婚約者
カイルside
窓の外ーー遠くに見える離れが目に入り、魔法講師の授業を聞きながらもカイル・ブラウン伯爵令息は深い溜息をついた。
「鑑定能力を使えることは周りに漏らしてはなりません。何故かわかりますか?」
「皆、自分の個人的情報を探られることは嫌がるので、不必要な軋轢を生む可能性があるからです」
「…正解です。ちゃんと聞いておられてよかったです」
どうやら、窓の外を見ていたことがバレていたらしい。
「でも俺は、まだその人の名前と肩書きしかわかりませんけどね」
「それでも、鑑定能力はプライバシーの侵害にあたり、濫用は法律にて禁止されています。ですので、本来は成人し、ものの分別がつく十八歳に習得させるのが常ですが…今は戦時化により特例で〜」
講師が再び講義に集中し始めた頃、また離れの方に視線をやる。
エミリアとは互いに六歳の頃、婚約者として紹介されていたが、十歳頃から話しかけるのに気恥ずかしさを感じるようになった。
そうこうしているうちに、戦争が激化してエミリアの父親が亡くなると、俺の母の誘いでエミリアとエミリアの母はブラウン伯爵家の離れに住むようになってーーその後すぐ俺達は母子で王都からこのパール領に疎開した。
前は母同士の誘いにより引き合わされていたが、二人の母が流行病で亡くなってからは交流がなくなり、二年の月日が流れた。
つまり、使用人以外でこの屋敷に残されたのは俺と、俺の婚約者であるエミリアだけだ。
(今日は何してるんだろう…)
以前、エミリアのいる離れの邸宅まで行こうとしたのだが、目ざとい侍女たちに見つかり揶揄われて以来は近寄らなくなった。
だから、婚約者とはごくたまに、邸宅内ですれ違えば遠巻きから挨拶をするくらいだ。
戦争も終わらない今、父にいつ何があるかわからない。そうなった時、伯爵家を担う者の一人として、立ちゆくようにと、エミリアも日々忙しくしていると侍女長から聞いている。
実際俺の後継者教育も、通常よりかなり早めの進歩状況を要求され、疎開先であるこの領地を手始めに正常に管理運営するようにと父からも言われていた。
俺はこのパール領を代行管理していた者や執事のサポートの元、日々忙しく過ごしていた。
(後継者教育も形になって余裕もできたーー
近いうちに、婚約者に会いに行くとするか)




