第7章 - 時を超えて
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第7章 - 時を超えて
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「分かった。まず、現在地は...」
セレナが説明を始めた。
「五つの世界の境界に存在してる。あと三日で完全に目覚める。レベルは推定400から450」
「450...俺たちより百以上も上か」
エドワードが青ざめた。
「勝てるのか?」
「分からない。だが、やるしかない」
俺は破滅王を見た。
「お前の力も借りる。それでいいな?」
「当然だ」
新たな脅威に向けて、準備が始まった。
三日間の準備期間が始まった。
「まずは情報を集める」
セレナが五つの世界の映像を見せた。
「一つ目は機械文明の世界。二つ目は魔法世界。三つ目がここ。四つ目は精霊の世界。五つ目は剣と魔法の古代文明世界」
「全ての世界が、虚無の支配者に狙われている」
破滅王が腕を組んだ。
「レベル400超え...私でも単独では勝てない」
「お前でも勝てないのか」
「ああ。だが、貴様らと組めば可能性はある」
俺たちは訓練を続けた。
「破滅王、お前の戦闘スタイルを教えろ」
「純粋な物理攻撃だ。魔法は使わない。その代わり、力と速度は誰にも負けない」
「なら、俺たちが魔法で支援し、お前が前衛を務める」
「悪くない作戦だ」
二日目、各世界の最強戦士たちが集まってきた。
機械世界からサイボーグ戦士。レベル260。
魔法世界から大魔導師。レベル270。
精霊世界から精霊王。レベル280。
古代文明世界から伝説の勇者。レベル265。
「全員で戦力は...」
エドワードが計算した。
「俺たち四人がレベル300超え。破滅王が325。他の戦士たちを合わせれば...」
「それでも足りない気がする」
三日目の朝、虚無の支配者の気配が強まった。
「来る...!」
空が裂け、巨大な黒い穴が開いた。
その奥から、何かが現れようとしている。
「全員、準備しろ!」
最大の戦いが、始まろうとしていた。
黒い穴から、巨大な触手が伸びてきた。
「来るぞ!」
全員が身構える。
触手が地面に触れた瞬間、その部分が消滅した。
「消えた...!?」
「存在そのものを消去する力か!」
穴から、本体が姿を現した。
形容しがたい姿。人型とも竜型とも言えない、混沌とした存在。
【虚無の支配者ヴォイドロード:レベル435】
「レベル435...推定より高い!」
破滅王が前に出た。
「私が前衛を務める。貴様らは支援しろ!」
破滅王が拳を振るう。
ヴォイドロードの触手と激突し、衝撃波が広がった。
「効いている! だが、触手が無数にある!」
「全軍、攻撃開始!」
機械戦士が光線を放ち、大魔導師が魔法を展開する。
だが、ヴォイドロードは触手を振るうだけで、全ての攻撃を無効化した。
「強すぎる...!」
精霊王が叫んだ。
「このままでは勝てない!」
俺は冷静に状況を分析した。
「弱点がある。必ずある」
「クレヤボヤンス」
透視魔法でヴォイドロードの内部を見る。
「...核が見えた。体の中心に、小さな光がある」
「あれを破壊すれば勝てる!」
「だが、どうやって到達する? 触手が邪魔だ」
その時、セレナが叫んだ。
「私が道を作る! 次元の力で、一瞬だけ触手を凍結させる!」
「できるのか!?」
「一度だけ! その間に核を破壊して!」
俺は決断した。
「やれ!」
セレナが両手を広げた。
「次元凍結! ディメンション・フリーズ!」
空間そのものが凍りつき、ヴォイドロードの触手が完全に停止した。
「今だ! 十秒しか持たない!」
俺は全魔力を解放した。
「レビテーション! 最高速度!」
光速を超える速度で核に向かって突進する。
「一人じゃ危険だ! 俺も行く!」
破滅王が並走してきた。
「お前...」
「黙れ。死なせるわけにはいかん」
触手の間を縫い、核まであと百メートル。
だが、凍結が解け始めた。
「まずい! 早すぎる!」
触手が動き出す。
「俺が防ぐ! 貴様は核を破壊しろ!」
破滅王が触手を全て引き受けた。
「ぐぅぅ...!」
破滅王の体が傷つく。
「今だ!」
俺は剣に全ての力を込めた。
「サイコキネシス! テレキネシス! グラビティ! パイロキネシス! 七属性精霊魔法! 全てを融合する!」
剣が虹色に輝く。
「アルティメット・オメガ・ブレイカー!」
全ての力を込めた一撃が、核を貫いた。
「ギィィィィィイイイイイイアアアアアアア!」
ヴォイドロードが絶叫する。
体が崩壊していく。
黒い穴が閉じ、光が戻った。
「...終わった」
俺は地面に落下し、破滅王が受け止めた。
「礼を言う」
「どういたしまして」
【経験値大量獲得】
【ルーク:レベル305→330】
「レベル330...」
破滅王が笑った。
「これで、お前は私より強くなった」
破滅王が立ち上がった。
「約束通り、今度は貴様と戦う」
「待て」
俺は手を上げた。
「今じゃない。お前も俺も、満身創痍だ」
破滅王は傷だらけだった。ヴォイドロードの攻撃を一身に受けたからだ。
「...確かに。これでは全力を出せない」
「一年後、また会おう。その時、全力で戦う」
破滅王が笑った。
「いいだろう。一年後だ。場所は?」
「お前の世界でいい」
「分かった。待っているぞ」
破滅王は去っていった。
他の世界の戦士たちも、それぞれの世界に帰っていく。
「ありがとう、影の守護者たちよ」
大魔導師が頭を下げた。
「世界を救ってくれた」
「礼は要らない」
精霊王が微笑んだ。
「相変わらずだな。名声を求めない」
「それが俺たちのやり方だ」
全員が去り、俺たち四人とセレナだけが残った。
「すごかった...」
セレナが目を輝かせた。
「レベル435を倒すなんて」
「まだ満足してない。もっと強くなれる」
その時、空に異変が起きた。
新しい裂け目が開き、そこから声が聞こえた。
「面白い...虚無の支配者を倒した者たちよ」
「誰だ?」
「私は時空の管理者。貴様らに試練を与えよう」
「試練?」
「全次元、全世界の頂点に立つ者を決める『無限闘技場』への招待だ」
俺は仲間を見た。
「また新しい戦いか...」
「断る」
俺は即答した。
「何?」
時空の管理者が驚いた声を上げた。
「断ると言った。俺たちは戦うために生きてるわけじゃない」
「だが、貴様らほどの実力者なら...」
「興味ない。俺たちは自由に生きたいだけだ」
エドワードが笑った。
「そうだな。もう戦いは十分だ」
リーナも頷いた。
「静かな生活がしたい」
セラが腕を組んだ。
「頂点とか、どうでもいい。俺たちは影のままでいい」
時空の管理者は沈黙した。
「...そうか。珍しい者たちだ。力を持ちながら、それを求めない」
「それが俺たちだ」
裂け目が閉じていく。
「ならば、せめて祝福を。貴様らに完全な自由を」
光が降り注ぎ、体に染み込んだ。
【新スキル獲得:完全自由】
【どの世界でも、誰からも干渉されない。望まぬ戦いに巻き込まれない】
「これで...本当に自由になれる」
俺は仲間を見た。
「帰ろう。最初の拠点に」
「ああ」
セレナが転移門を開いた。
「お疲れ様。ゆっくり休んで」
俺たちは最初の世界、西の森の拠点に戻った。
静かな森、鳥のさえずり、平和な風景。
「ただいま」
本当の意味で、俺たちの平和な日々が始まる。
数ヶ月が経った。
拠点は完全に平和な場所になっていた。
朝、バルドの作る朝食。
「今日は何する?」
「特に何もない。のんびりする」
リーナとエドワードは研究を続けているが、もう戦闘用の魔法ではない。
「生活を豊かにする魔法を開発してる。例えば、料理を美味しくする魔法とか」
「平和だな」
グランは村人の依頼で日用品を作っていた。
「鍬、鎌、鍋。武器は作らなくなった」
セラは村の子供たちに自衛術を教えていた。
「殺さない技術。身を守るだけの技」
俺は時々、森を散歩していた。
精霊たちが挨拶してくる。
「元気か、ルーク」
「ああ。平和だ」
「良い顔してるな。戦いの顔じゃない」
「もう戦わないつもりだ」
夕方、全員で拠点の屋上に集まった。
「この数年、いろいろあったな」
「魔王、魔帝、虚無の支配者...」
「でも、もう終わった」
俺たちは夕日を見つめた。
「レベル330の最強パーティ。だが、誰も知らない」
「それでいい」
「これからも、目立たず、自由に、静かに」
「ああ」
風が優しく吹いた。
平和な時間が、ゆっくりと流れていく。
これが、俺たちが選んだ、本当の幸せだ。
一年が経った。
俺たちは完全に隠居生活を送っていた。
「今日も平和だ」
朝食後、俺は近くの村に治癒の水を届けに行った。
「ありがとうございます、いつも」
村人たちは俺の顔を覚えているが、名前は知らない。
「気にするな」
拠点に戻ると、セレナが訪ねてきていた。
「久しぶり!」
「どうした?」
「別に用事はないけど、遊びに来た。ダメ?」
「構わない」
セレナは時々、こうして遊びに来るようになっていた。
「相変わらず静かに暮らしてるのね」
「それが俺たちのスタイルだ」
夕方、拠点の畑で野菜を収穫していた。
「まさか、野菜作りをする日が来るとはな」
エドワードが笑った。
「レベル330で畑仕事...誰も信じないだろうな」
「それがいい」
ある日、かつて助けた村の少女が訪ねてきた。もう成人している。
「おじさんたち、元気?」
「ああ。お前も立派になったな」
「私、今は冒険者として活動してる。でも、有名になるつもりはない」
「いい心がけだ」
「おじさんたちを見習ってる。影から人を助けるって、かっこいい」
少女は笑顔で去っていった。
「俺たちの生き方、受け継がれていくんだな」
「悪くない」
夜、星を見上げながら、俺は思った。
強さを求めて戦った日々。
だが、今の平和な生活が一番幸せだ。
これからも、この生活を続けていく。
数年後。
拠点には新しい建物が増えていた。
「図書館か」
エドワードとリーナが長年の研究成果をまとめた本を収蔵している。
「魔法理論書、超能力の解説書、戦術マニュアル...全部ここに」
「誰かが読むのか?」
「いつか、必要な人が現れたら」
グランの工房も拡大していた。
「最近は芸術作品を作ってる」
美しい彫刻や装飾品が並んでいた。
「武器職人から芸術家か。いい変化だな」
バルドは料理の研究に没頭していた。
「戦闘用のバフ料理じゃなく、純粋に美味しい料理を追求してる」
「それでいい」
セラは週に一度、村の道場で指導していた。
「最近、弟子ができた」
「そうか」
ある日、破滅王が訪ねてきた。
「一年の約束だ。戦いに来た」
俺は首を横に振った。
「悪いが、もう戦う気はない」
「...そうか」
破滅王は意外にも怒らなかった。
「お前、顔が変わったな。穏やかになった」
「平和な生活のおかげだ」
「羨ましいな。私も、そういう生活がしたい」
「なら、ここに住むか?」
破滅王が驚いた顔をした。
「...本気か?」
「ああ。戦わないなら、仲間だ」
破滅王が笑った。
「考えさせてくれ」
数日後、破滅王は拠点の近くに小屋を建てて住み始めた。
仲間が、また一人増えた。
破滅王が加わってから、拠点の雰囲気が変わった。
「お前、意外と料理が上手いな」
バルドが驚いていた。
「三百年生きてる。その間に色々覚えた」
破滅王はディザスターという名前をやめ、「ディアス」と名乗るようになった。
「破滅王って名前は重すぎる。もう破滅させる気もないし」
ディアスは村の開拓を手伝っていた。
巨大な岩を軽々と動かし、畑を広げる。
「すごい力...!」
村人たちは驚いたが、ディアスは穏やかに笑った。
「これくらい、朝飯前だ」
ある日、セレナが慌てて飛んできた。
「大変! また新しい世界で危機が...」
俺は手を上げて遮った。
「俺たちはもう行かない」
「え...?」
「その世界の人たちが自分で解決すべきだ。俺たちが毎回助けたら、彼らは成長しない」
セレナは少し寂しそうな顔をした。
「でも...」
「心配なら、別の強者を探せ。世界は広い」
「...分かった」
セレナは去っていった。
エドワードが尋ねた。
「本当にいいのか? あの世界、滅ぶかもしれないぞ」
「いい。俺たちはもう、世界を救う英雄じゃない。ただの隠居だ」
夜、星を見ながら、ディアスが呟いた。
「お前たち、本当に変わった奴らだな」
「そうか?」
「力を持ちながら、使わない。名声を求めない。ただ静かに生きる」
「それが俺たちだ」
ディアスが笑った。
「いい生き方だ」
十年が経った。
拠点は小さな村のようになっていた。
図書館、工房、畑、道場、そして温泉まで。
「温泉はリーナの発見だ」
地下から湧き出る温泉を見つけ、整備した。
「疲れた体に最高だ」
俺たちは時々、昔話をするようになった。
「最初はオーク五体で銀貨二十枚だったな」
エドワードが笑った。
「今じゃレベル330。想像もできなかった」
「魔王、魔帝、虚無の支配者...よく生き残ったな」
セラがしみじみと言った。
「だが、一番幸せなのは今だ」
ディアスも頷いた。
「私も同意だ。戦いの日々より、この平和な生活の方がいい」
ある日、グランが倒れた。
「グラン!」
老衰だった。寿命だ。
「お前たちと出会えて...良かった」
グランは笑顔で息を引き取った。
俺たちは泣いた。
グランを森に葬り、墓を作った。
「ありがとう、グラン。お前がいなければ、俺たちはここまで来られなかった」
それから、俺たちはもっと大切に、一日一日を生きるようになった。
永遠の命を持っているが、周りの人たちは違う。
「だからこそ、今を大切にしよう」
全員が頷いた。
平和な日々は、かけがえのない宝物だ。
グランの死から一年後。
拠点には新しい住人が増えていた。
孤児院で育った子供たちが、成長して訪ねてきたのだ。
「俺たちも、ここで暮らしたい」
十人ほどの若者たち。
「構わない。だが、戦士になるつもりなら断る」
「違います。農業や、職人の技術を学びたいんです」
「なら歓迎する」
拠点は小さな共同体になった。
若者たちはバルドから料理を学び、畑を耕し、道場でセラから護身術を習った。
「グランがいたら、鍛冶も教えられたのに」
「なら、俺が教える」
ディアスが手を上げた。
「お前、鍛冶もできるのか?」
「三百年生きてるからな。色々やった」
数年後、若者たちは立派に育った。
「そろそろ、俺たちは旅立ちます」
「そうか」
「でも、おじさんたちのこと、忘れません」
「名前も顔も覚えてるけど、誰にも言わない」
「それでいい」
若者たちは村を作り、人々を助けながら生きていった。
俺たちから学んだ「目立たず、影から助ける」生き方を実践しながら。
「俺たちの遺志、ちゃんと受け継がれてるな」
エドワードが満足そうに笑った。
「ああ。これでいい」
夕暮れ時、拠点の屋上で全員が集まった。
「もう何年生きてるんだろうな、俺たち」
「分からない。でも、幸せだ」
平和な日々は、永遠に続く。
五十年が経った。
拠点の周辺には、いくつもの村ができていた。
俺たちが育てた若者たちが作った村だ。
「もう三世代目になるのか」
かつての若者たちの孫が、拠点を訪ねてくる。
「ひいおじいちゃんから聞きました。影の守護者の話」
「伝説になってるな」
だが、俺たちは相変わらず、ひっそりと暮らしていた。
バルドも老いて、最近は料理をあまり作らなくなった。
「すまんな。もう体が動かん」
「気にするな。お前の料理、ずっと美味しかった」
ある朝、バルドが眠ったまま目を覚まさなかった。
「バルド...」
また一人、仲間が去った。
グランとバルドの墓が並ぶ。
「二人とも、お疲れ様」
それから数年後、エドワードも老いた。
「俺、もうすぐだな」
「まだ大丈夫だ」
「いや、分かる。でも、後悔はない。お前たちと過ごした時間、最高だった」
エドワードは静かに息を引き取った。
墓が三つになった。
「残ったのは、俺とリーナとセラ、そしてディアスか」
不老の体を持つ四人だけが、時を超えて生き続ける。
「寂しいな」
リーナが呟いた。
「ああ。だが、彼らの思い出は永遠に残る」
俺たちは、これからも生き続ける。
仲間の記憶と共に。
百年が経った。
拠点の周辺は、もはや一つの国になっていた。
「影の守護者の伝説の地」として、多くの人が訪れる。
だが、俺たち本人が生きているとは誰も知らない。
「ルーク、また新しい子供たちが来た」
リーナが報告した。
俺たちは孤児を受け入れ、育てることを続けていた。
「何人だ?」
「五人。親を災害で亡くした」
「分かった。受け入れる」
子供たちは成長し、また新しい村を作る。そして、俺たちの教えを次の世代に伝える。
「影から人を助ける。目立たず、自由に」
それが、代々受け継がれていった。
ある日、セラが言った。
「もう百年か。疲れたな」
「ああ」
「でも、やめられない。まだ助けを必要とする人がいる」
リーナも頷いた。
「私たちには時間がある。急ぐ必要はない」
ディアスが笑った。
「お前たち、本当に変わらないな」
「それが俺たちだ」
墓は三つのまま。
だが、俺たちの心に、グラン、バルド、エドワードは生き続けている。
「これからも、続けていこう」
「ああ」
四人で、永遠に。
影の守護者として。
平和を守り続ける。
それが、俺たちの使命だ。
二百年が経った。
世界は大きく変わっていた。
「影の守護者」は完全に神話となり、宗教のようなものまで生まれていた。
「困った時、影の守護者が現れる」
「彼らは不死身で、今も世界を見守っている」
だが、俺たちは相変わらず、普通の人間として暮らしていた。
「また変装を変えないとな。同じ顔で二百年は不自然だ」
リーナが変身魔法で外見を変えた。
「これでまた別人だ」
ある日、セレナが久しぶりに現れた。
「ルーク! 大変!」
「また戦いか? 断る」
「違う! あなたたちの伝説が、暴走してる」
「暴走?」
「『影の守護者』を名乗る偽物が、各地で悪事を働いてる。あなたたちの名を利用して」
俺は眉をひそめた。
「偽物か...厄介だな」
「どうする? 放っておく?」
俺は仲間を見た。
「...いや、これは見過ごせない。俺たちの名を汚す奴は許さない」
セラが武器を取った。
「久しぶりに出張るか」
ディアスが笑った。
「二百年ぶりの戦闘か。体が鈍ってなければいいが」
リーナが魔法を準備した。
「偽物を一掃しましょう」
「ああ。影の守護者の真の力、見せてやる」
俺たちは、再び動き出した。
最初の偽物は、西の街で見つかった。
「私が影の守護者だ! 金を出せ!」
黒いマントを着た男が、商人を脅していた。
「あれか...」
俺たちは影から観察した。
「レベルは...80程度か。雑魚だな」
セラが一瞬で背後に回り、男の首に短剣を当てた。
「偽物は消えろ」
「ひっ!」
男は気絶した。
次の偽物は、東の村で発見された。
「影の守護者の名において、この村を支配する!」
三人組の盗賊団だった。
「レベル100、120、130か」
リーナが時間停止を発動し、三人を一瞬で無力化した。
「雑魚すぎる」
一週間で、十五組の偽物を全て始末した。
殺しはしない。ただ無力化し、二度と悪事ができないようにした。
「これで終わりか」
「ああ。偽物は全て消えた」
だが、この事件で、新たな伝説が生まれた。
「影の守護者が偽物を一掃した」
「やはり本物は存在する」
「彼らは今も、世界を見守っている」
俺たちは再び姿を消した。
「面倒なことになったな」
「まあ、いつものことだ」
拠点に戻り、平和な日常が戻った。
「今度こそ、のんびりできるか」
「そう願いたいな」
四人で笑った。
平和な日々は、また続いていく。
三百年が経った。
拠点は今や聖地となり、多くの巡礼者が訪れるようになっていた。
「影の守護者様に祈りを...」
だが、俺たちはその近くで、相変わらず普通の住人として暮らしていた。
「おじいさん、また畑仕事?」
村の子供が尋ねてきた。
「ああ。野菜が育つのを見るのは楽しいぞ」
子供は知らない。この優しいおじいさんが、かつて世界を何度も救った伝説の英雄だということを。
ある夜、四人で星を見上げた。
「三百年か...長いな」
リーナが呟いた。
「ああ。だが、退屈はしていない」
セラが笑った。
「毎日、新しい出会いがある。それだけで十分だ」
ディアスが真剣な顔で尋ねた。
「お前たち、このまま永遠に生き続けるのか?」
「分からない。でも、今は生きたい」
「まだやるべきことがある気がする」
四人で沈黙した。
風が優しく吹いた。
「グラン、バルド、エドワード...見てるか?」
俺は空に語りかけた。
「俺たちは、まだ頑張ってるぞ」
星が瞬いた。
まるで、返事をしているように。
「これからも、続けていこう」
「ああ」
永遠の時を、影の守護者として。
五百年が経った。
世界は技術と魔法が完全に融合した文明になっていた。
「時代は変わったな」
空を飛ぶ車、魔導コンピューター、瞬間転移装置。
だが、俺たちは相変わらず、古い拠点で静かに暮らしていた。
「新しい技術は便利だが、俺たちには必要ない」
ある日、若い歴史学者が拠点を訪ねてきた。
「影の守護者の研究をしています。この地に、何か手がかりがないかと」
「さあな。伝説は伝説だ」
俺は普通の老人を装った。
学者は失望した顔で去っていった。
「まだバレてないな」
リーナが笑った。
「五百年も生きてるのに、誰も気づかない」
「それが俺たちの技術だ」
夜、四人で昔の写真を見た。
グラン、バルド、エドワード。若かった頃の自分たち。
「懐かしいな」
「ああ」
セラが尋ねた。
「このまま、千年、二千年と生き続けるのか?」
「分からない。でも、今は生きている」
「それで十分だ」
ディアスが呟いた。
「お前たちと過ごした五百年、退屈しなかった」
「俺もだ」
永遠の命。
それは祝福でもあり、呪いでもある。
だが、俺たちは選んだ。
生き続けることを。
影の守護者として、世界を見守り続けることを。
それが、俺たちの道だ。
千年が経った。
世界は、俺たちが知っていた姿とはまったく違っていた。
「もう、俺たちの時代じゃないな」
人類は星々に進出し、魔法と科学で宇宙を旅していた。
だが、地球の古い森に、俺たちの拠点は残っていた。
「保護区になってるらしいな。『古代遺跡』として」
リーナが笑った。
「私たちが古代遺跡...面白い」
ある日、拠点に不思議な来訪者があった。
光る存在。人型だが、肉体を持たない。
「あなたたちは...まだ生きていたのですか」
「誰だ?」
「私は未来の人類。千年後の世界から来ました」
「千年後...つまり、二千年後か」
「はい。あなたたちの記録を見つけました。『影の守護者』として、千年前に世界を救った英雄たち」
「英雄じゃない。ただの冒険者だ」
未来人が微笑んだ。
「あなたたちに聞きたいことがあります」
「何だ?」
「なぜ、千年も生き続けているのですか? 目的は?」
俺は考えた。
「分からない。ただ、生きている。それだけだ」
「そうですか...」
未来人は消えていった。
セラが呟いた。
「俺たちは、何のために生きてるんだろうな」
「分からない。でも、それでいい」
目的なんてない。
ただ、生きている。
それが、俺たちの答えだ。
千年の間に、俺たちは何度も「終わり」を考えた。
「もういいんじゃないか。十分生きた」
だが、毎朝目を覚ますと、また生きている。
「今日も生きてしまったな」
リーナが苦笑した。
拠点の近くに、新しい住人が引っ越してきた。
若い夫婦と、小さな子供。
「こんにちは。隣人になりました」
「ああ、よろしく」
数日後、子供が泣いていた。
「どうした?」
「お母さんが...病気で」
俺は治癒の水を持っていった。
「これを飲ませろ」
翌日、母親は回復していた。
「ありがとうございます! あなたたちは...」
「ただの隣人だ」
それから、俺たちはその家族と親しくなった。
子供の成長を見守り、夫婦の悩みを聞き、一緒に食事をした。
「こういう日常が、俺たちを生かしてるのかもな」
セラが言った。
「ああ。小さな幸せの積み重ねだ」
ディアスが笑った。
「千年生きて、ようやく分かったことだな」
「遅すぎるくらいだ」
人との繋がり。
それが、俺たちが生き続ける理由なのかもしれない。
目的なんてなくていい。
ただ、誰かの隣で生きている。
それで十分だ。
数年後、隣の子供は成長し、青年になった。
「おじいさんたち、ずっと変わらないね」
「そうか?」
「うん。俺が子供の頃と、顔も体も同じだ」
俺たちは顔を見合わせた。
「...バレたか」
青年は笑った。
「大丈夫。誰にも言わない。おじいさんたちは、きっと特別な人たちなんだろうけど」
「特別じゃない。ただの隠居だ」
「それでも、俺はおじいさんたちが好きだ。いつも優しいから」
青年は去っていった。
「いい子に育ったな」
「ああ」
それから数十年後、青年は老人になり、俺たちに看取られて息を引き取った。
「ありがとう...幸せな人生だった」
また一つ、墓が増えた。
「何人見送っただろうな」
「数えきれない」
リーナが涙を拭った。
「でも、一人一人、忘れたことはない」
「ああ。全員の顔、名前、声。全部覚えてる」
それが、永遠の命を持つ者の宿命。
出会い、別れを、何度も何度も繰り返す。
「辛いな」
「ああ。でも、それでも生きる」
「なぜだ?」
「分からない。でも、次の出会いが待ってる気がする」
四人で頷いた。
生きる理由なんて、簡単には見つからない。
ただ、生きている。
それだけだ。
千五百年が経った。
人類は銀河系に広がり、地球は「故郷の星」として保存されていた。
俺たちの拠点も、「歴史保護区域」として残されていた。
「もう誰も住んでいない」
森は静かだった。
「寂しいな」
「ああ」
四人だけが残された。
ある日、空から宇宙船が降りてきた。
「調査隊か?」
だが、降りてきたのは一人の少女だった。
「あの...」
少女は俺たちを見て、驚いた顔をした。
「あなたたちは...もしかして」
「ただの老人だ」
「嘘。私、データベースで見た。千五百年前の写真と、顔が同じ」
俺たちは観念した。
「...ああ。俺たちが影の守護者だ」
少女が深々と頭を下げた。
「会えて光栄です。私は歴史学者のエリ。ずっと、あなたたちを探していました」
「なぜ?」
「聞きたいことがあるんです。千五百年も生きて...辛くないですか?」
俺は少女を見た。
「辛い。何度も終わりたいと思った」
「でも、生き続けている」
「ああ。理由は分からない。ただ、まだ終われない気がする」
少女が微笑んだ。
「それが、答えなんですね」
エリはしばらく俺たちと一緒に過ごした。
「千五百年の記憶...想像もできません」
「重いぞ。愛した人々の死を、何千回も見てきた」
「でも、それだけ多くの出会いもあったんですね」
「ああ」
エリが尋ねた。
「今でも、誰かを助けたいと思いますか?」
「...分からない。もう疲れた」
セラが答えた。
「千五百年、影から人を助けてきた。でも、世界は変わらない。また争いが起きる」
「無力感がある」
リーナが続けた。
エリは静かに言った。
「でも、あなたたちが助けた人々の子孫が、今の人類です」
「何?」
「データベースを調べました。あなたたちが助けた人々の家系図。その子孫は、今も銀河中で生きています」
「...そうか」
「あなたたちの優しさは、受け継がれているんです」
ディアスが笑った。
「千五百年越しの答えか」
「俺たちは無駄じゃなかった」
エリが立ち上がった。
「私、また来ていいですか?」
「ああ。いつでも」
少女が去った後、俺たちは顔を見合わせた。
「新しい出会いだな」
「ああ。まだ、生きる理由が見つかった気がする」
エリは毎月、地球に帰ってくるようになった。
「おじいさんたち、今月も元気?」
「ああ。お前こそ、仕事は忙しくないのか?」
「大丈夫。むしろ、ここに来るのが楽しみで」
エリは俺たちに、銀河の話を聞かせてくれた。
「今、人類は千の星系に広がっています」
「千か...想像もつかないな」
「でも、問題もあります。種族間の対立、資源の奪い合い、差別」
「変わらないな、人間は」
「はい。だから、私は思うんです。あなたたちの知恵が、今も必要だと」
俺は首を横に振った。
「もう俺たちの時代じゃない」
「でも、あなたたちにしか語れない歴史があります」
エリが提案した。
「記録を残してください。千五百年の経験を。それが、未来の人類の道標になります」
リーナが考え込んだ。
「記録か...悪くないな」
「賛成だ」
セラとディアスも頷いた。
「分かった。書き始めよう」
こうして、俺たちは千五百年の記憶を綴り始めた。
出会った人々、戦った敵、守った世界、失った仲間。
全てを、言葉にしていく。
「これが、俺たちの最後の仕事になるかもな」
「いや、まだ終わらない」
「そうだな。まだ、生きている」
記録を書き始めて十年が経った。
膨大な量になった。
「千五百年分は、やはり多いな」
だが、書くことで、俺たちは多くのことを思い出していた。
グラン、バルド、エドワード。
最初に助けた村の人々。
育てた孤児たち。
見送った何千もの命。
「こんなに多くの人と出会ってたんだな」
リーナが涙ぐんだ。
「忘れてたわけじゃない。でも、改めて振り返ると...胸が苦しい」
エリが毎月、進捗を確認に来た。
「もう九割方、完成していますね」
「ああ。あと少しだ」
「これが完成したら...どうしますか?」
俺は空を見上げた。
「分からない。でも、書き終えたら、少し休みたい」
「休む?」
「千五百年、ずっと生きてきた。疲れた」
エリが心配そうな顔をした。
「まさか...」
「死ぬつもりはない。ただ、静かに眠りたい」
「精霊王の加護を一時的に停止する。百年くらい眠って、また目覚める」
「そういうことができるんですか?」
「試してみる」
一年後、記録が完成した。
『影の守護者たちの記録 - 千五百年の旅路』
全百巻の大著。
「これで、俺たちの役目は終わった」
記録をエリに託した。
「これを、人類のために役立ててくれ」
「はい。必ず」
エリは百巻の本を抱えて、涙を流していた。
「ありがとうございます。これは人類の宝です」
「大げさだ」
「いいえ。本当に」
エリが去った後、俺たち四人は拠点の奥深くにある部屋に入った。
「精霊王の加護、一時停止」
体から光が抜けていく。
「眠くなってきた...」
リーナが横になった。
「おやすみ、みんな」
セラとディアスも眠りについた。
俺は最後に、拠点を見渡した。
グラン、バルド、エドワードの墓が見える。
「待っててくれ。すぐに行く...わけじゃないが、少し休む」
俺も横になった。
意識が遠のいていく。
千五百年、お疲れ様。
俺は、自分に言った。
そして、深い眠りに落ちた。
百年後。
俺はゆっくりと目を覚ました。
「...朝か?」
体を起こすと、隣でリーナ、セラ、ディアスも目覚めていた。
「百年、経ったのか」
部屋の扉が開いた。
そこには、見知らぬ若者が立っていた。
「お目覚めですか、影の守護者様」
「誰だ?」
若者は深々と頭を下げた。
「私はレオン。エリの曾孫です」
「エリの...百年も経ったのか」
「はい。祖母から、あなたたちのことを聞いて育ちました」
レオンが続けた。
「あなたたちの記録は、銀河中で読まれています。学校の教科書にもなっています」
「教科書...」
セラが苦笑した。
「まさか教科書に載るとはな」
「世界は、どうなっている?」
リーナが尋ねた。
「平和です。完全ではありませんが、あなたたちの教えが広まって、争いは減りました」
「そうか」
ディアスが立ち上がった。
「百年眠って、少し元気になった気がする」
「私もだ」
俺たちは拠点の外に出た。
森は変わっていなかった。
だが、遠くに光る都市が見える。
「文明が近づいてきたな」
「でも、この森だけは保護されています。あなたたちの聖地として」
「聖地か...大げさだな」
レオンが真剣な顔で言った。
「お願いがあります」
「何だ?」
「また、助けてくれませんか?」
俺たちは顔を見合わせた。
「...どういうことだ?」
「新しい脅威が現れたんです」
また、戦いか。
俺は即座に答えた。
「断る」
「え...?」
レオンが驚いた顔をした。
「でも、このままでは...」
「聞け。俺たちは千五百年、戦ってきた。魔王、魔帝、虚無の支配者。全て倒した」
「はい」
「だが、それで世界は完璧になったか? ならなかっただろう」
レオンが黙った。
「俺たちが倒しても、また新しい脅威が現れる。それが世界の摂理だ」
セラが続けた。
「今度は、お前たちが戦え。俺たちの記録を読んだなら、やり方は分かるはずだ」
「でも...」
「できる」
リーナが優しく言った。
「私たちだって、最初はレベル47の弱小パーティだった。それでも、成長して、世界を救った」
ディアスが笑った。
「お前たちにも、その力がある」
レオンは涙を浮かべた。
「...分かりました。私たちで、頑張ります」
「それでいい」
レオンが去った後、俺たちは拠点に戻った。
「これでよかったのか?」
「ああ。俺たちの時代は終わった」
「次の世代に、託す時だ」
四人で頷いた。
もう、戦わない。
それが、俺たちの決断だ。
数ヶ月後、レオンが再び訪れた。
だが、今回は戦いを頼みに来たのではなかった。
「報告に来ました。脅威を、倒しました」
「そうか」
「あなたたちの記録通りに、仲間を集め、戦術を練り、勝ちました」
レオンの顔は誇らしげだった。
「よくやった」
「ありがとうございます。でも...」
「何だ?」
「戦いの後、気づいたんです。私たちは影の守護者になりたいわけじゃない」
俺は興味深そうに聞いた。
「どういうことだ?」
「私たちは、堂々と名乗って、人々と共に戦いたい。孤独な戦いは、辛すぎます」
「なるほど」
セラが笑った。
「それでいい。お前たちは、お前たちのやり方で生きろ」
「俺たちは影を選んだが、それが正解とは限らない」
リーナが続けた。
「ありがとうございます」
レオンは去っていった。
「新しい世代は、新しい道を選ぶんだな」
「ああ。それでいい」
俺たちは静かに笑った。
影の守護者は、俺たちで最後だ。
次の世代は、光の中で戦う。
それが、正しい未来なのかもしれない。
それから、また静かな日々が戻った。
だが、俺たちは以前とは違う気持ちで生きていた。
「肩の荷が下りた気がする」
リーナが言った。
「ああ。もう世界を救う必要はない」
俺たちは本当の意味で、自由になった。
畑を耕し、本を読み、星を眺める。
時々、村から訪問者が来る。
「影の守護者様、お元気ですか?」
「様はいらない。普通に接してくれ」
だが、人々は俺たちを神のように扱った。
「伝説になりすぎたな」
ある日、ディアスが言った。
「なあ、俺たちはいつまで生きるんだろうな」
「分からない。永遠かもしれない」
「永遠か...悪くないな、今は」
「ああ」
四人で夕日を見た。
千六百年生きて、ようやく平穏を得た。
戦いも、使命も、何もない。
ただ、生きている。
「これでいいのかな」
リーナが呟いた。
「いいんだ」
俺は答えた。
「俺たちは十分頑張った。もう、休んでいい」
「そうだな」
風が優しく吹いた。
平和な夕暮れ。
それが、今の俺たちの全てだ。
二千年が経った。
俺たちは相変わらず、同じ場所で生きていた。
だが、世界は信じられないほど変わっていた。
「人類は...もう人類じゃないな」
レオンの子孫たちは、進化していた。
肉体を持たず、意識だけで存在する者。
機械と融合した者。
遺伝子操作で新しい能力を得た者。
「多様化しすぎて、もう追いつけない」
エリの家系だけは、代々、俺たちを訪ねてきた。
今の当主はサラという女性だった。
「ご先祖様たち、今日もお元気ですか?」
「ああ。お前も元気そうだな」
サラは毎週、地球に帰ってきて俺たちと話をした。
「私、不思議なんです」
「何が?」
「どうして、ご先祖様たちは進化しないんですか? 技術があれば、もっと強く、もっと自由になれるのに」
俺は首を横に振った。
「必要ない。俺たちは、このままでいい」
「なぜ?」
「変わりすぎると、俺たちじゃなくなる」
セラが続けた。
「俺たちは、二千年前のまま。それが誇りだ」
サラは不思議そうな顔をしたが、頷いた。
「そうですか...古風ですね」
「古風で結構」
俺たちは、変わらない。
それが、俺たちの選択だ。
ある日、サラが深刻な顔で訪れた。
「大変なことが起きています」
「また戦いか? 断ると...」
「違います。人類が、分裂しようとしているんです」
「分裂?」
「進化した者たちと、古い形態を保つ者たち。互いを理解できなくなって、対立が激化しています」
セラが尋ねた。
「戦争になるのか?」
「その可能性が...」
俺たちは顔を見合わせた。
「俺たちに何ができる?」
「調停を。あなたたちは、どちらにも属さない。二千年生きて、どちらの気持ちも理解できるはず」
「調停か...」
リーナが考え込んだ。
「戦うわけじゃない。話を聞くだけなら」
ディアスが頷いた。
「それなら、やってもいい」
俺は溜息をついた。
「分かった。やろう」
「本当ですか!」
サラが喜んだ。
「ただし、条件がある」
「何でしょう?」
「俺たちの名前は出すな。調停者として、匿名で動く」
「...了解しました」
こうして、俺たちは再び表舞台に立つことになった。
影のままで。
それが、俺たちのやり方だ。
調停の場は、仮想空間に設けられた。
進化派の代表と保守派の代表が対峙していた。
「貴方たちは時代遅れだ。進化を拒むのは愚かだ」
「貴方たちは人間性を失った。もはや人類ではない」
互いに譲らない。
俺たちは姿を隠したまま、声だけで話しかけた。
「静かに」
「誰だ?」
「調停者だ。話を聞かせてもらう」
俺たちは両者の主張を、何時間も聞いた。
進化派は言う。
「限界を超えたい。宇宙の果てまで行きたい。永遠に生きたい」
保守派は言う。
「人間らしさを保ちたい。命の尊さを忘れたくない」
どちらも正しい。
どちらも間違っていない。
「分かった」
俺は静かに言った。
「お前たちは、分かれればいい」
「何?」
「無理に一緒にいる必要はない。進化したい者は進化しろ。保ちたい者は保て」
「でも、それでは...」
「別々に生きても、敵ではない。ただ違う道を選んだだけだ」
リーナが続けた。
「たまに会って、話せばいい。互いを尊重すればいい」
セラが言った。
「俺たちも、二千年そうやって生きてきた。人と関わり、離れ、また会う」
ディアスが笑った。
「完璧な統一なんて、幻想だ」
両者が沈黙した。
数日後、合意が成立した。
「人類統一政府を解散する。進化派は『新人類連合』、保守派は『地球人類同盟』として、それぞれ独立する」
「ただし、互いに攻撃しない。必要な時は協力する」
サラが喜んで報告に来た。
「成功しました! 戦争は回避されました!」
「そうか」
「あなたたちのおかげです」
「俺たちは何もしていない。ただ、当たり前のことを言っただけだ」
「でも、その当たり前が必要だったんです」
サラは去り際に言った。
「二千年の知恵、本当にありがとうございました」
俺たちは拠点に戻った。
「また、少し役に立てたな」
「ああ」
「でも、もう本当に最後だ」
「今度こそ、完全に隠居する」
四人で約束した。
それから十年、誰も訪ねてこなくなった。
「静かになったな」
「これでいい」
俺たちは本当の意味で、世界から忘れ去られていった。
「影の守護者」は伝説となり、やがて神話となった。
実在したのか、架空の存在なのか、誰も分からなくなった。
だが、俺たちは生きている。
静かに、誰にも知られず。
それが、俺たちの望みだった。
三千年が経った。
もう誰も、俺たちのことを覚えていない。
「影の守護者」は完全に神話となり、実在を信じる者すらいない。
「これが、俺たちの望みだったな」
拠点は原生林の奥深く、誰も来ない場所になっていた。
人類は銀河の彼方に広がり、地球はほとんど無人の星となった。
「静かだ」
「ああ」
俺たち四人だけが、古い地球に残っていた。
毎日、同じことの繰り返し。
朝、目を覚ます。
森を歩く。
本を読む。
料理を作る。
星を眺める。
眠る。
「退屈だな」
ディアスが呟いた。
「ああ」
「でも、不思議と嫌じゃない」
リーナが笑った。
「三千年生きて、ようやく見つけたんだ。平穏の価値を」
セラが続けた。
「戦いも、使命も、何もない。ただ生きている」
「それで十分だ」
夕暮れ時、四人で拠点の屋上に座った。
「なあ、俺たち、いつまで生きるんだろうな」
「分からない。でも、今は生きている」
「それだけで、いいのか?」
「いいんだ」
沈黙。
風が吹く。
鳥が鳴く。
それだけの世界。
それが、俺たちの全てだ。
ある朝、俺は目を覚まして気づいた。
「もう、いいかもしれない」
三人も同じことを考えていたようだ。
「ああ。十分生きた」
三千年。
戦い、守り、愛し、別れ、そして生き続けた。
「疲れたな」
「ああ」
俺たちは拠点の奥、最初に眠った部屋に戻った。
「今度は、目覚めないかもしれない」
「それでいい」
四人で横になった。
「グラン、バルド、エドワード...待たせたな」
「長い旅だった」
「でも、後悔はない」
「ああ」
精霊王の加護を、完全に手放した。
体から光が消えていく。
不老の体が、ゆっくりと老いていく。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
意識が遠のく。
三千年の記憶が、走馬灯のように流れる。
オークを狩った日。
仲間と出会った日。
魔王を倒した日。
そして、静かに暮らした日々。
全てが、愛おしい。
俺は、微笑んだ。
「いい人生だった」
そして、永遠の眠りについた。
影の守護者たちは、誰にも看取られず、静かに消えた。
それが、彼らの望みだった。
【完】




