みるく2
エミリアは二年前まで、この屋敷で母と二人で暮らしていた。その頃には沢山いた使用人も、母亡き後は誰もいない。
数日おきに侍女が食材を運んできたりするが、それは邸宅の前に置かれている。
わりと痛んだり、腐りかけの食材が多く、赤ちゃんに食べさせられるものかと聞かれると、知識がない私でもダメだと言うことがわかる。
取り敢えず、赤ちゃんがご所望のミルクを手に入れて飲ませてから今後のことを考えようと思っていたけれどーー
一応、邸宅に備え付けられた魔石冷蔵庫を開けてみた。
(えーと、ミルクって、牛から搾った高価な食材だよね。此処にある訳ないか…知ってた。
なら、本邸にあるミルクを持ってきてもらわないと…でもなーー忙しいのに話しかけると怒るだろうな)
仕方なく、今日絵を売って稼いだお金をポケットから取り出して、掌に出した。
(うーん、ミルクって、一回あげるだけじゃダメだよねぇ…)
「ばぶぅ!」
エミリアが悶々としていると、扉を叩く音がした。
「お嬢様、この辺りで侍女長が倒れていたので、念の為に、お嬢様が大丈夫かを確認に参りました」
(あ、この声は、リサさん!)
リサさんは、本邸から時折こちらに回されてくる若いメイドで、歳が近いこともあり、よく話すようになった。
彼女が食事担当の時だけは、鮮度の良い食材が回ってくる。だから使用人の中では、一番好感度が高い。
普段は本邸で使われなかった腐りかけの食材が、まとめて回されてくるだけなのだが、なんと言っても味が違う。
まだ仕事に不慣れなようで、よく叱られている姿を見るが、そんな事よりも真心が大事だとこの状況に置かれた今では、とても身に沁みている。
エミリアは戸を少し開けて、話しかけた。
「丁度良かった!リサさん、本邸からミルクを一瓶分持ってきてくれませんか?」
「え?ミルク、ですか。料理長に確認してきますね、大丈夫だと思いますがーーどうしたんですか?」
「いやね!無性に赤ちゃんの飲むようなミルクが飲みたくなって!!」
「ぁ…」
二年前、エミリアが母を亡くしたことを人伝に聞いて何かを察したのか、リサは切なさを表情に宿した。
「あぶ!(やぎのミルクがいい)」
「?今何かーー」
「あ、あ!そう!私やぎのミルクが飲みたいな!よろしくね!!」
ーーバタン!
慌てて戸を閉めて、ベッドに置いていた赤ちゃんに振り返る。
「ラファエル!貴方がいることがバレたら困るのよ〜。ね?人が来た時静かにね?」
「あい!」
(はぁ…この先どうしよう。
大したチート知識も能力もない私に前世の記憶があるのって、あの物語を知ってるからってだけ?
ーーもしかして、この国をラファエルから守れって言う思し召しなの?だとしたら無理ゲーすぎる!)




