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砂糖菓子とラピスラズリ  作者: メモ帳
中等部1年
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4.ヒエラルキー最下層

「おい!貴様!!!」


 自分はは鈍足ではないと脳内否定しながら歩くリリの背後で強い言葉が飛ぶ。だがそれが己に向けられたものだと認識していないリリは外通路を歩きながら横を追い抜く生徒を見やる。


「おい!!!そこのチビ!!」


 3人の生徒に通り越され少し歩調を速めたところで肩をつかまれ足を止めさせられた。

 そうして振り返ったリリの視界に現れたのは、赤い髪の男子学生だった。だが真っ赤な顔で驚いたように目を見開いている理由は分からない。


「なんでしょう?」


 首をかしげながら問いかけたリリの目の前で男子学生は知能が死んだように口を動かしている。むしろこの赤い頭の輩が最初から知能を所有しているかどうかリリにはわからないけれど。


「きさま…名を名乗れ」


 随分と時間をかけて告げられたのはまるで幼児のような言葉で、リリはつい笑ってしまった。

 だがその柔らかな微笑みを前にした男はリリの脳内など知らないまま戸惑いを見せている。


「お初にお目にかかります。リリと申します」


 名乗ったところで覚えられるだろうかと思いながら簡略的な挨拶を向ければ周囲で何人か立ち止まる。

 そのためリリは内心で簡略過ぎたかと考えてしまう。徹底的に格差をなくしたこの学園内に序列はないので、同学年であればお辞儀はいらないはずだ。


 そう思いながら赤い髪の男子学生を見あげていたが何も言わないので、ペコリと頭を下げるだけの本当に簡単なお辞儀をしてその場を立ち去った。


 もちろんリリは知らない。

 その外通路での出来事を目撃した男子学生たちを中心にリリが敬愛の対象とされていくことに。

 背中にふわりと揺れる細く明るい琥珀色の髪とけぶる長いまつ毛に隠されたきらめく瞳。華奢な体格もさることながら、透き通るような白磁の肌は竜王国では珍しい。

 学年で最も小柄で可憐な少女はどんな相手も上目に見つめる。最小限の所作だからそうなるのだろう上目遣いは愛らしく、歩く姿も慎ましくゆったりとしていて庇護欲をそそる。


 そうして入学早々に同学年でリリを知らない者がいないほどになっていた。



 だがそうして話しかける誰もが魔力を持たないリリの名を呼ばない。

 そのため何度か声をかけられた際には質問を向けてみた。


「どうして名前で呼んでくださらないのです?」


 首をかしげて問いかけた先で赤い髪の男子学生がいつものように赤い顔で、餌を求める魚のように口を動かす。

 そうして戸惑いを見せた後に赤い顔のまま言う。


「己より格下の者の名を呼ぶ上位貴族などいない。おれは侯爵家の者として顔も知らず魔力もないおまえを庶民として扱っている。それでもこうして口を利いてやるだけ感謝しろ!」


 なるほど。意味がわからない。格差や序列を徹底して排除したとしても愚か者の脳内からそれを消すことは不可能なのだろうか。

 だとしたらこの男は異国に行った場合にその土地の法律など対応できるのだろうか。いや無理だ。


「ありがとうございます」


 とりあえず疑念解消したことへの礼を、小さなお辞儀と共に返してクラスへ戻る。

 あの赤い髪はそもそも暫定のクラスが違う。教室の場所も隣の隣とのことなので学力も相応なのだ。




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