遭遇4
ゆっくりと説明するには、邸宅の中に入るしか無い流れになった。
何故なら赤ちゃんが既にお腹が空いているのでいつ泣き叫ぶかわからないからだ。
そうなるとまた、誰に目撃されるかわからない。
そしてレオンもいつ起きてくるかわからないし、フェレ助には〝中に居る時もフェレットのフリは必要だ〟と教えておかないと何をするかわからないしーー
エミリアはもはやショート寸前の頭を必死に働かせながら、状況説明の言い訳を考えるも、全く何も思いつか無かった。
そうしている内に、せめてレオンと別の部屋に通そうかと考えていたのに、うっかりレオンの寝ている部屋に通してしまった。
(しまったーー)
実はこの邸宅、エミリアしか住んでいなかったので、全てリビングで済むようにしており、母が死んで以降は他の部屋を使用したことがない。
勿論、お茶を出すテーブルもその部屋にしか無いのであっさり通してしまった。
カイルがじっとベッドに横たわるレオンを見ている。
そして小さな声でポツリと呟いた。
「ーー〝反抗期〟?あの商人かーー」
「え?」
聞き取れなかったので、エミリアが声を上げると、カイルとバチっと目が合ったが、すぐに視線を逸らされる。
(????)
とてとてとてとて
「お待たせフェレ〜!紅茶とミルクを持ってきたフェレ〜」
(はっ、しまった。ミルクを飲ませるには獣人の姿でないと飲めないわ!)
エミリアの焦りを他所に、フェレ助からミルクを受け取った途端、ラファエルは「きゃい♪」と声を上げて喜び、仔犬から獣人の赤ちゃんに姿を変えてミルクを飲み始めた。
無言で赤ちゃんを見つめているカイルに「あの、これは、違うのよね…」と焦るも、流石のエミリアも自分で言ってて(何が違うんだろう…)と思い至る。
「…ん…、ここ、は?」
そこへ、ベッドへ横たわっていた筈のレオンが目を覚まして、身を起こした。
「あ!やっぱり夢じゃなかった!!」
「ーー」
(あ…もうこれダメだ)
んくんくと美味しそうにミルクを飲む赤ちゃんをギュッと抱き抱えながら、エミリアはフリーズした。
♢♢♢
(隠し通せる自信があった訳じゃないけれど、まさか一週間も持たずにバレるなんて)
考えなくとも、居候している邸宅の敷地内で隠し通し続けるのは土台無理な話であることをエミリアは痛感しつつあった。
横に座っているカイルをちらりとみるが、何を考えているかはわからない。ただ、視線はエミリアの腕の中でミルクを飲んでいる赤ちゃんに注がれている。
目の前に座って貰ったレオンは早くも状況に慣れてきたのか「へぇ〜これが獣人の赤ちゃんなんだ」と呑気な感嘆の声をあげていた。
リビングに備え付けられているテーブルを囲んで、息を呑むと、エミリアは説明を始めた。
「その…数日前に、河原でぼんやり空を眺めていたんだけど…その時赤ちゃんを見つけて」
(空から落ちてきたのは、今言うと混乱するから言わないでおこう…何で空から?って聞かれたらうっかり前世の記憶まで喋っちゃいそう…)
嘘をついてもボロが出ることがわかったので、エミリアは下手に誤魔化さずに、言える事実だけ述べた。
「…そんな気はしてた」
「え!?カイルはもう気付いてたの!?」
「ぁあ、昨日菓子を持ってきた時に、赤ん坊の泣き声がしたのに差し出されたのは仔犬だったからな。誰でも可笑しいと思って調べるだろ」
そう言われて、エミリアはごくりと息を飲み込む。
(たーーたしかに)
「それで俺に〝居るものがあるならお金を払うから、揃えてやってくれ〟と言っていたんですね」
「え?」
レオンの言葉に驚いていると、カイルは小さく頷いた。
「俺がこの赤ん坊の存在を把握したなら、王国貴族として、敵国の人間が居ることを速やかに警備隊に通報しなければならなくなるからな」
「つ、通報!?」
赤ちゃんを庇う様に抱きしめる腕に力がこもる。
「ーーそうしたら、ラファエルはどうなるの?」
(…ラファエル?もうこの赤ん坊に名前をつけたのか)
「捕虜ーーということになる。その先は、正直警備隊による。まず敵国の赤ん坊がこんなところに居るなんて異例すぎるからな」
「警備隊による……」
そんな不確かな所に、赤ちゃんをやれる訳が無いと、エミリアは思いはじめていた。
エミリアの様子を見ていたカイルは、妥協案とばかりに口を開く。
「ーーレオンに、孤児院へ連れて行ってもらおう」
「え!?」
「平民が国民の義務を知らなくても不自然じゃない。
孤児院にいる者の大半も戸籍も国籍も不確かな者も多い。敵国の軍人ならまだしもこいつは赤ん坊だ。
この場合、孤児院で育ち、後で見つかっても赦されるだろう」
「ーーそれはダメだよ!だってほら、こんな可愛いお耳がついてたら、敵国の人間だってわかるじゃない!どんな扱いを受けるか…っ!」
ほら!と言わんばかりにラファエルの耳を指差す。
(それだと、小説通りになっちゃう!)
「……俺は、最悪の可能性を並べているだけだ。
それでも、何もしないよりはマシだと判断される世界だ」




