当時には大人気キャラだったので、友達と学校の鞄にお揃いのキーホルダーをつけていたーー




「!そうだ!思い出した!!


名前は確か、フェレ助だ!」



 刹那ーー画用紙の周りに白い渦が巻き起こった。


 そして、渦の中から姿を現したのは、画用紙に描かれたフェレ助ではなくーー



「よろしくだフェレ!」







「ーー」





 具現化したフェレ助だった。


 フェレ助の後ろで、赤ちゃんが嬉しそうに手を叩いて「きゃあははは♪」と喜んでいる。



「え?いや、え?いや何これ?まさかラファエルがーー」


「何やら、焦げ臭いフェレ」


(あ!ミルク!!)




 ドタバタと全力疾走で台所に戻ると、シュワシュワ音をたてながらミルクがにだち過ぎて溢れ出していた。



「た、大変!魔石熱を止めるの忘れてた!

貴重なミルクが!!!」



 慌てて駆け寄り、鍋に手をかけると、手で持つ部分すらも熱くなっていた。「あつっ!」と驚いて手を離すと、反動で鍋が魔石コンロから落ちて足にかかるかと思いきやーーするりと現れたフェレ助が鍋を元の位置に戻して、魔石熱を消した。



「あ、ありがとうフェレ助…」

「お手伝いはお任せだフェレ!」



(いや、フェレ助は戦うアニメのキャラであって…でも確かに、今の私は家事育児の手伝いを欲していたけども)



 鍋の中身は半分以上が吹きこぼれ、床は真っ白だったが、フェレ助が床をパパパッと拭き上げてくれた。


「フェ…フェレ助ーー」



 前世でも、好きなキャラだったけどーー


 今世は、もっとフェレ助を好きになった瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ