第1章_転生と覚醒
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第1章 - 転生と覚醒
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森の奥深く、木々の間から漏れる陽光が地面に斑模様を描いていた。
俺は呼吸を整え、茂みの影から前方を見据える。そこには五体のオークが、粗末な武器を手に集まっていた。緑色の肌に牙を剥き出しにした獰猛な魔物たち。だが、群れで行動するがゆえに油断がある。
一頭が仲間と何か唸り声で会話している隙を突く。
足音を殺して木の陰から陰へと移動し、剣の柄を強く握りしめた。風向きは良好だ。奴らにこちらの気配は届いていない。
「三体を同時に仕留めるのは無理だ。まずは一番手前の一体から...」
心の中で狩りの手順を確認する。オークは単体なら大した相手ではないが、群れになると厄介だ。一体ずつ確実に数を減らしていく。それが森での戦いの鉄則だった。
俺は静かに剣を抜き放ち、最初の獲物に狙いを定めた。
俺は茂みから飛び出し、最も近いオークの背中に剣を突き立てた。一体目が倒れると同時に、残り四体が咆哮を上げて襲いかかってくる。
「来い」
右から振り下ろされる棍棒を剣で弾き、そのまま体重を乗せて押し込む。九十キロの筋肉が生み出す力に、オークはよろめいた。隙を突いて喉を一閃。二体目が地に倒れる。
左右から同時に攻撃が来る。俺は低く身を沈め、二体の間をすり抜けた。百九十センチの巨体が、まるで風のように動く。振り返りざまに横薙ぎの一撃。三体目の胴を斬り裂いた。
残り二体が怯んで距離を取ろうとする。だが、遅い。
地面を蹴って一気に間合いを詰める。俊敏さと力を兼ね備えた俺の踏み込みに、奴らは反応できない。剣を振り上げ、縦に一閃。四体目が倒れる。
最後の一体が背を向けて逃げ出した。
「逃がすか」
全速力で追いかけ、背中に剣を突き入れる。五体目が地面に崩れ落ちた。
呼吸は少し荒いが、まだまだ余裕だ。この程度、準備運動にもならない。俺は剣を拭い、次の獲物を探して森の奥へと足を進めた。
俺の名はルーク。二十五歳の冒険者だ。
この仕事を始めて七年になる。身長は百九十センチ、体重は九十キロ。鍛え上げた筋肉が俺の武器だ。剣を振るうにも、重い荷物を運ぶにも、この肉体がなければ生き残れない。森や山を駆け巡り、魔物と渡り合ってきた日々が、この体を作り上げた。
力には自信がある。片手で人一人を軽々と持ち上げられるし、岩を砕くことだってできる。だが、ただの力自慢じゃない。俊敏さも兼ね備えている。この巨体で素早く動けるのが俺の強みだ。敵の攻撃を紙一重でかわし、一瞬の隙を突いて反撃する。スピードとパワー、その両方があるからこそ、今まで生き延びてこられた。
体力も人並み外れている。一日中走り続けても、夜通し戦っても、まだ動ける。疲れを知らない体が、俺を何度も窮地から救ってくれた。
冒険者としての依頼は選ばない。魔物退治、護衛、探索。何でも引き受ける。フィジカルの強さこそが俺の誇りであり、生き様だ。この体がある限り、俺は戦い続ける。
森を出て、街の冒険者ギルドに向かった。背負い袋にはオークの牙と魔石を詰め込んでいる。五体分だ。それなりの金になるはずだった。
ギルドの受付に袋を置く。中年の受付嬢が面倒臭そうに中身を確認し始めた。
「オークの牙五本に魔石五個ね。はい、銀貨二十枚」
「待て。五体分だぞ。もっと出るはずだ」
受付嬢は鼻で笑った。
「あのね、今オークの素材なんて供給過多なのよ。新人冒険者がこぞって狩るから市場に溢れてるの。それに、この牙、少し欠けてるし。魔石も小粒だわ」
「だが、俺は命懸けで...」
「命懸け? オークなんて雑魚でしょ。嫌なら他所で売れば? まあ、どこでも同じ値段だと思うけど」
俺は歯を食いしばった。確かに最近、冒険者の数が増えている。競争が激しくなり、素材の価値は下がる一方だ。
「...分かった」
銀貨二十枚を受け取る。これでは酒場の飯代と宿代で消える。あの戦いは何だったのか。
ギルドを出ながら、俺は拳を握りしめた。もっと割の良い仕事を探さなければ。このままでは食っていけない。
宿に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
「クソが...」
五体ものオークを倒して、たったの銀貨二十枚。明日の食費にもならない。この先どうすればいいんだ。もっと強くなるしかないのか。だが、どうやって。
考えるのも面倒になって、俺は目を閉じた。疲労が一気に押し寄せてくる。意識が沈んでいく。
その時だった。
頭の奥で何かが弾けた。
「ぐっ...!」
激しい痛みとともに、見たこともない映像が脳裏に流れ込んでくる。
高いビル。走る車。スマートフォン。コンビニ。電車。
これは...何だ?
そして、気づいた。
これは俺の記憶だ。いや、違う。別の人間の記憶。別の世界の記憶。
俺は...日本という国に住んでいた。名前は...田中隆。二十八歳のサラリーマン。毎日満員電車に揺られ、会社で働き、安い居酒屋で酒を飲んでいた。
そして、ある日。駅のホームで人に押されて線路に落ち、電車に轢かれて死んだ。
「転生...したのか、俺は」
ベッドの上で体を起こす。両手を見つめた。
前世の知識が全て蘇ってくる。ゲーム、漫画、アニメ。異世界ファンタジーの知識。
この世界で生き抜くための、ヒントがそこにあるかもしれない。
俺の目に、新しい光が宿った。
「そうだ...魔法だ」
俺は興奮で体が震えた。この世界には魔法がある。だが、ほとんどの冒険者は基本的な攻撃魔法や回復魔法しか使わない。発想が貧困なんだ。
前世の知識がある。超能力という概念を知っている。それを魔法で再現すればいい。
「まずは念力...サイコキネシスだ。魔力で物を動かす。遠隔操作も可能なはず」
頭の中で構築していく。魔力を物体に纏わせ、意思で動かす。剣を浮かせて操れば、複数の敵を同時に攻撃できる。
「テレパシー。心で会話する魔法。仲間との連携が取れる。敵に聞かれることもない」
「透視...クレヤボヤンス。壁の向こうを見る魔法。ダンジョン攻略に必須だ」
「未来予知...プレコグニション。危険を事前に察知できれば、死ぬ確率が激減する」
次々とアイデアが湧いてくる。
「空中浮揚...レビテーション。飛べれば地形を無視できる」
「瞬間移動...テレポーテーション。これがあれば逃げることも、奇襲することもできる」
「発火能力...パイロキネシス。思念で火を起こす。武器がなくても戦える」
「浄化...ピュリフィケーション。毒を取り除く。解毒薬がいらなくなる」
「重力操作...グラビティ。敵を重くして動きを封じる。あるいは自分を軽くして素早く動く」
そして、最後に思いついた。
「サイズ変更...物の大きさを変える魔法。小さな金貨を巨大化させれば...いや、武器を巨大化させて威力を上げるのもいい」
可能性は無限だ。
この世界の魔法使いたちは、既存の魔法を使うことしか考えていない。だが、俺には前世の知識がある。超能力という概念を魔法に落とし込めば、誰も真似できない独自の力が手に入る。
「明日から実験だ。まずは簡単なものから試してみよう」
俺は拳を握りしめた。これで変わる。安く買い叩かれる日々は終わりだ。
この力で、俺は這い上がってみせる。
俺は宿の机に向かい、紙とペンを取り出した。前世の知識を整理し、この世界の魔法として体系化する。
「まずは攻撃系だ」
ペンを走らせる。
攻撃系(一般)
・サイコキネシス:物を飛ばして敵にぶつける。石でも剣でも何でも武器になる
・テレキネシス:敵の体を直接ひねる。首をねじ切る、腕を折る、足を折る、胴体をひね切る。近接戦闘不要
・パイロキネシス:対象を発火させる。防具ごと燃やせる
・クエイク:頭を揺らして脳震盪。内部からの攻撃
・アースクエイク:大地を揺らして敵を転倒させる
・グラビティ:敵を重くして動けなくする
・レビテーション:敵を浮かせて落下させる。高所から落とせば致命傷
・グラビティ+レビテーション:浮かせて重くして叩きつける。さらに強力
・サイズ:鉄球を巨大化してぶつける。サイコキネシス+グラビティ+サイズで最強の攻撃
攻撃系
・ピュリフィケーション:汚れを浄化。アンデッドの汚れた魂を浄化して消滅させる
・ピュリファイ:邪悪を祓う。悪霊や呪いも解除可能
「次は索敵と調査だ」
索敵系
・テレパシー:仲間と無言で連携。敵に聞かれない
・クレヤボヤンス:壁を透過して見る。罠や待ち伏せを事前に発見
・クレアオーディエンス:遠くの音を聞く。敵の会話を盗聴
・リモート・ビューイング:離れた場所を見る。偵察に最適
調査系
・サイコメトリー:物に残った記憶を読む。凶器から犯人を特定できる
・ポストコグニション:過去の出来事を見る。何が起きたか再現
「移動と製造、そして感知系」
移動系
・テレポーテーション:瞬間移動。逃げるのも奇襲するのも自在
・レビテーション:空中浮揚。飛行能力。地形を無視
製造系
・ソートグラフィー:思考を映像化。地図や設計図を作れる
・ピュリフィケーション:岩塩や鉱石を精製。不純物を取り除いて純度を上げる。高く売れる
感知系
・フォアサイト:未来を見る。敵の動きを予測
・プレコグニション:危険を予知。罠や奇襲を回避
「窃取と治癒...これで完璧だ」
窃取系
・アポート:遠くの物を手元に。敵の武器を奪う、財布を盗む
・アスポート:物を遠くに送る。爆弾を敵陣に送り込む
治癒系
・ヒーリング:傷を癒す
・ピュリフィケーション:毒を浄化
・ピュリファイ:呪いや病気を祓う
俺は書き終えた紙を見つめた。
この魔法体系があれば、どんな状況でも対応できる。攻撃、防御、索敵、調査、移動、製造、感知、窃取、治癒。全てが揃っている。
「問題は、これを実際に使えるようにすることだ」
魔力の制御方法を学び、一つ一つ実験していく必要がある。だが、これだけの可能性があれば、必ず成功する。
俺は紙を大切に折りたたみ、懐にしまった。
明日から、新しい人生が始まる。
翌朝、俺は人気のない森の奥へと向かった。
「まずは基本からだ。サイコキネシス...念力」
地面に落ちている小石に意識を集中する。魔力を石に纏わせるイメージ。前世で見たアニメや漫画の知識を総動員する。
「動け...」
じわりと、石が震えた。
「いける!」
さらに集中力を高める。石がふわりと浮き上がった。数センチ、十センチ、三十センチ。
「よし、次は飛ばす」
意思を込めて前方に放つ。石が風を切って飛び、木の幹に激突した。
「成功だ!」
次はテレキネシス。ひねる力。
枯れ枝を拾い、両端を意識する。魔力で両側から逆方向にひねるイメージ。
ミシミシと音を立てて、枝がねじれていく。そして、ボキッと折れた。
「これなら敵の腕も折れる。首だって...」
背筋が寒くなった。恐ろしい力だ。
続いてパイロキネシス。発火能力。
魔力を一点に集中させ、摩擦熱を生み出す。空気が震え、乾いた落ち葉から煙が上がった。
「もっと強く!」
ボッと炎が立ち上る。
「できた!」
一日中、森で練習を続けた。グラビティで石を重くし、レビテーションで自分の体を浮かせる。テレポーテーションはまだ無理だが、短距離なら一瞬で移動できるようになった。
夕暮れ時、俺は汗だくで宿に戻った。
体は疲れているが、心は高揚していた。これなら戦える。今までとは違う戦い方ができる。
「次はオークじゃない。もっと強い魔物で試す」
俺は拳を握りしめた。
その前に、自分の現状を確認しておく必要がある。
宿に戻り、鑑定魔法を自分にかけた。
「アプレイザル」
【名前:ルーク / 年齢:25歳 / レベル:47】
【職業:冒険者 / 魔力:450 / 体力:680 / 筋力:720 / 敏捷:650】
【スキル:剣術Lv7、体術Lv6、耐久Lv8】
「レベル47か...七年でここまで来た。だが、これからはもっと早く成長できる」
超能力系魔法を習得すれば、経験値の稼ぎ方が変わる。
翌日、俺は森のさらに奥へと足を踏み入れた。
ここには危険な魔物が棲んでいる。冒険者ギルドでも中級者以上でなければ立ち入り禁止の区域だ。だが、今の俺なら大丈夫だ。
茂みの向こうに、巨大な影が見えた。
トロール。身長三メートルはある緑色の巨人。オークの倍以上の体格で、再生能力を持つ厄介な魔物だ。通常なら複数人のパーティで挑むべき相手。
「ちょうどいい」
俺は物陰から手を伸ばし、魔力を集中させた。
「グラビティ」
トロールの体が急に重くなる。膝が地面に沈み、動きが鈍った。
「次、テレキネシス」
魔力でトロールの右腕をひねる。ボキボキと骨が軋む音。トロールが苦痛の咆哮を上げた。
「パイロキネシス」
トロールの頭部から炎が立ち上る。再生能力があっても、燃え続ければ意味がない。
絶叫しながら、トロールは倒れた。
「...三つの魔法で終わった」
以前の俺なら、剣で何度も斬りつけ、再生される前に首を落とすという命がけの戦いだった。それが今は、距離を保ったまま一方的に倒せる。
俺は倒れたトロールに近づき、魔石を取り出した。
「これなら...上位の魔物も狩れる」
口元に笑みが浮かぶ。
そして、体の中で何かが変わる感覚があった。
「レベルアップ...したのか?」
【レベル47→48に上昇しました】
「超能力系魔法を使った戦闘で、効率よく経験値が得られる」
もう安く買い叩かれることはない。俺の時代が来た。
トロールを倒した後、俺はふと気づいた。
「超能力系の魔法は強力だが...基本的な魔法も必要だ」
宿に戻り、ギルドで初級魔法の教本を購入した。銀貨十枚。痛い出費だが、必要な投資だ。
まずは火魔法。
「ファイア」
手のひらから小さな火球が生まれた。パイロキネシスとは違い、即座に発動できる。戦闘で使いやすい。
次は魔力探知。
目を閉じて周囲に意識を広げる。ぼんやりと、生物の魔力反応が感じ取れた。壁の向こうに人がいる。隣の部屋の宿泊客だ。
「索敵に使える」
魔力操作は既に超能力系の魔法で身につけていた。だが、より精密な制御を学ぶことで、魔法の消費を抑えられる。
土魔法も習得した。
「アース・ウォール」
地面から土壁が立ち上がる。防御に便利だ。
そして鑑定。これは重要だ。
トロールの魔石に手をかざす。
「アプレイザル」
脳裏に情報が流れ込む。『トロールの魔石・中級・銀貨八十枚相当』
「八十枚...! やはり受付に騙されていたのか」
最後はアイテムボックス。異次元空間に物を収納する魔法。
「ストレージ」
目の前に半透明の空間が開く。魔石を放り込むと、消えた。取り出すときも同じ呪文を唱えればいい。
「これで準備万端だ」
基本魔法と超能力系魔法。両方を使いこなせば、俺は無敵になれる。
「待てよ...魔石だけじゃもったいない」
俺は倒れているトロールの死体を見つめた。皮や骨、肉も売れるはずだ。だが、三メートルもある巨体をどうやって運ぶ。
「そうだ、アイテムボックスがある」
トロールの死体に手を触れ、呪文を唱える。
「ストレージ」
巨大な死体が光とともに消えた。異次元空間に収納される感覚。重さは感じない。
「便利すぎるだろ、これ」
俺は森を出て、冒険者ギルドへと向かった。
受付には例の中年女がいる。俺の姿を見て、面倒臭そうな顔をした。




