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砂糖菓子とラピスラズリ  作者: メモ帳
中等部2年
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59.中等部2年の騎士様と学年末試験

 その年の戦闘実習は例年にないほど平和だった。その話は実習から数日が経っても学生たちの話題の種となっていたが、さすがに月が変われば話題も変化する。


 そうして春の終わりである王妃の月の下旬、3ヶ月ぶりの月末試験が行われた。

 もちろん月末試験そのものはリリにとって他愛ないものだ。ひとつ年上で、さらに近衛騎士であるアニエスに負けたとしても上位は保たれるしクラスも変わらない。

 だが前回の試験でSクラスにあがったオレリアは違っていた。今の彼女の成績はSクラスの中では下位で、少し順位を下げたらAクラスに転落してしまう。


 そんなオレリアから全力で抱き締められ熱烈な依頼を受けたアニエスは、図書室で試験勉強を教えることになった。そうなると必然的にリリも図書室で勉強することになるのだが、試験勉強をするようになって数日が経つと図書室は多くの女子生徒が集まるようになっていた。

 なにせ図書室へ行けば、学園で最も美形な現役近衛騎士から優しく紳士的に勉強を教えてもらえるのだ。

 そうしてささやかだが黄色い声色と甘い視線が飛び交う図書室で、唯一頬を赤らめない女子生徒がいる。彼女は中等部1年Sクラスにいて姉思いの美少女と名高いエミリー・オリヴェタンだ。


 彼女は甘ったるい空気の中でも平然としていて、少し前にマティアスの元へ届いたという贈り物について聞いていた。


「じゃあその親切なおじさんは、わざわざ帝国にいる凄腕の技師に頼んで超絶改良してくれたんだ?」

「そうなんだよ。おかげで装着してても僕が使いたいと思わないと起動しないようになったんだ。それに手紙の説明を読む限り、これは魔力を溜め込む機能もあるみたいで」

「魔力を溜め込むってなに? 封じるとかじゃないよね? 魔芒石にそんなことできるの?」

「ううん、そのために精霊石っていう石が新しくつけられてるよ。この青い石がそう」


 そう言いながらマティアスは手首についた新型の魔法武具をエミリーに見せる。すると彼女は興味津々とそれを見つめた。


「こっちの赤いのは通常の魔芒石よね。こっちの機能も書き換えられてるの?」

「うん。前のは身体強化を使うと身体が大人になってたんだけど、それは成長期の僕には良くなかったみたい。だから大人にならずに身体強化だけかかるんだって。あと色彩変化はそのまま残してくれてるから、その機能を使うと髪が赤くなるよ」

「それって、色彩変化の機能を使わずに身体強化だけ使うとかもできるってこと?」

「うん。必要に応じていろいろ使い分けてって」

「ねぇそれもう子供がオモチャ感覚で持つ色彩変化の魔法武具じゃないわよね? かなり最高品質の魔法武具に思えるんだけど、改良にかかった値段とか聞いた?」


 エミリーが問いかけた先で、マティアスは初めて気づいたかのように驚いた顔を見せている。そんなマティアスの反応に呆れ返ったエミリーは隣にいる砂糖菓子に目を向けた。


「泣き虫マティアス、お金のこととか考えてないけど大丈夫?」

「わたくしの可愛い子犬だからこそ、おじさまも最高に手を加えてくださったのよ。お金のことなんて気にすることはないわ」

「前から思ってたけど、砂糖菓子様は絶対庶民じゃないわよね。金銭感覚が狂ってるわ」

「この場合に狂っているのは、わたくしではなくおじさまなのよね。まぁでもその辺りは詮無きことよ。それよりエミリーは最近どう? 愛しいお姉様であるクレールはSクラスに戻れそうかしら?」


 この図書室に来ないということは別の場所で勉強をしているのだろう。そんなクレール・オリヴェタンを思うリリの目の前で、唐突にエミリーが眉間に深いシワを刻んだ。

 とたんにリリは眉間が酷いわよと注意するのだがエミリーは顔をしかめたままだ。


「あの臆病者アラン、姉を独り占めしたいがために教室で勉強を教えてるのよ。わたしが姉を図書室に誘った時もアニエスの手を煩わせるからって姉が遠慮がちに言うの。それがもう激烈可愛過ぎて反論できない」

「クレールがそれを言うのなら、慎ましやかで遠慮がちな彼女らしい言葉に聞こえるわね」

「それはそうだけど。わたしも姉と勉強したいのよ。隣の椅子に座って姉の匂いを嗅ぎながら勉強したら学年首席だって余裕で取れるのに!」


 姉が足りなくて死にそうだと怒るエミリーは声が大きいと司書に叱られて謝罪した。そうして声を抑えてなお怒りは静まらないらしい。


「悔しいから今夜ちょっと姉の部屋に忍びこもうと思う。3年生の部屋はお風呂があるから一緒に入ったりするわ」

「それはなんだか不躾で良くない雰囲気があるわね? それとも姉妹なら良いのかしら」

「でもわたし、小さい頃はそれこそ姉にお風呂の世話をしてもらってたのよ。育児放棄されてたから」

「……それは」


 やはりあの謁見の間でオリヴェタン侯爵をひねり潰してやれば良かった。そう言いたい気持ちを飲み込んだリリはエミリーの頬を指の背で撫でた。


「姉に対する恩返しは尽きないわね?」

「ほんとよ。本気で姉が幸せ過ぎてつらいって言うまでやってあげたい。でも、もうひとつ気になるんだけど。ゴミ親たちを王城に呼びつけて、その無駄に高い自尊心と価値観をベキベキにへし折って、侯爵位を捨てさせた人がいるみたいなの。その人こそが姉の恩人じゃんって、最近祖父から顛末を聞いて思ったのね。そこらへんってイケメン騎士お姉様に聞いたら教えてくれると思う?」

「アニエスは答えないわ」


 エミリーの質問にリリは短く答えた。するとエミリーは確かにそうだと表情を緩める。


「あのイケメン騎士お姉様はガチで帝国騎士なんだもんね。決闘の時のお姉様ほんとカッコ良かったんだよ。帝国騎士団の団服もすごく似合っててカッコ良かったし、めちゃくちゃ強かったし、ほんとすべてが計算されてるって感じで動いてたんだ。そこまですごい騎士なら、守秘義務とか普通に守ってそうって思うよ。だからまぁ仕方ないかなって」

「その分だけアニエスに返せば良いのよ」

「うん。そうしたい。でもそのついでに砂糖菓子様になにかあげても良い?」


 なぜか礼に巻き込まれかけているらしいリリはその問いかけに目を瞬かせる。


「どうして? わたくしは何もしていないわ」

「え? だっていつも騎士お姉様と一緒にいるし。なんなら砂糖菓子様って餌付けしたくなる雰囲気あるし。何よりミリュエルさんがやってる砂糖菓子様の口にケーキ入れるアレをやりたい。人に何かを食べさせるとかしたことないから」


 エミリーが幼い頃は、食べるのに難しいものなどはに姉に食べさせてもらっていたらしい。だが物心つく前のことなどほとんど覚えておらず、親しい誰かに対して食べさせるという行為をしたこともない。家族と家族らしい事をしてこなかったエミリーはそんな些細なこともやってみたいと願うらしい。

 そんなエミリーにリリは自然な微笑みをこぼす。


「わたくしを甘やかしたいだなんて、エミリーは下僕の才能があるのね。それなら毎日でもわたくしにケーキを貢ぐことを許してあげるわ」

「ありがと。それがうまくできたら、いつか姉みたいになれるかも」

「あなたはあなたで可愛らしいのだから、クレール・オリヴェタンに近づく必要はないのだけど。でも好きな人に近づきたいその一途な思いは否定しないわ」

「わたし、かなり砂糖菓子様のこと大好きだよ。だから泣き虫マティアスが砂糖菓子様のこと大好きになる気持ちもわかるんだよね。わたしも親から否定されてきて自分のことゴミみたいに思ってるけど、砂糖菓子様の言葉はそんなわたしをフワフワ浮かせてくれるの。こんなわたしでも価値があるんだって教えてくれたのは砂糖菓子様と騎士お姉様だからね」


 エミリーが素直な告白を向けている正面の席でマティアスが嬉しそうにうなずいている。その長い前髪の向こう側はエミリーにもリリにも見えないが、涙腺の弱い彼が目を潤ませて喜んでいることはわかった。




 かくして王妃の月下旬の月末試験が終わったとしても、1ヶ月あけた青の月には学年末試験が待ち構えている。そのためか、あるいは美形騎士から勉強を学べる環境が捨てがたいのか女子生徒は引き続いての図書室勉強会を望んだ。

 そして中等部で誰よりも優しく強いこの騎士が、そんな令嬢の願いを無視するはずもない。いつものように緩やかで優しい笑顔で承諾した騎士は、しかし根を詰めすぎないようにとさらに気遣った言葉をくれる。

 そんな女子生徒たちが憧れてやまない存在が、男子の制服を着ていても女子生徒であることが令嬢たちの心を惹き付ける要因のひとつでもあった。

 アニエス・ディランという美形騎士は、昼は学園で最も強く優しく模範生徒として存在する。そして夜は女子寮という秘密の花園でさえずる小鳥を優しく愛でてくれる魅惑のお姉様としていてくれた。

 おかげで親元から離れたばかりの中等部1年生たちも、生活面の不安や体調不良のことなど素直に相談することができるのだ。

 12歳になると身体が淑女らしい体型へと変わり始める少女もいる。中にはそれに伴い髪の色が少し濃くなったことを悩む少女もいるが、そんな彼女らの深刻な悩みも愚痴も何もかもを受け止めてくれる。

 そんな14歳の帝国騎士のおかげで女子寮は例年にない治安の良さを保てていると、寮の管理人も絶賛するほどだ。


 そんなアニエスは学年末試験の剣術試験にて、彼女が現役騎士であることを理由に担当教諭から「全力で手加減して欲しい」と周囲にも聞こえる声で懇願された。

 担当教諭が中等部騎士クラスを教えるプロだとしても、それは教えるプロであって騎士ではない。だが騎士の強さは誰よりも知っているからこそ、本物の騎士と戦う危険を把握しているのだ。なので教諭はわざと他の生徒たちに聞こえる声で手加減することを望み、騎士と戦う危険性を周囲に知らしめた。

 教諭としてはそうすることで、安易にアニエスへ模擬戦を挑む愚かな生徒が現れることを防ぎたいのだろう。

 だがアニエスはそんな教諭の言葉を笑顔で受け取りながらもその甘さを思った。愚か者が騎士に模擬戦を望み怪我をしたところで、それは愚か者が決断した結果でしかない。

 アニエスは帝国騎士になる中で、傲慢と慢心が死を招くことを厳しく教えられていた。戦場に立てば騎士としての技量と関係なく死ぬこともある。そしてその最大の要因となるのが傲慢と慢心だ。

 だから騎士クラスにいるかもしれない愚か者が学生の内に怪我をすることなど問題ではないと思う。むしろ戦闘実習などの学園外では、傲慢と慢心を理由に死ぬ可能性がある。ならばそれより先に学んでしまったほうが良いとアニエスは思っていた。


 だがだからといってアニエスも、怪我人を出したくない学園の方針を変えようとはおもわない。

 かくして剣術試験を受けることなく首位が確定したアニエスは、無事に学力試験と芸術でも首位を取ることができた。


 ただその年の学年末試験は、昨年と違って魔力量測定のやり方が変わっているらしい。

 この部分は昨年はいなかったアニエスは知らない。ただ昨年の学年末試験にて幼馴染みが魔力量測定器をすべて破壊したことは聞いていた。そして王立学園は1年かけてそれら5体の測定器を新しく入れ替えたようだ。

 新型の魔力量測定器は竜王国製ではなく、一部がグレイロード帝国からの輸入に頼っている。正確にはグレイロード帝国内にあるブラマ王国という国で作られている巨大魔芒石を導入していた。


 その魔芒石はこれまでと違い測定者の基礎魔力量と魔力循環の有無を調べることができる。さらに今までと違い測定者がまとっている力を魔力以外も測定できるようになった。そのため神聖力しか持たないため「魔力量ゼロ」だった学生も神聖力の量が明記されることになる。

 そしてさらにここで神聖力しか持たないとされた学生は、別途講義を受けることになっていた。そこで彼らは食べ物に潜む危険性などを学び、食べて良い物と悪い物があることを知ることができる。


 それら魔力測定器の説明を聞いたアニエスは小さく笑った。長期休暇を押し付けられたからと竜王国までやって来た宰相閣下の本命はこれだったと察してしまったためだ。

 あの仕事以外はしない宰相が、リリの為とはいえわざわざ海を超えて魔女の妙薬だの何だのと探し歩くのは不自然だった。もちろんそれでリリが一瞬でも害を受けたのは事実だが、それでリリの身になにかあったわけではない。ベルナールの話では、リリの身体は正しくその魔法薬物を浄化していたのだ。

 なのに宰相が来た時はそれほど深刻な状況かとも思ったが、あれはおそらく本気でただの散歩なのだろう。


 ベルナールの伯父とやらから頼まれたから、本題であるこの魔力測定器の売り込みついでに森まで散歩をした。その中で優秀なベルナールが宰相の意図した通りの真相を手にしたからあっさりと帰って行った。そしてきっとその前後で竜王国王城から「神聖力しか持たない子供」について相談されたのだろう。

 瘴気をその身に溜め込み過ぎて死にかけていたシオン・トリベールは、リリの力で浄化された。だが類似するすべての子供に竜の力を向けるわけにはいかない。ならばあらかじめ人を選別して、神聖力しか持たない者には摂取する物に気をつけさせれば良い。それでも体調不良となった時は、聖王国アルメニアからでもグレイロード帝国からでも五柱神の神官を呼べば浄化してもらえる。

 そうして人々が努力してもなおその救いからこぼれ落ちるように死にかける子供が現れた時は、竜神殿の主が対応すれば良い。


「わたくし、魔力も神聖力ももたないと知られてしまうわね」


 よくできたシステムだと感心するアニエスの隣でリリがポツリとつぶやく。その言葉に驚いたアニエスは目を見開き幼馴染みを見た。


「魔力も神聖力も持たない人間は、なかなか聞いたことがないね…」

「そうよね? 今までは魔力ゼロの人が何人かいたから良かったけれど、そこに紛れられなくなったわ」


 白黒はっきりつけることで見えない場所で死にゆく子供を救う。その流れは良かったが、白黒はっきりつけるということは竜であるリリも誤魔化せないということになる。

 そうして見つめ合い黙り込むふたりのそばでマティアスが「あ」と声を漏らした。


「ちょっと試してみていい?」


 マティアスはふたりに問いかけた上で自分の手首につけていた魔法武具をはずした。その上でリリの左手をすくい上げて、その細い手首に魔法武具をつける。

 すると魔法武具の赤い石が淡く光り、連動するようにリリの左手中指についた指輪も淡く光った。


「マティアス、これはどういうことかしら?」

「リリの魔法武具と連動して結界を強める機能があるって説明にあったんだよ。リリの魔法武具って、リリの周囲を薄く包むように結界を張ってるでしょ? つまりそこは魔力の膜があるってことなんだけど、こうして連動して僕が溜め込んでた魔力を流すと微弱だけど結界に魔力が帯びて強化される。リリを包む膜が少し厚みを増す感じだね」

「それはすごいことね?」

「うん。そしてあの魔力量測定器って、あくまで魔力の量を調べるものだから、その身を包む魔力が誰のものなんてわからないと思う。たぶんきっと。僕の憶測だから自信はないけど、間違ってないならリリは誤魔化せるよ」


 この憶測が正しければリリが竜であると知られる可能性も無くせる。そう語るマティアスにリリはゆっくりと嬉しそうに微笑んだ。


「今のわたくしはマティアスに全身を包まれているのね」

「リリ、その言いかたは良くないよ」


 どこまでも嬉しそうなリリにマティアスは急速に顔を赤らめながら返す。だがリリは問題ないと言って聞かない。

 そのためアニエスは助け船を出すべくふたりに口を挟んだ。


「リリのその言葉は大問題だから、続きは高等部にあがってからやろうね」

「いやいやいやいや、アニエスそういうことじゃないよ。こういう過激なことは高等部でも駄目だよ」

「え? ああ、そうか。確かに私が間違えたね」


 注意がおかしいと慌てるマティアスに、アニエスは笑顔でその指摘を受け止めた。


「可愛いラピスラズリの頬を赤らめて許されるのはこの場で私だけだと言うのに、リリが可愛いからつい許してしまった。本当に申し訳なく思うよ」

「いやいやそれもそれで」

「ねぇ、私の愛しいラピスラズリ?」


 慌てふためくマティアスの手をすくい上げて、アニエスが緩やかな笑顔で呼びかける。とたんにどこかで黄色い声があがった。


「来年破まだ中等部だから私も最高の理性をもって手加減したいと思っているよ。だけど高等部に進んだならその理性を少しばかり捨てることを許して欲しい」

「それは許してはいけない気がするやつだよ!」

「ははは、本当に私のラピスラズリは可愛いね。だが私も毎夜のようにさえずる可愛い小鳥たちから、ラピスラズリに対してして欲しい行為を注文いただいていてね」


 楽しげなアニエスのその言葉に周囲がざわめき複数箇所から嬉しそうな女子たちの声が上がる。そのためマティアスは戸惑ったように周囲を見やりつつも問いかけずにはいられなかった。


「注文ってどういうことなの。女子寮でみんな何をしてるの?」

「私は可愛い小鳥たちの声を聞いているだけだよ。愛しいラピスラズリをこうして…」


 アゴをそっとすくい上げてマティアスの顔を少し上へ向けさせ、アニエス自身を見上げさせる。その体勢を取った途端に黄色い悲鳴があがり夢がかなったと叫ぶ声があがった。


 そこへ2年Sクラスの担任教諭がやってきて呆れた顔でアニエスたちを見た。


「アニエス・ディラン。成績が良すぎる問題児ほど厄介なものはないんだぞ」

「承知しました。ラピスラズリごっこは観客の少ない中庭などで行います」

「うん。まぁ、それをやるなとは言わないが、おまえさんは例の決闘騒ぎ以降の評価とか自覚したほうが良いぞ。あまりやり過ぎるとマティアスが照れ過ぎて窒息するからな」

「なるほど? 私が騎士として立った姿が人の心に残ったと。そしてその姿を今でも覚えている純粋無垢なラピスラズリがその思いに胸をつまらせてしまうんですね」

「おまえさんのそのミラクル解釈は面白い。けど間違ってないから手加減しような。あと、ここは、魔力量測定会場で、一応は試験の場だからな」


 遊び場ではないぞと担任教諭から念入りに告げられたアニエスは笑顔でうなずき謝罪した。そうして担任教諭が離れていくのを見送ったアニエスは、静かだったリリを見る。

 すると考え事をしていたらしいリリは、琥珀色の瞳で上目にアニエスやマティアスを見やった。


「わたくし、いま思い出したのだけど、今日は桃の新作ケーキが並ぶの。これが終わったら食堂に行かなければならないわ」


 アニエスの遊びなど聞き流してこの後に食べるスイーツのことを考えていた。そんなマイペースなリリにアニエスは笑顔で了承した。


「ケーキは3個までだからね」

「ええ、桃の新作はきっと甘いから木苺も食べたいわ」


 中等部で誰よりも優しく強い騎士であるアニエスはけっしてリリを砂糖菓子として扱わない。だがこの国の誰よりリリを理解して甘やかしてくれる人でもあった。





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