110. 音楽祭 前編
風の月中旬に行われる音楽祭は、生徒会の主催で大講堂にて行われる。 年に一度行われる芸術の祭典でもあり、芸術クラスがその技術を披露する場として大盛況だった。
だが今年は例年と違い生徒会が参加募集を開始しても誰も申し込まない。そのため生徒会長であるアドリエンヌが教師に問いかけたところ、芸術クラスの人間は3学年すべてで音楽祭のボイコットを決めたという。
原因は「令嬢が男を差し置いて生徒会長になった」ためである。
だがそもそもこの芸術クラスは、芸術面で素晴らしい才能を持った生徒の集まりというわけではない。学力面で落ちこぼれ最下層のEクラスでも対応できない生徒が、退学か二択で入れられる場所である。
勉強はできなくとも、芸術センスが認められれば結婚に困らない。学力がなければ貴族の夫人になることはできないが、愛人になることはできる。それは貴族だから成り立つ最低限の救命処置だ。
そして音楽祭も本来であれば、そんな芸術クラスが実績を作るための催しだった。
だが芸術クラス側からそれに参加したくないというのならば仕方ない。そのように考えたのはリリだった。
なによりリリは、最愛であるお姉様がたを苦心させる存在など認めていない。
だからこそリリは芸術クラスを殺すことに決めた。もちろん物理的に殺すのではなく、その存在価値を殺すだけだ。
芸術クラスがいなくても音楽祭は成立すると、広く学生たちに知らしめれば良い。むしろ芸術など貴族の子女ならば誰もが嗜むものなのだ。
それに学生たちの音楽祭を高尚な場にする必要もない。
昼休憩中、トレーニングにやってきた騎士科へリリが説明すると彼らはすんなり聞いてくれた。
「つまり芸術クラスをはぶけにして、みんなで楽しもう的なことだな」
「むしろそれアニエス隊長も出るんすか? 音楽できるイメージないっすけど」
騎士たちの言葉を受けたリリはキョトンとした顔で首を傾げる。とたんに騎士科の1年生たちは緩んだ顔で可愛いとつぶやく。
「近衛騎士なのだから楽器演奏だって当然こなせるわ。でもそれ以前にアニエスはディラン公爵家の長子としてなんでもできる人なのだけど」
「え?」
「あれ? ディラン公爵家ってあの帝国近衛騎士団長様の???」
「え? おれら死ぬ?」
アニエスの素性を知った騎士科の生徒たちが唐突に戸惑いざわめき始める。そんな空気を眺めていたディートハルトは真顔で隣にいるアニエスを見た。
「敵の怖さも知らないでケンカ売るなよと言いたい」
「そうだね。そんな頭もないゴミを駄犬に格上げすべく躾けているところなんだよ。でも彼らは愚かだけど、まだ魔女の妙薬を受けていない」
「なるほど。芸術クラスは普通科の下位クラスとして受けてるってことだ。あのクッキー、気持ち悪い魔力ついてたからな。あんなものを食える時点で魔力の探知すらできない無能なんだけど」
「ちなみにその魔力探知とやら、可愛いラピスラズリはできるのかな?」
「毎晩がっつり教え込んでる。けど不思議なことにクロードのほうが上達が早い。魔力循環を覚えながらノリで探知できるようになるっていう脳筋の強みがすごい」
ディートハルトとアニエスが語るそばで、脳筋扱いされたクロードが笑う。
「とりあえずトレーニングやろうぜ。つーか、学力云々で忘れられがちだけど、芸術関係は上位貴族のほうが強いよな。ちなみにおれは小さい頃にクレールさんとシオンさんの二重奏を聞いたことあるよ。アランさんがいないから言うけど、あの美男美女の二重奏はヤバい。神々しいし美人だしで、舞台の上がキラキラしてんの。ただシオンさんの体調がアレで一度しか見たことなかったんだけど」
シオンは子供の頃から身体が弱く寝込みがちだった。今はその原因も、シオンが魔力を持たないことにあるとわかり対策も取られた。おかげでシオンも死ぬことなく学園に在籍できている。
だが幼い頃はその一度きりの演奏が限界だったのだろう。
「ではわたくしから、シオン・トリベールとクレールお姉様にお願いしてみるわ」
「うん、そこは本気で楽しみにしてる。ただ一番それを見たがってたベルナールさんがいないのが寂しいくらい」
「あら? ベルナール・ローランは音楽もたしなむの?」
「そっちっていうより、シオンさんに元気になって欲しいってのが強かったと思う。だから砂糖菓子ちゃんにはアランさんの独占欲を倒して、クレールさんを奪ってきて欲しいとこ」
「ええ、軽々と倒して差し上げるわ」
中庭で男子生徒たちのトレーニングが始まると、リリはひとりその場を離れる。
そもそもこの国へ留学生として来た時のリリはひとりだった。その後で様々なことがありディートハルトやアニエスが来てくれたが、常に共にいるわけではない。
いたら当然頼もしいが、いなければいないで気楽なものだ。なにより所作や言動についてアレコレと言われることがない。
軽やかな足取りで校舎に入ったリリは階段を進み2年生の区画に向かう。琥珀の髪を揺らして歩くリリは周囲の目を奪い、可愛いとささやく声も飛ぶ。だがリリはそれらの声も、そして廊下の片隅にいた水色頭すら視界に入れなかった。
そうして2年Sクラスにたどり着くと、読書をするクレールの姿を見つけて笑顔を輝かせる。とたんに教室内の男子生徒たちが可愛いと叫んだが、やはりそちらには目も向けない。
だがその声にアランが気づいて、駆け込むリリに目を向けた。
「お姉様!!」
「わぁ、リリいらっしゃい」
立ち上がったクレールは嬉しそうに腕を広げてリリを招き入れる。そうしてリリの抱擁を受け止めたクレールは改めて要件を問いかけた。
するとリリは砂糖菓子の呼び名にふさわしい甘い笑顔で言い放つ。
「芸術クラスを殺すため、お姉様に舞台へ出ていただきたいの」
「もちろん、その話を持ち込んだのはこちらなのだからお手伝いはするわ。でもわたしに声がかかるということは、どなたかから二重奏の事を?」
「クロード・ヴァセランから。幼い頃に一度だけ見たと前置きして、美男美女の二重奏は神々しいものだったと」
「あらあらまぁまぁ、クロード君にはそう見えたのね。でも事実としてあの日の演奏会では、わたしたちは3位だったのよ」
「そうなのですか? ベルナール・ローランももう一度見たいと言うほどだったのに」
思わぬ事実に驚いたリリは、ついそばに立つアランを見上げた。
「もしやこの学園にいない年増が上位の賞を?」
「2位はアドリエンヌさんで、1位はリゼット・デュムーリエだった。そりゃあアドリエンヌさんは完璧な令嬢なんだから演奏面も努力してるさ。けど生徒会長だから出られないんだよな」
「それは贔屓と言われるから?」
「そう。確実に高い評価を受けるし、それだけの実力があるけど認めないやつは認めない」
「ではその評価方式を変えましょう」
「は? いや、これ毎年学園長たちが厳選な審査をしてっていう伝統行事なんだけど」
だからこそ落ちこぼれな芸術クラスの連中も、それなりの社会的評価を得られるのだ。そう語るアランの目の前で、リリはにこやかに微笑む。
「伝統を名乗る救済処置をみずから捨てたのは愚か者共だわ。そんな気にかける価値もない路傍の石などのためにルールを保つ必要もないのだし。なによりわたくしはお姉様がたの演奏が見たいのよ」
「そこまで言うと潔いな。けどルールを変えるにしても学園長に訴えるのか?」
「いいえ? だってこれは生徒会が主催する生徒たちのための催しなのよ? 生徒会が広めてしまえばいいのよ」
「ルール変更しますって?」
「この音楽祭は観客の投票により評価が決まる楽しいお祭りにするの。主役は舞台にあがる者共だけれど、観客はそれを聞くだけでなく好きな相手に投票できるのよ」
「それ、おれはクレールに1000票くらい入れても良いか?」
「その場合は、シオン・トリベールとの二重奏に1000票入れることになるわね」
「無理過ぎる!!」
他の男との二重奏は耐えられない。素直に独占欲を吐き出すアランに、クレールが嬉しそうに笑う。そんなふたりを見上げたリリは、ついでとばかりに教室内にも顔を向けた。
「次の音楽祭はあなたたちも投票側として参加できるのよ。それを楽しそうだと思うなら手を貸してくださいな」
学園の砂糖菓子から頼みを向けられた2年生Sクラスの生徒たちは顔を見合わせながらも、それぞれ手をあげ同意の声を上げていった。
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生徒会による参加者募集から1か月がたち、風の月の中旬になると校舎内はクラスごとに自由に飾り付けられていた。それらは音楽祭を控えて学生たちがお祭り気分を楽しむために行ったことだが、生徒会から学園側へ許可は取ってある。
そうして例年とはまったく違う空気の中、音楽祭当日を迎えた。
さらに例年と違い、音楽祭の参加者たちは事前に発表されている。その上で生徒会からの告知として音楽祭ルールが新たに発表された。
今年度の音楽祭における評価は、会場に入った全員に配られる投票用紙により決められる。
評価基準は自由で、演奏技術だけでなく聞いていて楽しかったなどの理由で決めても良い。もちろん好きな相手に投票することも許される。
なぜならこれは音を楽しむ祭りだからだ。
そんな生徒会の発表は当初こそ賛否が別れた。中には告知板の前で「音楽に対する冒涜だ」と声を上げる生徒もいた。
だがその場に通りかかったらしい砂糖菓子が首を傾げる。
「音楽の代弁者になったつもりのおまえは舞台にあがるの? 能書きはおまえの音を聞かせてからにしてちょうだい。それよりこのお祭り、スイーツは出るのかしら? わたくし投票よりスイーツが欲しいわ」
中等部時代は小さく愛らしかった砂糖菓子も、すらりと背が伸びて美しい美少女に成長している。それでも変わらない言動に周囲の男子生徒たちはスイーツと叫びながら走り出した。
そんな紆余曲折を経て初めての試みとなる音楽祭は冬の晴れやかな空の下、こちらも誰かに飾り付けられた大講堂で開催される。
広大な高等部の敷地に建てられてた大講堂は、主に入学式や卒業式で使われる格式高い建物だ。しかしその日は格式を捨てたように飾り立てられ、玄関には誰かが制作した『砂糖菓子ちゃんにスイーツを』という看板が立っていた。
生徒が楽しげに大講堂へ入っていくのを尻目に、看板の前に立った年配男性は片眼鏡を押し上げる。
「いやはや、楽しげな催しになってしまいましたな。このような形になってしまって本当によろしいのですか?」
音楽祭では賞状だけでなくそれなりの報奨も与えられる。それら必要経費はすべて寄付で賄われていた。
だからと問いかけた学園長の目の前で、ローラン侯爵は無表情のまま肩をすくめる。
「生徒が楽しければそれで良い。ああそうだ。以前息子から、食堂の菓子職人について問われたことがあったのだ。王立学園側はかつて王妃候補に忖度して食堂の中身を変えていたのかね?」
「ああ……ええ、まぁ、そうですね。しかしそれはルヴランシュ侯爵家からの指示でございましたよ。『王妃候補の方々に気遣いをと』と」
ローラン侯爵は学園長の発言に眉をひそめた。大講堂の中では既に演奏が始まろうとしているらしく、拍手と喝采が外まで届いている。
だがローラン侯爵は大講堂の中へ入ろうとしない。
「ルヴランシュは王妃候補を出していないが、なぜそんなことを?」
「お手紙での指示でしたので、その真意まではわかりませぬ。しかしルヴランシュ侯爵様もご息女がおりますから同じ娘を持つ身として考えたのやもしれませんな」
「己の娘が王妃候補に選ばれなかったと憤慨していた愚か者が、わざと他家の娘を忖度せよと命じる。つまり安易な嫌がらせか」
「嫌がらせなのですか? そのための寄付までいただきましたのに」
「食事は子供らの心身の成長に必要な要素だ。どこの侯爵家の頼みだろうと聞いてはならん。そこで平等を欠いては彼らの成長を妨げる」
「かしこまりました。ではそろそろ上へ参りましょうか」
既に演奏は始まっているからと、学園長がローラン侯爵を促して大講堂の脇へ進んでいく。この施設は裏口があり、そこから2階席へ行くことができた。そのため来賓などは生徒たちと会うことなく催しを観覧できる。
王立学園は竜王国が運営しているが、大部分は寄付で賄われている。むしろこの王立学園を維持することで、竜王国貴族たちは己の存在価値を示していた。ただ大半の貴族は名が残りやすい建物の建設や修繕に金を使いたがる。
おかげで生徒たちは王立学園の豪華な施設を自由に利用できるが、一方で今回のような生徒主体の催しへの予算は集まりにくかった。生徒主体であるため寄付した者の名が表に出ないためだ。
ローラン侯爵がその問題を知ったのはつい6年前。中等部に入った長男が夏季休暇で帰宅するなり問いかけてきた時だった。
知識しか興味がないと他人に見られがちな息子は、中等部1年生なのに高等部生徒会について問いかけてきた。
生徒会は生徒の代表だができる事が少ない。生徒会主催の催しなど地味なもので、食堂を使ったマナー講義やその場で音楽を披露する程度のものしかない。それをやることに意味はあるのか。そもそも侯爵家の人間が生徒会をやるとしても、予算が無ければどんな才覚も発揮できない。
そう語った息子はおかしいとつぶやいた。そもそもカリーヌ・アンベールという才女が生徒会長になれないのもおかしい。それに彼女の語る音楽祭はとても楽しいものなのに、予算がないからできないらしい。ではその予算とはどこから出るのだろうか。
珍しく長々としゃべった息子にローラン侯爵は一言で返してやった。
「我ら以外に誰が金を出してやるというのか」
可愛い息子の長ったらしい文句を潰したローラン侯爵は、翌年から多額の寄付を生徒会に押し付けた。人に興味を持たないと思われがちな息子は、実は誰よりも人を見ている。ただ見た瞬間に相手の価値を判断するだけだ。
そしてそんな息子が才女と判断したカリーヌ・アンベールは、アンベール侯爵家の長女だった。息子より4歳年上で高等部ではずっとSクラスにいたらしい。そんなことをすれば父であるアンベール侯爵から叱られるだろうに、何が彼女をそうさせたのか。
しかも彼女は王立学園を卒業してすぐ国を出て行ったらしい。アンベール侯爵は出来の悪い娘だから国外へ嫁がせたと言っていたが、それも事実かわからない。
だがその答えは4年後に、息子の卒業レセプションで手にした。
帝国宰相となった兄が作らせた、ミリュエル・バルニエの衣装などを抱えた帝国の女騎士たち。彼女らはその日、ミリュエル・バルニエの着替えや化粧なども手伝ったという。伯爵令嬢にその手で触れることを恐れず、かつ竜王国風の化粧を見事にほどこせる。そんな有能な騎士たちは間違いなくアンベール侯爵家の姉妹だった。
次男のマティアスが言うには、彼女らは帝国騎士団の第一部団精鋭部隊に所属しているらしい。そして更に戦闘実習では宰相の指示で王立学園の生徒たちを救ってくれている。
そこまで知ったローラン侯爵はなるほどとつぶやいたものだ。息子が才女と評価したアンベール侯爵家の長女とその妹は、息子が歩む道の先を進んでいたのだから。
2階にある特別席から例年とは段違いの音楽を聞きながら思案していたローラン侯爵は、拍手喝采と黄色い叫びに視線を向けた。
はるか階下にある舞台には、男性なら浮名を流しそうな美形の学生が立っている。
先程まで専門職と疑うほどの演奏を聞かせていたのは帝国の近衛騎士だが、彼女は本当になんでもできるらしい。その辺りもあの息子が、己の目標と定めるに値する人物ということなのだろう。
ただ女子生徒たちから黄色い声を浴びて、それに笑顔で手を振り返すあの近衛騎士は本当に少女に見えないから恐ろしい。
少なくとも竜王国の近衛騎士は、あそこまで洗練されていないし万能でもない。
学生たちはわかっていないようだが、あの近衛騎士はその存在ひとつで竜王国に対して帝国との差を見せつけているのだ。竜王国の至宝たるセレンティーヌを守る騎士ならば、そこまでできなければならないと言うかのように。
そんな近衛騎士の次に現れたのは、高等部の生徒にしては体格に優れた男子生徒だった。軽い足取りで舞台の袖から中央にやってきて、観客の男子生徒たちから名を呼ばれて手を振り返す。
女子生徒よりも圧倒的に男子生徒から慕われているらしい彼は、その体格に反して陽気で子供じみた学生らしい。
卒業レセプションでも彼は明るく気安い態度で様々な卒業生たちと「思い出作り」をしていた。そして今は高等部1年生として学年を問わず多くの男子生徒に慕われているようだ。
そんな彼は演奏を始めると、一転して別人のような超絶技巧を見せつけてきた。その技巧で観客席を黙らせた後に、竜王国民なら誰もが知るような民謡などわかりやすいものを聞かせる。それは彼の性格を表したような選曲だった。
なにせ彼は3年前、学内試験中に魔力測定器を破壊するというインパクトを残して帰国した問題児だ。その圧倒的な魔力量の記録は未だ誰にも破られていないとも聞く。
そんな彼は、今回はその技術力の高さで聞かせにきていた。しかも異国の人間が竜王国の曲で勝負に来るのは自信の表れか。
耳に心地よい音楽が響く中で、隣の席にいる学園長が「今年は彼が1番ですかね」と感心そうに言う。つまり彼の技術力が王立学園芸術クラス全員を遥かに超えていると、学園長が認識したということだ。それだけでも彼が出た効果はあっただろう。
だが演奏が終わって本人が舞台袖へ消えてもやまない拍手喝采は、次の出演者が出たことでかき消える。
空気が重く沈む中、現在3年生である侯爵家の子息3人が舞台に現れてそれぞれ楽器を手にする。
ピアノ演奏がひとりと弦楽器がふたり。そしてそんな3人を背にして舞台に立った水色頭の女子生徒は「ライブをしまーす」と高らかに告げた。
ライブという見知らぬ言葉もそうだが、侯爵子息3人に演奏させる贅沢なさまは異様の一言だ。だがその異様さを受け入れるように、観客席の半数から熱狂的な声が上がる。むしろ遅れてやってきたように、大講堂の外から騒がしい観客たちが入ってきては舞台の前に集まり騒がしく応援する。
ただその盛り上がりに戸惑う観客もいることから、魔女の妙薬とやらの出回る範囲が読み取れた。
そうして始まった「ライブ」とやらは、よく言えば前衛的で革新的なものだろう。だが歌声が下手過ぎる上に音響用の魔法武具が壊れたように大音量過ぎて騒音以外の評価ができない。
しかも後から講堂に集まった生徒たちが立った状態で盛り上がっているため、観客席に座る生徒たちは舞台を見られなくなっている。そんなマナー違反が横行する舞台でも成り立つのは魔女の妙薬のせいなのだろう。
くだらないものを見せられたローラン侯爵は嘆息とともに舞台から視線を背ける。
すると観客席の最後尾近くに次男を見つけた。息子はなにやら女子生徒に話しかけられ立ち上がっている。そうして次男は大講堂を出ていくが、女子生徒のほうは出ていくことなく立ち見客の中に紛れて楽しげに話し始めた。その時点で魔女の妙薬を受けている可能性は大きい。
「学園長、私は少し離席するが、すぐに戻ってくるからここで見ていてくれ」
声をかけて席を離れたローラン侯爵はため息をこぼしながら階段を降りた。次男を救うつもりはないが、何が起きるか程度は見たほうが良いだろう。




