137. ヴァセラン侯爵家は騎士の家系
モーリス・ヴァセランは空に魅入られた男である。
ヴァセラン侯爵家の次男として生まれた彼は、幼い頃から丈夫さを褒められる子だった。寒い中を走り回っても病にかからず転んでも怪我をしない。
その頑丈さは『騎士の家系』であるヴァセラン侯爵家にとって最も重要な才能だ。そのため両親は長男ではなく次男のモーリスを次の侯爵にと考えていた。
だがそれはモーリスにとってどうでも良い話だった。モーリスは年の離れた兄と仲が良く、兄に連れられ何度も王城へ見学に行った。
そうして兄はヴァセラン侯爵家の子として重要なことを教えてくれる。
竜王国の歴史の中で『騎士の家系』としてヴァセラン侯爵家が誕生したのは、当時の王国に規律が無かったためだ。
アンベールはその圧倒的力であらゆる外敵から王国を守った。だがそこに集まった人間たちは、その力だけを重視する。だがそれで出来上がるのは蛮族の集団だ。
だからヴァセラン侯爵家は騎士らしくあらねばならない。
モーリスの兄は聡明で優しく、騎士の模範のような人だった。だが次男のモーリスには兄の言葉の重要性が理解できない。
騎士の規律だのなんだのは兄がやれば良い。それよりなにより子供だったモーリスの心を支配していたのは、竜王国最強と謳われる竜騎士だった。
戦神の羽をその身に宿したと噂されるグレイロード王国の公爵令嬢アリシア・ブレストン。彼女は竜王国史上初の女性騎士であり、同時に史上初の女性竜騎士でもあった。
明るい金色の髪をなびかせた彼女は、まるで馬を駆るような気軽さで騎竜で飛ぶ。そしてそんな彼女の圧倒的な力から放たれる槍は岩を砕き、山をえぐるという。
モーリスはそんな女性竜騎士の姿を見たことがない。
なぜなら彼女は、モーリスが幼児だった頃に騎士を辞めてしまっているからだ。そして彼女が騎士を辞めた理由は、竜王国民なら誰もが知っている。
人の腹から生まれた竜であるカイン様を守るためにアリシアは単騎で闇竜と戦い打ち倒した。だが奇跡のようなその成果と引き換えに、彼女の相棒である騎竜は闇竜から受けた傷により死んでしまった。
そしてアリシア・ブレストンは、他の竜騎士と同様に相棒を失った喪失感により飛べなくなったのだ。
竜騎士にとって騎竜は家族や恋人よりも大切な存在であるという。だからこそ相棒を失った竜騎士の多くは、新たな騎竜を探すことができない。
だからモーリスは見学先の騎士たちが語るアリシア・ブレストンしか知らない。それでも彼は彼女の飛んだ空に魅入られた。
優しい兄が馬車の事故から子供を庇って亡くなり、モーリスが侯爵家を継ぐことになってもそれは変わらない。
王立学園高等部で相棒たる騎竜と出会ってからは一層それが酷くなった。そしてそれは騎士団の蒼の部隊に配属されても変わらない。
モーリスにとって重要なのは相棒と飛ぶことだけだった。
「恐ろしいのはそのような無能であっても管理職につける血統主義でしょうか」
そんなモーリス・ヴァセランの世界を破壊したのは鮮やかな白金色の髪と淡い青の瞳だった。
むしろ彼はあの王立学園での話し合いの場にいた時から異質だったのだ。
彼はあの『水竜殺し』ギルグラン・アンベールのような色彩を持ちながら、なぜかマルセル・アンベールからはアルマンと呼ばれていた。
アルマン・アンベールとはまったく似ていないのに。
そしてその異様な状況がモーリスには理解できなかった。モーリスの目に映る彼はマルセルともアルマンとも違う。
15年前に亡くなった先々代のアンベール侯爵ギルグランそのものだ。
王立学園での話し合い以降、モーリスは理解したいためだけに毎朝第二部隊長の元を訪れた。そもそもギルグランの色彩を持つ彼が第二部隊にいる理由がわからないためだ。
そんなモーリスに彼が突き付けた言葉は「無能」だった。
そしてその言葉はモーリスの何かを破壊した。それ以降、モーリスは竜王国騎士団の規律を隅から隅まで読み解いて頭に刻み込むことをしている。
子供の頃からモーリスは、「兄のように聡明ではないから」と理由を付けて学ぶことから逃げた。それは自分だけが親に褒められ、次期侯爵などと言われたくなかったからだ。モーリスは自分が上に立つ人間でないことを知っていた。王立学園に入った時も、兄の下で騎士をする人生を選んでいる。
だが己の兄を無表情で破滅させた彼は、きっとそんなモーリスを許さない。兄を想う弟の気持ちは、侯爵の中でならモーリスが最も知っている。だから彼が長兄を見捨てるに至る痛みもわかる。
そしてだからこそ、そんな彼に二度とそんな思いをさせたくないと思った。
白の月10日の午後、竜王陛下代理の命により騎士団長ディディエ・ボーモンを筆頭に第一部隊の隊長4人を騎士団内の地下一階会議室へ呼び出す。
その上でモーリスは、初めて副団長として騎士に命じた。『独房にいる男』を引きずり出して会議室に連行するようにと。
そこまでの準備を経て、さらに竜王陛下代理の署名がついた書類の挟まれた革製の書類挟みを手に会議室に向かった。
王城地下一階の会議室は前日のうちにテーブル類はすべて撤去されている。そのため会議室内にいた6人全員が立っていた。
モーリスはその中のひとりで、入口近くにいた第二部隊長の元に近づく。
「テオバルト君、すまない。遅れたか?」
「いいえ。副団長殿は時間通りです」
「どういうことだ!」
第二部隊長のその言葉に、ここで長く待たされたのだろう騎士団長ディディエ・ボーモンが床を踏み鳴らした。だが木製の床を踏みしめる音はモーリスを驚かせるものではない。
「我々に時間を早く告げていたということか?」
「副団長はともかく、第二は平民のくせに無礼じゃないか」
騎士団長に倣うように第一部隊の隊長ふたりが言葉を並べる。
そしてモーリスは既に彼らの名前も把握していた。
第一部隊一班のドミニク・モンレイユと二班のエミール・シャルモンだ。
第一部隊は4つの所属があり、一班から四班で職務内容と管轄が違う。だが俸給の都合上、彼らは隊長という肩書を持っている。
そしてそれら人事はすべて騎士団長が握っていた。
「騎士団長ディディエ・ボーモン。貴殿はマルセル・アンベールから依頼され、不当に部下である第二部隊長を処分した。異議はあるか?」
「モーリスどうした? 副団長という立場も名誉職なら引き受けると言っていたじゃないか。それに、異議も何もそこに何の問題がある?」
「問題しかない」
モーリスのいつもと違う雰囲気に何かを察したらしい騎士団長ディディエは、急速に態度を軟化させてきた。だがモーリスはいつも見せる親近感を欠片も見せずに言い返す。
「あの事案は『ローラン侯爵家次男の殺人未遂事件』だ。9つの侯爵家が協議すべき事案の捜査に関して、貴殿は加害者側の依頼を受け担当騎士を不当に扱った。これは利益供与に該当する」
「待ってくれ、モーリス! おまえらしくない」
「ディディエ・ボーモン。騎士団長であり伯爵という地位にありながら、9つの侯爵家すべてに害を与えた自覚はあるか」
爵位を口にされた騎士団長ディディエはそこに至ってやっと顔色を蒼白にさせた。
「そんな、第二部隊長ごときのことで……」
「第一部隊の隊長4名のうち、この事を知っていた者は挙手せよ」
騎士団長ディディエのつぶやきを無視したモーリスは、次の質問を残る4人に向ける。だが4人は顔を見合わせるだけで誰も手を挙げなかった。
「そうか。だが今回のことに関与していなかったとしても、一班と二班は別件で処分が下される。どちらにしても結果は同じだが」
「待ってください! 我々は何もしていません!」
「そうです! なぜこんな暴挙をされるのですか」
モーリスの言い分が理解できない隊長ふたりが慌てて声を上げた。そこへ扉が叩かれ、第二部隊の騎士らによって独房から男が運ばれてくる。
第二部隊の騎士たちは会議室内の事態よりも、その場にいた白金色の隊長の姿に目を奪われる。彼らにとって隊長は尊敬する上司だが、同時になかなか目にできない妖精のような存在でもあったからだ。
しかし部下からレアな何か扱いをされていると知らないテオバルトは、両腕を縛られ床に座らされるソレを一瞥しつつ白い手袋を装着する。
「ここは己の城だと誤解している愚か者どものために場所を変えましょう。副団長殿、高い場所は大丈夫ですか」
「誰に聞いてるんだ」
テオバルトの問いかけにモーリスはつい笑ってしまう。なにせモーリスは蒼の部隊を率いる隊長で、自身も騎竜を駆る竜騎士なのだ。
毎日のように高く広い空を飛んでいる。
そんなモーリスの言葉にうなずいて返したテオバルトが手を向けた瞬間に、会議室の壁一面が破壊された。だが砕けた瓦礫は海面に落ちることなく、見えない床の上に転がっている。
しかし何より壁一面がなくなったことで現れた絶景にモーリスは目を奪われる。王都上層から飛び立ったとしても、高度が高すぎ海面からの上昇気流に阻まれて海側へ飛ぶことは不可能に近い。だから竜騎士は訓練では必ず山側へ向かって飛ぶ。
そのため王城地下一階という高層から陽にきらめく海を見る機会など滅多にない。
そうしてモーリスだけでなく皆が目を奪われるうちに、騎士団長らはどこからか伸びた植物に絡め取られて絶景の中に放り投げられた。
転落死する恐怖に絶叫する騎士団長たちをよそに、テオバルトは真顔で見えない床を踏み外に出る。
そうして流れる風に青いマントをなびかせた彼は、《風の壁》を敷き詰めた空を歩き進んで5人に近づいた。その上で淡い青色の瞳で5人を見下ろしながら、植物に絡まれ引きずられるもうひとりに目を向ける。
それは王城内の一部しか知らない存在で、皆それを独房の男と呼ぶ。だが薄汚れヒゲを生やしたその男を騎士団長ディディエは確実に知っていた。
「なん……なぜ」
「この男には殺人容疑だけでなく、犯罪組織と繋がり薬物を横流しした疑惑もある。そしてディディエ・ボーモン。貴様はこの犯罪者と共謀して竜王国及び竜王国騎士団へどれほどの損害をもたらしたのか。その地位を鑑みればもはや貴様の行為は国家反逆罪として扱われて然るべき…」
「テオバルト!」
第二部隊長として罪状を並べるテオバルトの言葉を独房の男が遮った。
「わたしはアンベール侯爵だぞ! 罪状だのを並べる前にまず侯爵として扱え!」
「既に爵位剥奪は完了している。この世にアンベールの人間は俺しかいない。貴様が兄たちを殺したからだ」
風を圧縮して作った透明の床の上、流れる風に吹かれた広い世界でその男は絶句したように固まった。
「アルマン兄上は貴様が殺した。そしてガスパール兄上は、義務を果たさず犯罪組織を放置した無能な騎士団のせいで死んだ。そのせいで俺はずっと独りだ。犯罪組織を潰し王都下層の治安を変えたところでガスパール兄上が戻ることはない。貴様を殺したところでアルマン兄上が戻ることもない」
淡い青色の瞳を見開かせ言葉を並べたテオバルトは語尾とともに大きく息を吐き出した。
「だが俺はまだ第二部隊長だ。私怨で殺すことはしない。アンベールが破壊の家系だとしても、ここはヴァセランが築いた騎士団だからな」
だから法に則り罰する以上のことはしない。そう告げたテオバルトへ反論できる者はいなかった。
そうして騎士団長ディディエが床に崩れたところへ、書類挟みを手にしたモーリスがやってくる。
「テオバルト君、最後の会話は済んだかい?」
「恨みをぶつける以外のものがないことに気づきました」
「ははは、まあそんなものかもしれないな。その男は犯罪組織と通じた平民として処刑されることが決まった。そして騎士団長ディディエ・ボーモン。貴様は犯罪者への利益供与により騎士団長の職を罷免、騎士団を免職とする」
モーリスは落ち着いた口調で既に決まっている処分を口にした。その上で書類挟みを開かせて、竜王陛下代理の署名が書かれた書類を見せる。するとディディエは歯を噛み締めながらもうなだれた。
これが既に決定されたことだと理解したのだろう。
そうして騎士団長ディディエの処分が終わると、モーリスは第一部隊の一班ドミニク・モンレイユを見る。
「第一部隊一班は王城及び竜神殿の警護という職務がありながら、昨年の戦闘実習の折には王立学園教師の通報を聞き入れることをしなかった。そして同じく二班は王立施設の守備を人としているにも関わらず戦闘実習で危機に瀕した生徒たちを守らなかった」
「お待ちください! 闇竜が現れたなどとふざけた悪戯としか思えないではないですか!」
「それは確認業務を怠ったという自白か?」
ドミニクの反論にモーリスは疑問で返す。とたんに黙り込んだドミニクに、モーリスは引き続き二班のエミールを見た。
「二班は王立学園の戦闘実習における状況を把握していたはずだ。そして3年前には森に砂竜が現れた事を踏まえて調査もしている。にも関わらずなぜその翌年も、その次も戦闘実習に参加しなかった?」
「調査した結果、何もなかったからです。現にその翌年は現れた魔物も少量だったと報告にもあります」
「君の仕事は報告書を読むことではなく、現地で確認することだ。そもそも何もなかったとしても、君の姿が見られたなら生徒たちも安心したことだろう。現に今現在、第二部隊長が巡回してくれているおかげで王立学園の生徒たちも爆破事件による不安が薄れているとの報告もある」
「しかし我々は第二と違って暇ではありません」
「第二部隊は就業時刻が定められていない。第二部隊長は夜明け前から夜中まで仕事をしているが、昼は必ず王立学園に行っている。つまり君はそれより多忙だと言うんだな。後で君たちの就業記録と任務報告を確認しておこう」
「就業時刻が定められていないって何なんだ!」
モーリスの反論にエミールが叫んだ。以前も聞いたようなその叫びにテオバルトは真顔で首を傾げる。
「平民ごときいくらこき使おうと構わないという差別意識の現れだろう? だがこの問題は貴様の無能さではなく、闇竜を放置したという部分だ。闇竜は放置すれば竜王陛下を必ず殺す。そういうモノだと知りながら放置した貴様らは国家反逆罪に該当する。つまり伯爵家がこの瞬間にふたつ消えるということだ」
「待ってくれ! 待ってください! そんなことが」
「闇竜とはそういうモノだ。この国で最も尊い青い鱗の方々をお守りするため俺たちは存在する。その役目を担わないならば伯爵家ごとき消えてもらって構わない。無能な味方ほど厄介なものはないからな」
既に目の前の第二部隊長がアンベール侯爵家の人間だということはわかっている。だからこそ第一部隊の隊長ふたりは罵倒もできず無理だと叫ぶしか無かった。
「テオバルト君、ドミニク・モンレイユの家は数ヶ月前に子が生まれたらしい。この場合に国家反逆罪の処罰はどこまで及ぶのだろうか」
「事案発生時に生まれていない存在は処罰から逃れられます。しかし伯爵家は取り潰されることになるので、その赤子は孤児院に行くことになります」
「なるほど。孤児院の予算配分を組み直しておいて幸いしたということだな」
「デュフール侯爵家は良い仕事をしますね」
モーリスはその孤児院の予算に関する書類をユルリーシュ・デュフールへ渡した本人である。そのためテオバルトの他人へ手柄を渡す姿勢に笑った。
だがそれだけで、モーリスは、隊長ふたりに処罰が下された書類を見せることはしない。
「さて、処罰は下されたが、反論ある場合は正式な手段を取って訴えてくれ。官僚に言いにくい場合はおれか、新しい騎士団長殿へ言ってくれても構わない」
新しい騎士団長という単語に処罰を受けた3人だけでなく、他ふたりまで驚いた顔を見せる。騎士団長ディディエが罷免と免職となるのは決定済みだ。だがそうすぐに新しい騎士団長が見つかるなどと誰も思っていなかった。
空の上を歩くという最高の体験をしたモーリスは、植物に縛られたままの6人を連れて会議室に戻る。そうして室内に戻るとすぐにテオバルトが今回罪に問われていないふたりの拘束魔法を解いた。
それを尻目に、モーリスは会議室の中で待っていた壮年の男性へ近づく。
「我々の願いを聞き入れていただき、ありがとうございます」
「復職するとは言ったが、最初の仕事が壊した壁の報告ってのは聞いてないぞ」
新しい騎士団長となる男性は、元騎士団長ディディエと年齢がさほど変わらない58歳だ。しかし年齢を感じさせない鍛えられた体格と灰色の頭が威厳を感じさせる。
そんな相手にテオバルトは真顔のまま外を指さした。
「騎士団内の風通しが良くなりますね」
「物理的に良くしてどうすんだよ。まあけど、バカどもをわからせるには派手なほうが良いか。わからない時は捨てられるもんな」
「近年は海に不法投棄すると罰せられるんですよ」
「じゃあ無理か」
テオバルトから不法投棄扱いされても、ディディエは文句ひとつ言わなかった。むしろ新しい騎士団長らしいその男性に目も向けないまま震えている。
「それで、3人が有罪で2人は無罪なんだよな? 第一部隊は無罪のほうの2人で回してくことになるのか」
「隊長がいなくても現場でなんとかなりそうですが、そうなります」
「なるほどな」
下はしっかりしてるのかとつぶやいた男性は、第一部隊の三班と四班ふたりを見やる。
「今日の昼から騎士団長に任じられたロシアルト・イル・リズロットだ。よろしくな」
「末永くお願いします!」
騎士団長の挨拶に三班のジスランが硬直し、四班のフレデリクは真っ赤な顔で頭を下げた。そのそばで今も縛られているエミールが「結婚になってるよ」とつぶやく。
とたんにフレデリクは両手で顔を塞ぎ絶叫した。
その様子を眺めたモーリスは笑顔のまま新しい騎士団長へ書類挟みを渡す。
「ご結婚おめでとうございます。これは前騎士団長ディディエ・ボーモンへ下された辞令書です」
「わかった。けどごめんな、初対面のやつと結婚はできないんだ」
「それは残念です」
「え……」
フレデリクは失恋ですねとモーリスが告げるそばで、いまだ拘束されたままの一班ドミニク・モンレイユが目をしばたかせた。
「我々の辞令書は……」
「グレイロード帝国騎士団の手によって闇竜も倒され、被害も防がれた。その状況で国家反逆罪が成立するわけもない」
戸惑うドミニクへ、テオバルトが真顔のままさらにと告げて拘束魔法を解いた。
「この部屋の外で行われた会話は表に出ない。貴殿らに向けられた国家反逆罪の話は、あくまで可能性の話だ。実際に闇竜が王都へ迫り民の目に触れていたなら国家反逆罪は成立していた。無能で怠慢な人間が指揮官をしているということは、それ自体が罪だからな」
そこまで告げたテオバルトは仕事は終わったとばかりに手袋をはずす。そのとたん、新騎士団長の無骨な手に思い切り頭を撫でまわされた。
その様子を眺めながらモーリスは小さく笑う。これからは空だけを見るのではなく、かつて誰よりも高く飛んでいた『生きた伝説』の下で学び直そうと思いながら。




