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権力構造の抵抗とIDB総裁の壁





陽菜と東城隼人の「現場の真実に基づく経済学」は、国際開発銀行(IDB)の会議で決定的な勝利を収めた。




陽菜の「フード・フォーカス開発(FFD)」モデルは、倫理的にも長期的な経済性においても、資源採掘モデルを上回ることが証明され、採択に向けて最終段階に入った。




闇の勢力のロビイストたちは、偽のレポートが破られたことに憤慨したが、彼らが最後に頼ったのは、IDBの権力構造そのものだった。




会議の最終日、陽菜の提言に賛同する多くの参加者からの採択の動議が上がった直後、IDBの総裁が突如、壇上に姿を現した。彼は、これまで中立を装っていたが、その背後には、闇の勢力の資金提供者である巨大な多国籍企業の影があった。




「皆様。星野顧問の情熱的な提言と、その倫理的な視点は評価します。しかし、IDBは感情ではなく、国際的な安定に基づいて行動しなければならない」




総裁は冷徹な口調で語り始めた。




彼は、陽菜の提言を直接否定するのではなく、その実現を不可能にするための論理を持ち出した。




「FFDモデルは、ナブアのような小規模な地域では成功するかもしれない。だが、国際的な機関がそのモデルを適用するためには、数十億ドル規模の資金保証と、リスクをカバーするための法的・制度的な枠組みが必要だ。現時点では、その資金を提供する保証国がなく、国際的な合意もない。よって、この提言は、**『夢』としては素晴らしいが、『実行可能な政策』**としては認められない」




総裁の主張は、国際機関が持つ巨大な権力と官僚主義という、最も硬い壁だった。彼は、陽菜の**「行動する勇気」を、「実現能力のない理想論」**として葬り去ろうとしたのだ。




東城隼人は、すぐに陽菜に耳打ちした。




「総裁の言うことは、規則上、完全に正しいです。彼は、資金という名の壁を築きました。私たちには、その数十億ドルを保証できる国や組織がありません」




陽菜の人を思う前向きな心と知恵は、この巨大な資金と制度の壁に直面した。彼女が命懸けで勝ち取った提言は、最後の瞬間に、**「資金がない」**という冷酷な現実に阻まれようとしていた。




陽菜は、再び壇上に上がった。




彼女の**「叫び」は、今、経済大国と権力構造**が生み出した、資金と制度の壁を打ち破る必要があった。




「総裁。あなた方は、数十億ドルの**『資金保証』がなければ、このモデルは実行不可能だと言う。しかし、私は問いたい。あなた方が毎年廃棄させている、先進国のフードロス**の総額は、数十億ドルを遥かに超えているのではないですか?」




陽菜は、東城が計算した最新のデータを提示した。




「私たちが毎年捨てている食料の経済的価値は、あなた方が要求する保証資金を賄うことができる。私たちに必要なのは、資金ではなく、食料を捨てるという倫理を、命を救う倫理へと変える**『共感と行動の勇気』**です」




陽菜は、会議の参加者、特に経済大国の代表たちに、直接訴えかけた。彼女は、**「捨てる食料の価値」を、「飢える子どもたちの命の価値」**に変換するよう求めたのだ。




「私たちが、このフードロスを削減し、その分の資金をFFDモデルの保証に充てる国際的な枠組みを今、ここで立ち上げましょう。捨てる食料の価値を、未来への投資に変えるのです!」




陽菜の**「叫び」は、フードロスという、先進国にとっての倫理的な弱点を突き、総裁の築いた資金の壁**を打ち破る、大胆な戦略だった。会議は、陽菜のこの新たな提案の実現可能性を巡り、再び緊迫した議論へと突入した。

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