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悲しみの証言 正当性の攻防





国連会議は、陽菜の提唱する「地平線モデル」の是非を巡り、激しい論戦の場となっていた。陽菜が、支援資金の透明性と地元調達の経済的・倫理的優位性をデータで証明するたび、ロビー担当者たちの焦りは募っていった。




会議の休憩中、東城隼人が深刻な顔で陽菜に近づいた。




「星野顧問、彼らが動き出しました。彼らが雇った広報チームが、あなたの『グローバル・ハート』における最初の行動、つまり機密情報を不正に持ち出した行為を、国際法廷に訴える準備を進めています。彼らの狙いは、あなたの提言の法的・倫理的基盤を崩すことです」




闇の勢力は、陽菜の**「目的が手段を正当化するのか」**という、最も難しい倫理の矛盾を突いてきたのだ。




もし彼女の過去の行動が違法と判断されれば、彼女の提言はすべて「犯罪者の主張」として無効化されかねない。




陽菜は、一瞬静かに目を閉じた。彼女は、この攻撃が来ることを予期していた。




「彼らが攻撃するのは、規則です。私が防御するのは、規則の裏側にある悲しみです」




午後のセッション。陽菜への反論の時間が設けられた。国際的な企業弁護団を率いる弁護士が立ち上がり、陽菜を詰問した。




「星野氏。あなたは、組織の規則と国際的な情報保護の協定を破り、機密情報を持ち出して世間に公開しました。これは、目的が正しくとも、手段としては違法行為ではないのですか? 違法な手段で得た情報に基づいて、世界の支援体制の変更を要求する正当性があなたにあるのでしょうか?」




会議室全体が息をのんだ。これは、陽菜の存在そのものへの攻撃だった。




陽菜は、その質問に対し、データや法的な反論ではなく、感情と倫理で対抗することを選んだ。




彼女は、東城に指示し、大型スクリーンに一枚の写真を映し出した。それは、ムスタファ医師のキャンプで、栄養不良のために命を落とした幼い少女の写真だった。彼女は、陽菜が不正を告発する前に、横流しされた治療食が届かず、亡くなったのだ。




「弁護士の方。あなたが問いかけているのは、規則と法律です。私が問いかけるのは、命の倫理です」




陽菜は静かに、しかし、その声は会議室の隅々まで響き渡った。




「私が規則を破ったのは、その規則が、この写真の少女、マリアの命を奪う共犯者になっていたからです。彼女の命は、規則を守るために失われました。失われた命のほとんどは、不正による支援物資の遅延が原因で、予防接種や栄養治療を受けられず、本来は防げたはずの死です」




陽菜は、スクリーンに、ラシードのキャンプで再び教育を受け始めた子どもたちや、漁網を修理する小さな手を映し出した。




「私が命懸けで持ち出した情報が、闇の構造を崩し、これらの子どもたちの未来と行動する勇気を取り戻しました。規則の遵守と、命の救済。どちらに正当性があるか。私は、沈黙を拒み、命を選んだ。この会議室にいる皆さんは、どちらの側の規則と倫理を守るために、ここに来ているのですか?」




陽菜の**「悲しみの証言」**は、会議室の冷徹な論理を打ち破った。各国の代表や、良識ある支援団体は、規則の遵守よりも人命救助の倫理が優先されるべきだと感じ、陽菜側への支持を強めていった。




しかし、闇の勢力のロビイストたちは、この感情的な訴えに怯むことなく、陽菜への訴訟の動きを加速させていた。陽菜の戦いは、感情と規則の狭間で、より深く、複雑な展開を迎えることとなる。

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