15.高等部学生の判断
戦闘実習に参加したのは高等部騎士科の生徒がほとんどだった。彼らは騎士科に進むと同時に騎士見習いとして扱われる。
そのため今回のような戦闘実習は、彼らの実戦経験を積ませると同時に統率の取れる人材を見つける意図もあった。
なので実のところ魔物をどれほど駆除できるかなどの成果は重視されない。
そして今年の戦闘実習において騎士科の生徒たちは、統率を取れる人間の重要性を強く実感した。
普段の学生生活において騎士科の生徒たちが重視するのは己の実力だけだ。訓練を積み身体を鍛えて腕を磨き、模擬試合で相手に勝つことでそれを誇示する。
人より強ければそれだけで敬意を集められるのが騎士科という世界である。学力よりも筋肉を大事にするのは当然のことだった。
しかしだからこそ鳥が警戒した時に出るようなあの声がなんなのか騎士科の生徒にはわからなかった。
そして混乱のまま魔物対応をしていた彼らの前に、鳥型の巨大な魔物を踏み潰すように現れた深い青色の髪の持ち主の正体も。
けれどどれほど混乱し我を失っていても、その色に命じられれば反応するのが竜王国民である。
彼女から退避せよと言われたならそれに従う以外に考えない。
そして至宝の色彩を持つ彼女を守るためだというのなら、いけ好かないSクラスのベルナール・ローランからの提案を聞く以外の選択もない。
そのため承諾した騎士科の生徒を前に、真面目さしかないはずのその男は初めて笑みを見せた。
「君たちの理解に感謝する」
ベルナール・ローランは中等部からSクラスにいる優等生だ。だというのに頭だけでなく顔も良いから女子生徒にモテる。
中等部では3年間ずっとベルナールだけが女子の視線を集めていた。
だというのにこの男は剣術でも騎士科に入れるレベルの強さなのだからいけ好かない。
だというのに感謝された瞬間、騎士科の生徒たちはベルナール・ローランなら認めていいと思ってしまった。
負傷した男子生徒たちは森の外に運ばれると、後方支援の中でも残っていた治癒魔法の精鋭たちから手当てを受ける。
そうして手当てをされながら、高等部女子の中でも特に治癒能力の強い者だけが残った理由を知らされた。
今回の戦闘実習に見学者として参加したのは中等部1年の2人だけ。
そのひとりで砂糖菓子のように愛らしい少女だけが、その場で砂竜について知っていた。さらにその凶暴性から瀕死の傷を負う者も現れるだろうから、危険を承知で治癒の得意な者たちには残ってほしいと頭を下げた。
その話を聞いた男子学生は混乱する。自分が見たのは確実に人間ではなかった。
この世にあれほど深い青の髪と瞳を持つ人間はいない。むしろその色彩を持てるのはこの世界で唯一。竜の中の王と呼ばれる最強種だけだ。
「すまない。今みなで話し合ってきたんだが、君たち負傷した組も後方支援組も協力してほしい」
そこに駆け寄った高等部の仲間が膝をついて周囲の学生に声をかける。
中等部から女子の中で美形と称され、今もその気になればいくらでも浮き名を流すことのできる男。
だというのに女子から褒められる明るい金髪を短く刈って、笑えば何より端正とささやかれる顔を真面目さで塗り固めている。
そんなローラン侯爵家の長男、ベルナールだ。
「森の中で彼女を見た者は思うこともあるだろう。だが素性を隠して今まで中等部にいた彼女は、今後も普通の学生として過ごしたいはずだ。そして通称を許している学園側はすべて把握しながら黙認してきたとも考えられる。だから俺たちも学園にならって彼女のことを隠したい」
遠回しな言い方ではあるが、彼が隠したいのはあの少女の森の中での姿だろう。その色彩を彼女が持つことを、その名前や正体ごと隠したい。
「つまり彼女の活躍ごと隠すんだな」
「ああ、それは彼女が出したい時に出せばいい。その時になったら、俺たちも堂々と彼女へ感謝を向ける。それが良策だと考えている」
ベルナール・ローランの語る良策。それはこの国の未来を隠し立てて閉ざすようなものだった。むしろそんなものは貴族の男子なら絶対に賛成しない話だろう。
なにせ彼女はこの国の未来を変える至宝。なのに今はまだ学園幹部以外のどんな高位貴族すら知らない秘められた宝だ。
そんな彼女に近づき心を開かせ婚約などできたなら、一族の繁栄は約束されたようなものだった。
むしろその気もない王の相手候補として縛られる女子もいなくなるので誰もが幸せになれる話だろう。
だがここで負傷した彼らは貴族である前に騎士科の生徒だった。
「そうか。そうだな。おれも思うよ」
「ありがとう」
「だがそうなると、あの森の中で教師陣より何より先に彼女を見つけないといけないな」
「そうなんだ。だからつらいだろうが、傷が癒えた者は捜索に参加してほしい。今この場であの子を保護できるのは俺たちだけだから」
ベルナールの言葉にそんなことは容易いことだと周囲の学生たちが声をそろえた。
この国の至宝であることを隠したとしても、自分たちにとっての恩人であることに代わりはない。
それになにより小さく可愛い砂糖菓子を守り助けようと思わない騎士などいない。
治癒を受けながらも痛みを隠して笑い、なお快く協力に同意してくれる。そんな級友たちに礼を言ってベルナールは立ち上がった。
そうして疲労した身体に鞭打って捜索に加わるべく走り出す。
そうしてふと既に森の中にいるだろう弟を思った。
「マティアスも無茶をしなければいいが…」




