表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無気力宰相と契約結婚した元営業女子、転生特典タブレットで世界を救う。  作者: 卯崎瑛珠
第三章 国家元首と温泉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/32

第18話 国家元首との邂逅

 

 ギャアッとまた何かの鳥の鳴き声がしたかと思うと――ガサガサと音を立てて、背の高い草花が動いている。


 それからいくらも経たずして、真ん中にぽっかりと穴が空いた。

 

 穴の向こうにうっすらと人影が見えたかと思うと、わっはっはと豪快な笑い声がした。


「ぃよう、宰相! 自ら来るとは、根性あるじゃねーか」

「相変わらず気安いですね、シュタイン公」

「だっはっは。この俺様自ら出迎えてやったのに、つめテェな」


 焦茶色の口髭をたっぷりと蓄えた琥珀色の瞳の男性が、笑顔で中へ入るよう促す。迫力があるが、目は優しい。右腕と左膝に包帯を巻いているものの、動きに違和感はない。


「えっ! シュタイン公ご本人、ですの⁉︎」

「おうよ。可愛い嬢ちゃん。なんもねえけど、茶ぁぐらいは出すぜ。そこの護衛も、警戒とかいらねえから。まあ入れや」


 豪快さに圧倒されつつ、案内に従って歩を進める一行の目の前に、一棟のロッジが見えてきた。

 ウッドデッキには、武装した男性が三人。肩に弓矢、腰に大ぶりナイフを下げていて、物々しい。こちらをぎろりと睨んでいるし、一人は弓矢の矢尻に手を掛け弓を緩く構えている。


「知り合いだからヨォ、大丈夫だ〜!」


 シュタイン公の声掛けで、ようやく殺気がなくなった。

 室内へ足を踏み入れながら、ニヤァとシュタイン公は口の端を吊り上げる。

 

「悪りぃな。嫌な客が頻繁にこの辺荒らしてやがるから、気が立ってんだ」

「いえ。それよりも嫌な客とはまさか」

「まあまあ。まず座れ」


 中には暖炉やソファがあり、想像よりも広い。ダイニングテーブルは丸太を切ったもので、床には獣の毛皮が引いてあり、いかにも狩人の隠れ家だ。


「失礼します」

「嫌な客、に心当たりあるとはさすが宰相だなあ」

 

 ヘルムート・シュタインはテーブルに着くや否や、真正面に腰掛けたリオネルへ鋭い目を向けた。エルヴィナはその左隣に座り、バドは二人の背後、少し離れた場所に立った。

 シュタイン公は、先ほどまでの明るい態度とは一変、為政者としての威厳を放っている。

 リオネルは、眼鏡のブリッジを人差し指でかちゃりと押し上げた。

 

「帝国の使者と、お会いになられたようですね」

「……腹芸は無しだ。どこまで知ってる」

「何か無茶なことを要求されたこと。一方で我々は癒しの泉を見つけましたが、無関係ではない。違いますか?」

「っ! お前、それ」

「ご安心ください。泉のことは、ここにいる我々しか知りません」

「それは、っ、分かった。だが見つけるのは不可能なはずだ」

「枯れていたから、でしょうか」


 シュタイン公はぐぬぅ、と唸るだけだが、肯定したと同義だ。

 リオネルは、立て続けに事実を告げる。

 

「我が妻のエルヴィナが水の精霊アクアに会い、竜神様のご慈悲でもって癒しの泉を復活させました」

「なっんだと! それに、妻ぁ⁉︎」


 思わず声の裏返ったシュタイン公に、エルヴィナは深々と頭を下げてから微笑む。

 

「ジャルダン王国宰相の妻となりました、エルヴィナ・モーリア。じゃなかった、ジリーですわ」

「モーリア子爵んとこの、信心深い娘か」

「父をご存知ですの?」


 ガハハとシュタイン公は豪快に笑う。目尻に刻まれた深い皺は、笑い皺だと分かった。


「そりゃ国境近くの領主ってんなら交流もあって当然だろ。あんま似てねえ! 別嬪さんだな。なんだよぉ、ニクラスの嫁に欲しかったのに」

「まあ!」


 エルヴィナが驚くと同時に、リオネルがハアと大きな溜息を吐く。


「世間話は後にしましょう。それよりこれからどうしますか」

「……どうするもこうするもねえよ。俺はこうして隠れてるだけだ。そっちこそ、どうする」

「帝国は、癒しの泉が欲しかったのではないのですか?」


 リオネルの問いに、シュタイン公は眉根を寄せる。


「そう思っていたんだがな。違うかもしれん」

「違う……ではやはり、水の精霊でしょうか」

「ふむ。帝国の情報はどこまで掴んでんだ?」

「正直、あまり。山脈を超えてくる情報は錯綜していて、真偽の精度が低いのが現状です」

「だよな。奴ら、わざと撹乱しやがって。混ぜ物も多いからなあ」


 エルヴィナは二人の会話を聞きながら、不謹慎にもワクワクしてしまった。


(トップ会談、しかも密談ってやつよねこれ……やっぱりどの世界も、情報戦が重要なのね)

 

 インターネットのないこの世界、情報伝達は口伝えや手紙に頼るしかない。

 間に人が入れば入るほど、正しさは薄まっていく。手紙は奪われることを考えて、断片的な情報のやり取りしかできない。

 ゲートクリスタルとガイドクリスタルは、交流がある者・場所同士を繋げる性質上、敵方の情報を仕入れることは難しいのが現状だ。

 

「けどな。俺が集めた情報を繋ぎ合わせると、見えてくることがある」


 テーブルに肘を乗せて身を乗り出したシュタイン公は、鋭い目つきをリオネルへ向けた。リオネルはそれに臆することなく、対峙している。


「なんでしょう」

「山のこっち側に台風で大雨が降った一方、帝国は長い乾季で水が不足している。灌漑(かんがい)工事も追いついてないようだから、食糧不足に陥るのも時間の問題だろう。そんな中、第一皇女が竜神様から御神託を受けたって話がある。我こそは、水の巫女だと」


 突拍子もない情報に、エルヴィナは動揺の声を上げた。

 

「竜神様の、御神託⁉︎ そんなっ」


 毎日竜神神殿に通い、神恩ポイントを保持している身として、自分にそのような通知が何もないのはおかしいのではないか――そんな疑念が沸々と湧いてくる。

 事実、ノインベルクの国家元首ヘルムート・シュタインは怪我を負っていたし、その通知に従ってここに来て、癒しの泉を見つけた。これこそ御神託のようなものだと思っていた。


「俺も眉唾もんだと思って色々調べたんだが、水不足で帝国民からは怨嗟しか聞こえてこん。落ち着かせるための嘘……にしても皇帝自ら大々的に流布してるきらいがある」


 その言葉に、リオネルが首を傾げる。


「にわかに信じがたいですが、皇帝自ら流布、となると御神託への信憑性が高いということですね」


 到底受け入れがたいニュースだ、とエルヴィナは耳を塞ぎたくなる。今まで自分は、毎日神殿に通い、神の加護のバロメーターと言っても過言ではない『神恩ポイント』を貯めてきた。それだけでなく、竜神の住むという小島を歩いて記録をし、神職よりも詳しい自負がある。

 

「わたくしは! 帝国の第一皇女殿下が、どのようなお方か存じませんが。神殿ではそのようなこと聞いたことはございません」

「モーリアの嬢ちゃんよ。あそこにゃ、やんごとなき人間が多数出入りしてる。そこのリオネルもだ。けど、それを漏らすようなところじゃねえ」

「ですがっ」


 エルヴィナは、手の中にあるタブレットをぎゅううと握りしめる。

 ここに通知がないのなら、きっとそれは事実ではない。そう伝えたいが、信じてはもらえないだろうし、おいそれと他人に話せることでもない。

 葛藤で震えてくるその拳を、そっと何かが包み込む。


「落ち着きましょう」

「リオ……」


 リオネルの手だった。温かく、力強い。

 

「帝国の目的が、『水』だとすると。アクアを持つエリーの身が危険になります。すぐに対策を練らなければなりません」


 静かに諭すような声で、エルヴィナは冷静さを取り戻すことができた。

 

「……そう、ですわね。取り乱してしまい、失礼いたしました」

「いやあ、それはいいけどよ。今、アクアを持つって言ったか?」

「ええ」

「そりゃ、たまげたな! 気難しい水の精霊で、誰も会ったことないって言われてんだぞ」

「え! でも、確かにアクアと名乗り、癒しの泉はここだと案内をしてくれましたの。実際、底には癒しの石が数多くあって、水が湧いたらキラキラと光っていましたわ」

「どうやら本当みたいだなあ。参ったなこりゃ。霧ぐらいじゃ不安になったぞ。もっと強力な結界を張りに行かにゃ」

「あの霧は結界でしたのね! もっと強力というと、ここの入り口にあったような?」

「おう。リオネルが切ったやつな。張り直すの大変なんだぞ?」


 リオネルが、シュタイン公の恨み節を丸っとスルーしているのを見たエルヴィナは、ニクラスの善人のお手本のような顔を思い出していた。


「そうだったのですね……だから、ヘルムート様以外は知らない、と」

 

 シュタイン公は腕を組んで目を閉じ、何度も深く頷いた。


「ここだけの話だがな。癒しの泉を帝国の奴らが狙ったのは、この世界の水源と関わりがあるからだ」

「っ、アクアも、そう言っていました」

「ああ。ここらの温泉が出なくなったのも、そういうことだ。俺が睨んだ通り、帝国では相当深刻な水不足が起きている可能性があるな……」


 そこでエルヴィナは、ピンときてしまった。

 

「あっ! ということは! 温泉! 復活しますのね⁉︎」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ