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無気力宰相と契約結婚した元営業女子、転生特典タブレットで世界を救う。  作者: 卯崎瑛珠
第一章 タブレットと竜神

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第3話 台風の爪痕


 騎士たちが片づけに精を出す傍ら、いつもの散歩道を歩くエルヴィナはひとり、危機感を募らせていた。


「台風被害、結構すごいけど。この王国大丈夫かしら」

 

 ヤームは「ふぉふぉふぉ」と笑いながら、道に落ちている危なそうな木の枝や石ころを、さりげなく魔法で排除している。

 メグは「竜神様、今日のお昼はパスタがいいです」と祈り(?)ながら後ろをついてきているだけだ。

 パスタは食べたいけどさ、と半ば呆れながら、エルヴィナはヤームを振り返った。


「ねえヤーム。モーリアからは橋を渡れるようになったからいいけど、王都からの船は止まったままなのよね?」

「そうじゃのぅ」


 竜神神殿の小島へ渡るには、モーリア橋の他、王都からの定期船を利用する手がある。だが台風後の海はまだ波が高く、出航できていない。高波で壊れた船も多々ある。

 神職たちの食糧や物資は、エルヴィナがついでにと馬車へ乗せて持ってきているから不自由はないが、問題は――


「巡礼者が、参拝に来られない。見たところ、いつもより八割減、といったところかしら。十日も経てば足並みも回復するかもと思っていたけれど……」

「確かに、人が少ないのぅ。けど来ようと思えば、モーリア経由で来られるじゃろうて」


 ヤームの言葉を、メグがためらいがちに否定する。

 

「ヤーム様。モーリアは、主要街道から外れていますから……」

「メグの言う通りよ。北から来るならまだしも、大陸中央や南から来る人々は、わざわざモーリアまで来ないわ」

 

 ジャルダン王国の王都へ通じる街道は整備が行き届いているが、それ以外は土のままがほとんど。

 台風の後はぬかるんでいたり変な(わだち)がついたりで荒れていて、馬車の速度は大幅に落ちているに違いない。

 そうなれば、わざわざ巡礼に行こう、とはならない。落ち着いてからにしよう、が普通の感覚だ。案の定宿は休業し始めているし、王都の土産物屋界隈も店を休み始めている。


「この状況が長引いたら、王国全体が沈むかもしれない」

「大げさじゃのぅ」

「ヤームは、そんな風にのんびりしてるけどね! この国ってほとんど観光資源で成り立ってるのよ!? 巡礼者が来なかったら、お金も来ないの」

「ふぉふぉ。 即物的じゃのぉ」

 

 ヤームは茶化した口調のわりに、表情は暗い。

 深刻にならないよう、せめて言葉ぐらいは、と思っているのかもしれない。

 

「竜神様に会おうとやってきて、王都の周辺でご飯を食べて宿に泊まる。それだけでも経済効果は計り知れないものなのよ。王宮の役人連中がそのことに早く気づいて、なる早で街道整備を終えて、巡礼への道は問題ないっていう通達をしなくちゃだけど」


 エルヴィナは、タブレットの画面を覗き込んでから、ふうと深く息を吐く。


「……無気力宰相って噂だもんね~。迅速な対応に期待するだけ無駄かあ。とりあえず、お祈りポイント貯めよ」

 

 画面の中で、竜神の紋章の中に数字が表示されているアプリがある。今はそれに『46110』と表示されていた。

 一日、十ポイント。神殿へ来て竜神様に祈れば貯まる、ログインボーナスのようなものだ。魔力を使えるようになった八歳の時から約十二年間、毎日――風邪やどうしてもの用事などを除く――のようにコツコツ頑張って貯めた、神恩(しんおん)ポイントだ。


「たくさん貯まったような、そうでもないような……何かあっても、これで足りるといいけどな~不安っ」


 ヤームは意味深に微笑んでいるし、メグは、「やっぱりそれ、何て書いてるのか読めないですけど、裏面の紋章が素敵ですっ! お祈り行きましょはあはあ」といつもの様子。

 エルヴィナは、この危機感を誰とも共有できない寂しさを感じつつ、神殿へ戻る道を歩いた。


 ――『祈りの間』には、竜のレリーフが彫られた白い石柱が、ずらりと並ぶ。見上げれば、白い天井を支える梁にも装飾が刻まれているが、高すぎて判別できない。

 

(今日もここは変わらない。台風なんて、まるでなかったみたい)

 

 磨かれた大理石の床はぴかぴかで、淡く光るようだ。顔を上げると、真正面に竜神の巨大な石像があり、台座の上で鎮座しどこか遠くを見つめている。大きな鉤爪の中には青く光る水晶球が握られていて、神秘的なその像は、採光の窓から差す日の光でまるで生きているかのような存在感を放っている。


 島の散歩を終えてから祈りに来る、いつもの思考整理の時間だ。

 ここへ来るたびエルヴィナは、生まれ変わる前の自分が竜神に呼び出された日のことを思い出しながら、祈りを捧げている。

 

(竜神様の力を狙う者が動き始めている。そう聞いてから、もう二十年経ったんですね。私はこの台風こそ、その前触れではないかと思っています)


 王国内の人的被害は少ないが、壊れた建物や収穫できなくなった畑など、支援は必要である。実際、モーリア領主であるエルヴィナの父も、毎日忙しそうにしている。

 人手は限られているから、人命に関わったり、交通網だったり権力だったりといったもので優先順位をつけて、適切に対応を指示しなければならない。


 エルヴィナは、元営業の観点とこれまでモーリア子爵令嬢として育ってきた経験から、父の執務を補助していた。

 領内や隣接した北の共和国の様子は、ある程度把握しているつもりだ。

 

 だからこそ、台風から十日経って客足――巡礼者を客というのも、どうかと思うが――が回復していて欲しいとの願いを込めて今日はやってきたのだが。


「やっぱ全然、ダメかあ。どうしよー」


 一介の子爵令嬢にできることなどあまりないが、竜神に請われて生まれ変わっている以上、役に立たねばという使命感がある。

 家に帰ったら、王宮に警告する方法でも考えるか、と思いながら神殿の隣に立っている宿泊施設に向かう。

 散歩をしてお腹がすいたら、ここの食堂でご飯を食べるのも、エルヴィナの日課だ。


「ほっほ。お腹すいたのぅ」

「パスタ食べたいですね!」

「はいはい。分かったわ。食べましょ」


 王宮への警告をプレゼン風に作ったら、この二人にも少しぐらい危機感は伝わるだろうか、とぼんやり考えつつテーブルに着いて食事を待っていると、顔見知りの神官が眉根を寄せながら近づいてきた。

 

「エルヴィナ様、モーリア子爵様より、お手紙が届いております。どうやら至急のようで、ゲートクリスタルに」

「えっ」


 差し出された手紙をいち早く受け取ろうと、勢いよく立ち上がったので、ガタンと椅子が後ろへ倒れてしまった。

 強引に手で封蝋を破り、中身を出すと、見慣れた父の筆跡――ただし急いで書いたのが丸わかりの、非常に乱れた文字――でこう書かれていた。


『至急帰宅してくれ。国王陛下から直接手紙が届いた。王国のために、エルヴィナの身を捧げよと』

 

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