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エピローグ
エピローグ:光の種子
時は、測る者を失って久しい。
だが、星環はいまも静かに回っている。
反転した空と海の境で、微かな粒子のざわめきが生まれた。
それは風ではなく、記録の欠片。
かつてアリュシアが残した祈りが、微光の波となって漂っていた。
その波の中で、ひとつの形が芽吹く。
幼い声が、はじめて世界を名づけた。
「ここは……光の庭?」
誰もいないはずの空間で、星環がかすかに応える。
呼吸するように、光が膨らみ、縮む。
それは誕生の合図。
その子の瞳に映るのは、終焉を越えた世界――
祈りが物語となり、記録が命を育む場所。
アリュシアもイサムも、もう名を持たない。
けれど彼らの声は、この呼吸の中にある。
やがて、その子は空に手を伸ばした。
指先からこぼれた光が、星環の外縁を走る。
遠い宇宙のどこかで、またひとつ、新しい祈りが生まれた。
――すべての始まりは、静寂の中の息づかい。
そして物語は、再び、光へと還っていった。
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