どう考えても
カイルは手に持っている菓子を視線で示した。
「パール領の名産の菓子ーーここに来てから食べたことないだろ?公務の視察ついでに買ったから持ってきた。
ほら、おまえ焼き菓子好きだったろ?」
目を逸らして頭を掻きながら紡がれた言葉に、エミリアはきょとんとする。
(ーーわざわざ菓子を…?使用人に任せたら良いのに)
「ところで、それなに?」
不意打ちの質問に、エミリアはびくりと肩をはねさせる。
「こ、この子は、その…邸宅に迷い込んでた仔犬を拾って…」
ぐるぐるしながら適当な言い訳を考える。論より証拠と言わんばかりに、カイルの前に赤ちゃんを見せつけるように掲げた。
「仔犬……」
「キュゥン」
つぶらな瞳で見つめてくるそれは、確かに仔犬に見える。
(…でも、さっきは赤ん坊の声が聞こえた様な……鑑定するか?)
そう考えてみるが、昼間、侍女に鑑定を使ったことを思い出して首を横に振った。
(いや、一日に二度も法を犯してまだすることじゃないか。乱用するのは良くないな)
「カイル?」
「あ、ぁあ。
可愛い仔犬だな、離れで飼うのか?」
「そうしたいんだけど、良いかな?」
「好きにしたら良い。必要な物があれば言えよ」
「う…うん!ありがとう!」
エミリアはぎこちなく笑うと、仔犬を抱え込む。
「それとさ、この菓子一緒に…」
「ふぇぇ…」
ギクーッ
赤ちゃんが、とうとうお腹が空いたことに限界が来たのか、緩やかにぐずりはじめた。
カイルはパチクリとした目で、こちらを見据えている。
「今何かーー」
「ご、ごめんね!今日は仔犬のお世話で忙しいからもう行くね!!」
誤魔化す様に駆け出していくエミリアの背を見つめながら、手元に残った菓子を下におろして小さくため息をついた。
そして、先程の違和感を思い返しながら、呟く。
「…赤ん坊の声ーーだよな?」
♢♢♢
本邸に戻った後、カイルは自分の部屋で今日のことを思い出していた。
(今朝会った侍女ーーなんか、〝適切に処理します〟っていう口振が鼻についたんだよな…だから鑑定してみたけど、肩書はちゃんとうちの使用人だった……)
それでも、一度抱いた不信感で菓子は〝やはり自分で届ける〟と言って回収した。
(俺が、神経質になり過ぎなのか?)
椅子の背もたれに背を押し付けて、天井を仰ぐ。
(それより、エミリアの拾った仔犬ーーエミリアを見つけた時は、赤ちゃんに見えたんだが。それに…仔犬が〝ふぇぇ〟って泣くか?聞き間違い?
まさかーー俺の知らない間にエミリアが赤ちゃんをーー?)
そこまで考えがおよび、本をめくっていた手をぴたりと止める。
「……いや、そんなまさかな?」
(だって、エミリアは俺の婚約者であって……
でも、この本は婚約者に蔑ろにされた令嬢が新天地目指し始めてるぞ)
しかし、エミリアもこの二年は自分と同じく忙しかったはずである。他の男と出会い愛を育む時間あるのか?という考えも過ぎる。
(やっぱり今度会った時に鑑定を…でも、鑑定結果が出た瞬間、俺はもうエミリアを〝疑った側〟になる)
「だぁーーーまじでわっかんねぇ!誰だよ、こんな本俺の部屋に置いたやつ!!」
本をバシンと閉じたあと、カイルは頭をガシガシ掻きむしる。
「もっとマシな本を読もう」
本を棚に戻すついでに、他の本に目をやると、敵国を学ぶための本が目に入った。
〝獣人の暮らし〟という題名である。
(…赤ちゃんから、獣の鳴き声がしたけど。獣人ならもしかして、そんなこともあるんだろうか…)




