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肩書きなき戦い、一粒の種から





国際開発銀行の主任顧問官という輝かしい肩書きも、GFETの巨大な予算も、陽菜の手からはすべて消え去りました。残ったのは、公式な立場を追われ、国際手配に近い監視下に置かれた、ただの一人の女性としての自分だけでした。




しかし、ナブアの隣接地区で、子どもたちが浄化された水を飲み、少しずつ笑顔を取り戻していく姿を目の当たりにしたとき、陽菜の心から迷いは消えていました。




「地位がなくても、予算がなくても、私の手と足は動く。私にできることを、ここから始めるわ」




1. 現場の教育者として




陽菜は、破壊された教会跡の小さなスペースを借り、**「青空教室」を再開しました。教科書もノートもありません。彼女は地面に棒で文字を書き、子どもたちに語りかけました。




「皆、よく聞いて。水は命よ。でも、この水を守るには知恵が必要なの。どうすれば汚さずに済むか、どうすれば限られた食べ物を分け合えるか。それを一緒に考えましょう」




彼女が教えるのは、高尚な経済学ではなく、「生き延びるための知恵」と「人を思う前向きな心」**でした。




2. 「一家族一農園」の提言




陽菜は、日本で学んだ**「もったいない」の精神を、現地の農業に持ち込みました。大規模な開発が止まった今、彼女は村人たちに、家々の裏庭でできる小さな家庭菜園を勧めました。




「大きな工場や農場がなくても、私たちは自分たちの食べる分を、自分たちの手で作れるはず。余ったものは捨てずに、隣の人と分け合うの。それがフードロスのない世界**への第一歩よ」




彼女自ら土にまみれ、ラシードと共に荒れ地を耕し、一粒一粒、種を植えていきました。




3. 草の根の「叫び」




通信手段を制限された陽菜でしたが、東城が密かに残してくれた暗号化された旧式のスマートフォンを使い、現場の**「真実」**を発信し続けました。




「私は今、資格も資金もありません。でも、ここには水があり、学びたいと願う子どもたちがいます。世界が私を否定しても、この子たちの命は否定させない。私たちは、捨てられるはずだった食料の代わりに、希望を育てています」




この陽菜の姿は、SNSを通じて、かつての彼女の支持者や、日本でフードロス問題に取り組む若者たちの心に、静かに、しかし深く刺さり始めました。




「星野陽菜は終わっていない。彼女は、**『制度の正義』ではなく、『命の正義』**を貫いている」




ラシードは、泥だらけになって働く陽菜の横顔を見て、静かに言いました。




「ホシノ、お前は以前よりもずっと強い。肩書きという鎧を脱ぎ捨てて、本当の光の巫女になったみたいだ」




陽菜は微笑みました。




「そうね。地位に守られていた時よりも、今の方が、子どもたちの声がよく聞こえる気がするわ」

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