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国連会議室の静かなる戦い





陽菜は、フリーの「世界倫理監査官」として、ニューヨークの国連本部で開催される**「グローバル開発と倫理的支援に関する特別会議」**に招かれていた。彼女の隣には、主任補佐となった東城隼人が、冷静沈着なプロの顔で座っていた。




彼女が提唱するのは、自らが現場で成功させた




**「現場完結型・透明性連鎖(地平線モデル)」**




を、国際支援の標準とするための画期的な政策提言だった。その核となるのは、支援資金の追跡可能性の徹底と、支援物資調達における地元コミュニティの優先という二つの柱だった。




陽菜が壇上に立つと、会議室の空気は一変した。各国政府の代表、大手NGOのトップ、そして彼女の告発で大きな打撃を受けた国際的な大企業のロビー担当者たちが、複雑な視線を送っていた。




「私たちは、毎年膨大な資金を貧困や医療格差の解消に投じてきました。しかし、紛争は終わらない。なぜか? それは、私たちの『善意』が、**闇の構造を潤す『ビジネス』**の一部になっていたからです」




陽菜は、感情的になることなく、淡々と事実を提示した。彼女の提言は、特に先進国のロビー担当者から、強い反発を受けた。




某経済大国の代表は、陽菜の提言に対し、冷ややかに反論した。




「星野氏の提言は、非営利セクターの倫理的には理解できます。しかし、国際的な物流や大規模なサプライチェーンは、効率とコストの観点から、既存の大企業に頼らざるを得ない。地元調達を優先すれば、コストが増大し、かえって食料問題の解決が遅れる」




この反論は、「効率」という名の裏に隠された、既得権益を守るための常套句だった。


陽菜は、東城が瞬時に提示したデータに基づき、即座に反論した。




「失礼ながら、効率とコストの問題ではありません。既存のサプライチェーンは、物資の滞留や、武装勢力への横流しといった**『非倫理的なコスト』を発生させ、結果的に紛争を長引かせ、支援を無効にしています。私たちの『地平線モデル』は、地元調達により、フードロスを削減し、被災者の貧困を緩和し、さらにコミュニティに行動する勇気**を与えることで、長期的に見てコストを大幅に削減することを証明しています」




陽菜の論理は完璧だった。彼女は、倫理的優位性だけでなく、経済的な優位性でも相手を打ち負かそうとしていた。




その会議の影では、闇の勢力の残党が雇ったロビイストたちが、陽菜の提言を骨抜きにするための画策を続けていた。彼らは、陽菜が「グローバル・ハート」の機密情報を不正に持ち出したとして、彼女の信用を失墜させようと動いていた。




東城は、その動きを察知し、会議の合間に陽菜に耳打ちした。




「星野顧問。彼らはあなたの**過去の行動の『正当性』**を疑わせようとしています。彼らが次に何を仕掛けてくるか、警戒が必要です」




陽菜の戦場は、土埃のフィールドから、世界で最も洗練された会議室へと移った。彼女の武器は、現場で培った真実と、東城の持つ情報戦略。彼女の「叫び」は、今、世界の構造的な不正義に対し、具体的な制度改革を迫ろうとしていた。

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