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砂糖菓子とラピスラズリ  作者: メモ帳
中等部2年
53/74

51.アドリエンヌお姉様の婚約と馬の骨

 風の月が終わると春の訪れとなる白の月へ入る。昨年のリリは5人のお姉様がたと共に花祭りへ行き、たくさんの贈り物をもらい甘やかされながらその年の花を贈った。

 そのため当然だが今年もリリはお姉様5人と花祭りを巡れると思っていたのだ。だがその誘いはやんわりと断られてしまう。そのため花祭りの日は学園の図書室でマティアスと勉強をしながら過ごした。


 そうして王の月に突入すると次は月末試験が待っている。なので昼休憩に入ったリリは、中庭でアニエスを待ちながら、マティアスへ試験勉強にかこつけて高等部のお姉様がたへ甘えに行こうかと提案していた。

 そんなしたリリたちの元へオレリアがやってくる。そのため花祭りのことを話したところ、オレリアから恐ろしい言葉を投げつけられた。


「アドリエンヌさんもアナベルさんも婚約者が決まったから、花祭りはその人と行ったんでしょ」

「それはおかしいわ。婚約者を名乗る有象無象などよりわたくしのほうがお姉様がたを愛しているのに」

「うんうん、そろそろそれに慣れてきたわ。だからはっきり言うけど花祭りって恋愛イベントだから」

「そうだと言うなら、なおのことわたくしを甘やかすべきよね」

「なんでそんなふざけたことを真剣に言えるのかわからないけど面白いから良いわ」


 リリの発言は貴族としてはありえないし、ふざけが過ぎる。だが慣れて面白さすら感じ始めたオレリアは問題ないと言う。

 そんなオレリアにマティアスが質問を向けた。


「アドリエンヌさんの婚約者って、やっぱりアンベール家の?」


 序列的にそのくらいだよねと首を傾げて問うマティアスにオレリアもうなずきつつ順当よと返す。

 そこでリリが愁眉を歪ませたままオレリアとマティアスに問いかける。


「そのアンベール家はどこの馬の骨なのかしら」

「とこの馬の骨でもなく侯爵家よ」

「この国の侯爵家は古い順に序列が決まってて、アドリエンヌさんのオーブリー家が一番歴史が古いから筆頭侯爵家なんだよ。その序列でアンベール家は4位だよ」

「筆頭が4位と婚姻を結ぶ意味はあるのかしら」

「うーん王妃候補だった間に成人した方々は相手を見つけておられるし、アンベール家のオリヴィエさんより上がいないんだよ。ああでも、オリヴィエさんご自身もとても優秀な方だから相応しくないということはない…んだよ」


 微妙に言葉を濁してマティアスが言う。その不可解な態度にリリは首を傾げた。


「マティアス? あなたもその馬の骨になにか思うことはあるみたいね?」

「うん…まぁ」

「泣き虫マティアスはアンベール家のオリヴィエによく泣かされていたのよ」


 マティアスが濁そうとした部分をオレリアがあっさりと言い放った。

 するとそれを聞いたリリの琥珀色の瞳が静かに見開かれる。


「わたくしの子犬をいじめていた愚物が、今もなお生きてこの国の平和を甘受しているの? それはおかしい話じゃないかしら」

「いやいや、リリ。小さい頃の話だよ」


 静かに怒るリリに照れ笑いをしたマティアスが今はもう大丈夫だからと機嫌を取りにいく。

 そのそばでオレリアも同意を示すようにうなずいた。


「オリヴィエは高等部1年だから泣き虫マティアスと顔を合わせる機会がないものね。でも、そもそもオリヴィエがマティアスを泣かしてたのって八つ当たりじゃなかった?」

「えっ? そうなの? なんの?」


 不意に己が嫌がらせさせれていた原因を知ったマティアスは驚きのまま問い返す。するとオレリアは腰に手を当ててため息を吐き出す。


「これは砂糖菓子も理解できると思うけど、マティアスの兄と姉はかなり優秀よね」

「ええ、わかるわ。もちろんマティアスの懸命さと努力家なところは上のふたりとよく似てるけど」


 同意しながらもマティアスを褒めることも忘れない。そんなリリの姿勢はオレリアも認めるところだった。

 ただリリがそれを向ける相手がごく限られているらしいことも最近わかってきている。そしてその限られた部分が狭すぎるからいけないのだということも。


「ベルナール・ローランは9つの侯爵家すべてが認める神童よ。それは年齢問わずみんな認めてるわね。侯爵家の子供の中で年長はデュフール家の長男ユルリーシュ様だけどその方もベルナールさんは別格って認めてるくらいだもの。あ、もちろんこのユルリーシュ様はアナベル様の兄って感じの優秀な方なのよ」

「ではデュフール侯爵家は頭脳明晰な一族と認識しても良いのかしら」

「そうね。学者筋というか…デュフール侯爵自身も海洋資源について調べておられたり、皆さん何らかの形で国に貢献してるわね。そこは侯爵家序列2位に相応しいって感じで」

「そういう家の方が認めたのならベルナールが優秀であることは揺るぎない評価になるわね。そして愚かな馬の骨は称賛を浴びるベルナールに嫉妬してわたくしの可愛い子犬に八つ当たりをしたと……死んだらいいのに」

「リリ! これは子供の頃の話だよ!」


 久しぶりに出た物騒な言葉にマティアスは照れながらも止めに入った。とたんに甘い外見の砂糖菓子は頬を膨らませて上目にマティアスを見つめてくる。

 ますます甘くなるその外見に顔を赤らめながらマティアスは大丈夫だよと繰り返す。


「もう何年も会ってないけど、さすがにもう性格も落ち着いたと思うよ。だって彼は未来のアンベール侯爵なんだから」


 どんな問題児も、未来の侯爵としての自覚が芽生えれば性格が落ち着いていくものだろう。そう思うまま告げるマティアスにリリは形ばかりとうなずいて返した。


「でもそんな馬の骨に、この国で最高の令嬢であるお姉様のお相手が務まるのかしら? 他に相応しい馬の骨はいらっしゃらないの?」

「そうなると年齢的にベルナールさんか泣き虫マティアスになるのよね。むしろ本来なら序列3位のローラン侯爵家に婚約の話が行ってたと思うのよ。でもたぶんベルナールさんは断っちゃったんだと思うわ」


 だからその下のアンベール侯爵家へ話が行ったのだろう。その流れは一見するとアンベール侯爵家に失礼な話にも見えるが、それが政略というものだ。


「ても、ベルナールはアドリエンヌお姉様の何が気に入らなくて断ったのかしら? どうせなら優秀な馬の骨のほうが良かったのに」

「ん??」


 リリから出た素朴な疑問にオレリアが目を瞬かせた。そうしてリリとマティアスを見やった後に周囲を見る。

 今は昼休憩中だがここにアニエスはいない。なぜなら中等部3年の教師に頼まれて午前中はダンスレッスンに参加しているためだ。

 帝国騎士団にいて近衛の上級騎士であるアニエスは、当然だが各国のダンスもマスターしている。そのため最近何度か不慣れな令嬢たちのため男性パートで参加しているらしい。


「ベルナールさんって、アニエスのこと気に入ってると思う」

「それは新たなラピスラズリ問題かしら」

「うーん、そういう恋愛ごっこではないかな。たぶんベルナールさんの頭の中は神聖魔法っていう未知の魔法に支配されてるんだよ。ベルナールさんってそういうとこあるよね」

「うん。知りたいことがあると他のことを忘れてしまうとか、昔からあるよ。なんならそのせいで僕と約束した釣りの予定も忘れて勉強してた…なんてことも何度かあるくらい」

「そして社交目的で集まってるはずのお茶会では、オリヴィエに話しかけられても無理し続けたあげく読書の邪魔とまで言っちゃうという」


 社交性がかなりおかしいよねとオレリアはマティアスと慣れた様子で会話する。

 だがベルナール相手で会話など苦労したことのないリリは首を傾げた。リリにとってベルナールは初対面の時から適切な知識を与えてくれる便利な存在だ。そしてなにより戦闘実習においてはリリの存在を大人たちに隠してくれた恩人でもある。

 そんな気遣いができる人が、社交場で誰かを無下にするとは考えにくい。


 そんな話をしていると中等部の庭園に話題の主がやってきた。

 ベルナール・ローランは春を飾る黄色の花びらよりも淡い金色の髪を、邪魔だという理由で短く刈ってしまう合理性の人だ。あげる春の空のような明るい瞳も表情の乏しさから周囲に冷たく感じさせる。

 そんなベルナールは紙袋を手にリリたちの元へ近づくなり周囲を見た。


「アニエスはどうした?」

「兄さん、アニエスは午前中ダンスレッスンだったんだよ。だからここで待ち合わせて…」


 説明していたマティアスは兄の眉間にシワが寄ったことで言葉を途切らせた。


「もしかしてまた何か問題が起きたとか…? シオンさんが倒れて神聖魔法が必要になったとか」

「なぜアニエス・ディランだけがダンスレッスンに参加している? あれは中等部3年だけが参加するものだろう」

「ああ、うん。アニエスは近衛騎士で各国のダンスにも精通してるからね。当然竜王国のダンスも知ってるからって男性パートで対応してくれてるんだよ。3年生のご令嬢たちからも、下手な男子と踊るより練習しやすいって評判が」

「つまり、不慣れな男子生徒の代わりに女子生徒たちの相手をしているのか」

「他に頼まれる理由がないと思うけど…?」


 兄が顔をしかめた理由がわからないマティアスは首を傾げる。そしてリリも「眉間のシワが酷い」と直接指摘してはベルナールに眉間を押さえさせる。

 そしてそんな彼らの反応を、オレリアは遠くを見るような目で眺めていた。


 そんな場に走り戻ってきたアニエスは、中庭を走りながらも周囲の令嬢たちに手を振られそれに振り返す。今となっては聞き慣れた歓声や黄色い声をわき起こしてやってきたアニエスは爽やかな笑顔でベルナールに挨拶を向けた。


「こんにちは、ベルナール卿。私のラピスラズリを愛でにいらしたんですか?」


 周りの女子たちに騒がれようと役割を忘れないアニエスの言葉にベルナールは首を横に振りながら紙袋を差し出す。


「例の試作品だ。今度は生地を柔らかくさせて、中にクリームを入れてみた」

「ありがとうございます。最近のベルナール卿は地味にこちら方面の開発にハマっておられるようですね。楽しいですか?」


 紙袋を受け取ったアニエスは笑顔のまま問いかける。そしてベルナールも材料の組み合わせが実験に似ていると独自の感想を述べていた。

 そんなふたりの脇に立つリリは無言で紙袋を奪うと袋を開けてひとつ取り出す。


「前回よりふわふわしているわ!」

「今回はパン生地よりケーキ生地に近くした。中に入れるのがクリームならデザートに近づけたほうが良いと考えた結果だ」

「リリ、それは私がいただいたものだから少しは残してくれると嬉しいよ。あとオレリア嬢にも分けてあげようね」

「わかったわ。餌付けは大切だものね」


 奪われてしまったアニエスだが取り返すこともせず文句も向けず、忠告だけ向ける。そしてリリもそれを素直に聞いてマティアスやオレリアと共に食べる。

 そしてこれはもはや携帯できるケーキではと素直な感想を出し合っていた。


 その様子を真顔で眺めていたベルナールはふと視線を感じてそばにいるアニエスを見やる。


「どうした」

「先日の話し合いの中で、ベルナール卿はオリヴィエという方と浅からぬ仲だと聞きました。その」

「オリヴィエ・アンベールとの関係はかなり浅い。会話もまともにしていない。君があんなものに興味を持つ必要はないし、関わらせたいとも思わない」

「ですがオリヴィエという方はベルナール卿に特別な想いがあるのだと、自分は認識しています。だからあの話し合いにも現れなかったのだろうと」

「君は何が言いたい」


 オリヴィエ・アンベールの名前が出た瞬間からベルナールの表情は厳しいものになっている。だがその理由を指摘することなくアニエスは真剣な顔でベルナールを見つめる。


「あらゆる危険を排除しようとするならば、侯爵家すべての方の協力が必要ではと私は考えます。ベルナール卿はどう思われますか」

「先日の話し合いで君も知ったはずだ。この国のすべての人間が異国出身の他人に寛容と言うわけではない。エメーリエ・ルヴランシュが良い例だ。彼女は感情に支配され過ぎて君を尊重しない。そして似たような人間は他に何人もいる。オリヴィエ・アンベールもそのひとりだ」

「つまり異国の騎士である私の話は聞いてもらえないと」

「君が気にかけてやるような価値もない」

「ベルナール卿のその意見は感情に支配されていませんか」


 アニエスはまっすぐにベルナールを見つめたまま問いかける。そしてその目を見つめ返したベルナールは、一瞬の間を開けて視線を背けるように目を落とした。アニエスその深い黒曜の瞳は見る者の心ごと吸い込み捕らえるような魅力がある。たがその魅力は外見の良さではなく、アニエス自身の誠実さにあった。


「……おれが感情に支配される、理由がない」

「だから私は最初から確認しようとしています。ベルナール卿はオリヴィエ・アンベールという方と浅からぬ関係なのでしょう」

「十年も前に少し話をしただけだ」

「しかし先方は今もなおベルナール卿に思うものがあるから、我々の話に応じてくださらないのでしょう。十年もベルナール卿を想い続けてきた方を無下にするのはいかがなものかと思いますが」

「つまり君は、オリヴィエ・アンベールとどうしても話がしたいということか」

「ええ、薬物混入事件の被疑者が狙っている可能性がありますから。私は近衛ですが、騎士として事件を未然に防ぐ義務もあります。もちろんここは母国ではありませんから、本来なら義務も義理もありませんが」

「だったら捨て置いて良い。世の中には痛い思いをしなければ学べない愚か者がいる。それに今の君はこの学園の留学生だ。騎士として不必要に動いてやることはない」

「ベルナール卿、人を守ることに不必要なことはありません」


 言い合うふたりの姿を見つけた中等部の生徒たちが中庭に集まってくる。

 そのためマティアスはそろそろ止めようとリリに話すが、彼女は何も言わず近くのベンチに座ってしまった。

 そのためマティアスはどうすれば良いかわからずオレリアに小声で問いかける。するとこちらからは意味のわからない言葉で返される。

 言い争うふたりを眺めながらオレリアは言うのだ。おまえは馬に蹴られて死にたいのかと。


「ベルナール卿は過去に因縁のある方と関わりたくないと思われるのかもしれません。人は誰しも苦手な方というのがおりますし、ベルナール卿は少々社交性を苦手としているので。ですが」

「おれとオリヴィエ・アンベールの間に因縁なんてものはない」

「だとしたら私がその方とお会いしても、ベルナール卿としては問題ないということですね?」

「無理だ。それは認められない」

「なぜです? その方とベルナール卿は何の関係もないんですよね?」

「君が他の輩と会うことを黙って見逃せないから言っている」

「……なるほど?」


 唐突に理解できない文言が出てアニエスの思考が停止した。しかもそんなアニエスの目の前でベルナールは苦々しくしかめた顔を横に向けている。

 しばらく考えたアニエスは、答えにたどり着いたことで手を叩いた。


「理解しました。確かに、異国の騎士である私が個人的に他の侯爵家の方々と接するのは別の問題を生みそうですね。先月の決闘もギリギリで内政干渉に抵触しかけていたよと、母国の宰相から注意の手紙をもらっていますし。新たな問題に繋がることは避けるべきたと、ベルナール卿も考えてくださったと」

「……いや、そういうわけじゃない」

「ですが大丈夫ですよ! 私が高等部へ行く時は必ず誰かしら事情を知る方にご協力いただきますから。ああでも、先日春祭りにちなんだ花束をアドリエンヌ嬢に差し上げたら微妙な顔をされてしまっていました。その挽回もする必要もありますね」

「わかった! わかった。おれが手を貸すからアドリエンヌ・オーブリーへ勝手に贈り物をするのもやめてくれ。まず彼女は最近婚約者が決まったところだ。この次期に花束は良くない」

「ええっ、私としたことが…とんでもない失態ですね」

「理解したな? それなら今後、高等部へ来る時はおれを呼んでくれ。フランク・デュフールやダニエル・ヴァセランも頼らないようにして欲しい」

「了解です。あ、でもダニエル卿と言えばお肉を食べさせてくれると」

「それもおれが食わせるから、その辺りに近づくのは避けて欲しい。ダニエルにも婚約者がいるからな」

「なるほど? 婚約者がいる方と私が近づくと問題が起きると」

「君自身がラピスラズリ扱いをされかねないからな。わかったらおれ抜きで異性と会わないでくれ」

「わかりました。私はラピスラズリを口説く側であって口説かれたくはないですからね。ああでもベルナール卿を口説くのは許されますか?」


 アニエスはここまでも今もにこやかな笑顔のまま言葉を交わしている。だがベルナールのほうはもう普段見せる冷静さを完全に失っていた。

 現にベルナールは口説かれると言われて素直に困惑の色を見せている。


「おれは…ラピスラズリではないが」

「そうなんですけど、マティアス君に対してやりすぎるとリリに叱られますし。ベルナール卿に対して尊敬も憧れも持っているのは事実なので良いかなと」

「尊敬」

「はい。以前も言ったか忘れましたが、私はベルナール卿のことをわりと強めに気に入っていますよ。強いところも聡明なところも、それに押しに弱くて可愛らしいところも」

「そう…いや、おれは押しに弱くないし可愛くもない。しかし話はこれだけだ。おれは高等部に戻るから、君は真面目に中等部で勉学に励んでくれ」


 挙動不審なほど早口に言い放ったベルナールは挨拶もそこそこに中庭を去ってしまう。それを見送ったアニエスは不思議そうな顔でマティアスを見た。


「最近のベルナール卿、少しおかしいですよね」

「そうだね。僕は馬に蹴られて死ぬって意味がわかった気がするよ。それとオリヴィエ・アンベールなんだけど、アニエスは女の子だと思ってない?」

「ベルナール卿のことを十年も想い続けている一途なご令嬢だと思ってます」

「うん、途中でそんな気がしてた。でもオリヴィエは高等部1年の男子生徒で、アドリエンヌ様の婚約者なんだよ」


 マティアスのその言葉に今度こそアニエスの思考が停止した。


「ご令嬢では、なかった……?」

「うん。さっきの兄上じゃないけど、親しくないというか親しくなるのが難しい部類の男子だよ。姉上の言葉を借りるなら『娘ふたりの後で生まれた待望の跡取りだからと甘やかし過ぎた代表例』だって」

「なる…ほど。そのような方だから、己こそ頂点だと思い込みベルナール卿にいろいろと…」

「茶会で兄上が読んでた本を奪って池に投げ捨てるとか。他にも兄上にお茶をぶっかけるとか。このお茶に関しては冷めていたけど淹れたてなら火傷してたからって父もいろいろ言ったらしいよ」

「それは親しくなれないですね」

「兄上が称賛されることが許せないタイプの人だからね。しかも何をしても勝てないし。僕もそんな兄上の弟と言う理由でいろいろされてきたから、正直に言うと得意じゃないよ。でも大人になれば性格も変わるだろうから、そこを考慮されてアドリエンヌさんの婚約者になったのかなって」

「そういうことなんですね。だからベルナール卿も私のことを心配してくださったのでしょうか」


 それはそれで不甲斐ない話だけどもと言うアニエスは、確実にベルナールの本心に気づいていない。アニエスもまた騎士として優秀でも己の事には鈍感と言うことなのだろう。

 そう思いながらひとまずはとマティアスは食堂に行くことを提案した。いつまでも中庭で話していたところで昼食は食べられないのだ。




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